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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
3. 運命は廻り、徐々に崩れ逝く現実
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邪神降誕



「ラインバレル!」



カナタの残した道標を辿った先には、カゲフミの姿があった。

俺の視界は涙でぼやけており、正直足元も覚束ない。そんな俺を見て、カゲフミは俺の肩を掴んで体を揺する。



「おい、しっかりしろ! 残ったのは――」



そう、カゲフミが言葉を継ごうとした瞬間、現状を察したのかすぐに口を噤んだ。

勘のいいこいつなら、俺と共に彼女()がいないだけで、彼女らがどうなったか分かるはずだ。

すると俺の肩から手を放し、こっちへ来いと手招きしてきた。



「なんだよ?」


「いいから、ここに残った荷物や装備は置いていけ。どうせ役に立たないし邪魔なだけだしな。それと俺とアンタなら装備がなくても生きれる。今は身軽にするだけを優先しよう」



カゲフミは唯一、いつも手放さなかった視覚補強の眼鏡だけを荷物から取り出して静かに眼鏡をかける。

俺も特に装備すべきものはナイフぐらいしかないため、ナイフ以外の荷物は全てここに置いていくことにした。

そして、まだ表情を暗くする俺の頭にカゲフミの手のひらが乗る。



「リアムの結界はすぐそこだ。()()()油断はするなよ」



二人称がアンタからお前に変わったことに驚愕して俺は目を丸くするも、これがカゲフミなりの俺への鼓舞なのだと理解する。

そして、「お前も」と言ったのは自身への戒めなのだろう。


とにかく俺らは霊碑街の墓地へと足を踏み入れるが、ここに溢れる瘴気は、『ラジアータ』の付近に満ちていた瘴気の濃度とは桁が違う。

カナタぐらいの仕手であっても息苦しく感じるだろうし、ミシャに至っては息すら出来ないだろう。


などと、今はもういない仲間の影が脳裏にちらつくが、そんな軟弱なままでリアムに対峙するのは自殺行為なのは先程の攻撃で俺は理解している。


なにせあのとき俺の顎を砕きかけたのは、リアムの潜在意識(ねん)である。

つまり俺は奴の本体と相対してなどいないのに、俺の肉体へと干渉してきたのだ。


その異常性はもはや語るまでもないだろう。

如何なる人間の憎悪や隙に入り込んで噛みつくその様は、まるで狩人の目を掻い潜る獣かなにかだ。


ただでさえ魔獣(リアム)は、自身の呪力1つで大勢の人間を殺している。奴が意識せずともだ。

だと言うのに、明確な殺意を以て牙を向けられればどうなるかなど考えたくもない。

なにがともあれ、そんな魔獣の前に隙を見せた末路など自明。俺は呼吸1つで気を引き締めて前へと進む。


気付けば俺の後ろにくっついてきていた『原初の災厄』(ファースト・スカージ)の姿はなく、あいつはあくまでリアムを討つのを見計らう気なのだと、そう言うことにしておく。


そして、ゆっくり霊碑街の墓地を歩いていく。

何千とある墓地は、あまりにも綺麗なまま保たれている。まるで誰かが手入れでもしていたと感じさせるぐらいに。そして、段々と濃くなっていく瘴気と憎悪。


霊碑街の墓地を歩き続けて、10分経った頃にはもう俺達の目の前には奴がいた。

黒い布切れを身に纏い、長く伸びた黒髪は乱れに乱れて、灰色の瞳には相変わらず生気がない。


だが、生気がなくとも俺達への殺意があることぐらいは、十数メートル離れている俺にでも理解出来た。

そして俺達が視線を合わせると同時に、戦火の火蓋は落とされた。


俺の隣を歩いていたはずのカゲフミは姿を消し、俺もまたリアムと距離を置く。

なにせもうカゲフミは狙いを定めており、罠を一瞬にして張り詰めた。ゆえに後はリアムを一掃すべく能力を発揮させるだけだ。


俺はカゲフミの攻撃に巻き込まれぬように、今までの共闘による経験で培った勘1つだけでカゲフミの策を読んでは回避行動に出る。



「“再誕せよ(Revival)”――“生命は根源の樹たりて(Ain Soph)、我は樹の根に陰を(Sephiroth)翳す”」



静かに殺意を込められ紡がれた詠唱と同時に、リアムへ向けて黒き弾道が何千発とも撃ち込まれる。

俺はなんとか弾丸の嵐を掻い潜ってリアムとの距離を縮めるも、奴はただ腕に抱いたなにかを自身の胸元へ引き寄せることしかしなかった。



「“噛み砕け”」



乾いた唇がたった一言そう紡いだ瞬間、リアムを襲う弾丸は全て消失する。それどころか、カゲフミが弾道に纏わせていた呪力を乗っ取っては黒い顎へと変貌させた。



「まずはそこにいる魔手を殺すか」


「カゲフミ!」



黒い顎が咆哮を上げた瞬間、俺は全身から力が抜けて一歩も動けなくなる。

しかし、まだこの場に唯一響く足音は止まない。


黒い顎は、爆速で周囲を暴れ回ってカゲフミの姿を探す。

そして顎が大口を開けてカゲフミの張った罠を片っ端から喰い千切っていくが、当然黒い顎は砂糖菓子のように原型を留めなくなっていく。


カゲフミの能力の真骨頂である根絶は俺の罪業(シェルス)以上に厄介なものだ。しかもそれはリアム相手でも余裕で通じるのは、リアムどころか俺さえも予想していなかった。


顎は徐々に原型を崩しては、残ったのは牙だけとなる。しかし、リアムは顎の再生もしなければ顎自体も動きさえ止めない。


本来であれば、忌避すべきところを何故自ら罠へ突っ込んでいくのかと違和感を覚えるが、あくまでこれらの罠は時間稼ぎに過ぎない。


たった少しでもリアムの意識を逸らせれば十分。そしてリアムの背後を取ったカゲフミがそのまま弾丸を間近でリアムの後頭部に弾丸を連射させる。

だが、地面には脳漿さえ散らばらないどころか低く枯れた声が途切れることもない。



「成程、俺並みの悪趣味もいたものだ。まぁ相応の力を得たいのなら当然の対価か」



リアムの後頭部に放たれた弾丸は全てリアムを撃ち抜いているし、現にリアムの後頭部は陥没していた。

だが、リアムの流れる黒髪からギチギチと歯を鳴らすような音が響くと、黒い牙が姿を現す。


陥没していたはずの後頭部に牙が生え、カゲフミの放った弾丸は全て板チョコレートのように噛み砕かれる。

無論、リアムはあれだけの至近距離で攻撃を受けながらも無傷だ。刹那、カゲフミはそのまま地面へと崩れ落ちる。



「カゲフミ!?」



俺はすぐさまカゲフミに駆け寄って、カゲフミの様子を見る。

突如地面へ倒れ込んだカゲフミは、()()()に体を蝕まれながら喉を引っ掻いている。

この様子を見て、俺は幾度も見て来たあの光景が脳裏に過った。



「これは、『マタ』の末期症状と同じ……?」



『マタ』に罹ると、全身が呪力に蝕まれてあるとあらゆる臓器から痛みを生じる。特に気管支が呪力に犯されると、痛みと痒みで喉を掻きむしってしまうのだ。


だが、こんな一瞬で『マタ』の末期症状に至るなどおかしいし、なによりカゲフミの呪力への耐性は常人の遥か上を越えている。なのに何故と逡巡していたときだった。



「そいつの体内には、軽く見積もって100体以上の『ゴースト』が埋め込んであった。恐らく呪力欲しさに取り込んだんだろうな。……だが、『ゴースト』への干渉が出来る俺が相手となれば相性が悪い」



つまり、先程黒い顎がカゲフミの張った罠を自滅しつつも、執拗に食い散らかしたのはそういうことだ。


リアムは一瞬にしてカゲフミの持つ呪力の特性を余さず吟味し、自身の干渉能力を用いてカゲフミを封殺した。


俺どころかカゲフミ以上の勘の冴えと場数を踏んだ手腕は、正に邪神と渾名されるに相応しい。だが、恐らくこいつの真価はこれだけに留まらないだろう。


ただでさえ、リアムという存在は未知の存在であり『血濡れの剣(ブラッド)』も彼の詳細を秘匿している以上、俺らがこんな短時間で得られる情報などなにもない。


唯一対抗策を知っているであろうカゲフミが戦闘不能となった以上、もはや詰みである。だが、そこで終わらせないのも俺の役目なのだ。



「——ふっ」



俺は一呼吸吐いたと同時に、ナイフを抜いてリアムへと特攻する。

今リアムに攻撃を仕掛けたのも、既にカゲフミがリアムの干渉能力から逃れようと抵抗しているのを確認したからだ。


ゆえにカゲフミが回復するまでに、俺がリアムの気を引くと言った戦法。

俺は脚を呪力で強化させ、距離を縮めては奴の頸動脈目掛けて刃を横に薙ぐ。


俺は呪力による戦闘で出来ることは限られているし、デメリットの方が大きい。

先程連続で犯した失態の二の舞を踏めない以上、今は呪力の一時解放すら躊躇ってしまう。だが、ナイフを用いての戦闘はならまだ話は別だ。

これで奴の首を獲れる気こそしないが、俺はナイフに自身の呪力を纏わせる。


運良くナイフの刃がリアムの体――いや、皮膚を掠れば奴は『業火の仮面』(アケーディア)の効力により自身の呪力で自壊する。そもそも俺が扱う罪業とはこう言うときのためのものだ。



「づ……ッ!」



しかし、俺が感じた手ごたえは空を裂いた感触だけ。ナイフが空を切った瞬間、俺は腕が折れるほどの負荷を手首に掛けられる。

いつの間にか俺は腕を掴まれては捻りあげられ、俺はそのままリアムに思い切り後方へと投げ飛ばされる。


ノーバウンドで飛んだ俺の背を止めたのは古びた墓石。あまりの衝撃に背骨が砕けかけるが、なんとか呪力で罅だらけの骨を自動で修復へ入るが時間がかかることは確かだ。


一方リアムは涼し気な様子で、俺の出方が読めていると余裕綽々に俺へと視線を向ける。



「しばらく動くのは難しいだろ? 骨を折るのと罅が入るのじゃ治し方が違うし、後者は治すのにも時間も手間もかかる」



まるで戦闘経験があるような口ぶりに、俺達はどうすべきか策など立てられない。

そう迷っていれば、リアムは訥々とこんなことを語り出した。



「まぁ、『ゴースト』を喰った男の方の目的は今ので知れた。だったら俺の知っていることを全て話してやるよ。真実を知った後に絶望の淵に追い詰められてそのまま死ね」


「な、にを……ッ?」



と俺が目を細めて睨みつけていれば、リアムは左腕に抱いたなにかをそっと自身の胸元へ抱き寄せる。


その何かには何重にも包帯が巻かれているが、紅い髪の毛のようなものが包帯から所々見えている。なにより、あの形はどうみても人だ。


瞬間、すり……と猫が甘えるようにリアムが抱いた人形(ミイラ)に頬を擦り合わせた瞬間、奴は目を伏せる。



「まず1つ、俺が抱くこれ(かのじょ)はかつて俺の亡くした恋人の亡骸だ。そこで悶えている男は彼女が目的だったようだが、1つ勘違いをしている。そしてその目的が知れた以上、本来ならこいつを殺すのが先だ」



そう怜悧な声でカゲフミを殺すと告げると同時に、リアムの呪力で編まれた杭がカゲフミの頭上へ顕現する。



「止めろッ!」



抵抗など叶わぬ俺が無力ながらも怒号を飛ばした瞬間、ふとリアムと俺の視線がぶつかる。だが、リアムは俺の制止など一切耳を傾けなかった。


一瞬にして動けないカゲフミは数多の呪力の杭をその身に打ち込まれ、指先を動かすどころかピクリとも動かない。


カゲフミを中心にして広がって行く赤い血溜まりもまた、彼が生きている可能性の低さを示していた。

ようやく難敵は排除出来たと安堵の溜息を吐くリアムだが、次に奴が狙うのは俺しかいない。



「俺の大事な人を凌辱しようとした罰だ。次はお前と近くをうろついてる『原初の災厄』(ファースト・スカージ)もまとめて殺してやるよ。なにせお前達がいればまた面倒な羽目になるし、そもそも俺自身がお前を気に食わないのもある」


「は……?」



と、滅茶苦茶なリアムの言葉に思わず開いた口が塞がらない。


自分の大事な人を奪われるのが嫌だから殺す?

俺が生きていると邪魔だから、気に食わないから殺す?

なんだよ、その理由は。


そんな勝手な都合は、かつてゼネルやヴァンタールが俺にしたのと似たような理由でしかないだろうがと俺は言葉を失う。



「だから、そんな理由で……もしかして、お前は……」



震えた唇から漏れた声は、もはや色んな謎が混線している。

だが、はっきりと言えることはただ1つ。



「お前か……? こんな世界を創り上げたのは?」



そう、今の世界の歪な基盤全てをこいつが生んだものならば、全てが違和感もなく合致する。


下らない理由でいがみ合って、貶して、奪って、傷つけ合う。

結果、憎悪を呪力に変えて戦う術を得る歪な業が今現在常識となっている。

そんな歪みのきっかけを作ったのがこいつならば、本当にどうしようもない人間だ。だが、リアムは意味が分からないと言うように首を傾げた。



「何を言ってる? 元から世界はこうだろう? 些細なことで憎み合って、蹴落とすのが日常で……村八分なんてどこでもやってる。例え俺がいなくたって、どこかの誰かも俺と同じ真似をする可能性はある」



すると、はぁと重い嘆息1つの後、リアムは呪力を滾らせる。



「『ナインス』は死んだか。……まぁいい、隠す必要なんてないだろうから特別に世界の真実を見せてやるよ。そしてこの世界に生きていることを悔いろ」



リアムの周囲に唸っていた呪力が水しぶきのように弾かれた瞬間、俺とカゲフミは弾け飛ばされた呪力に呑まれていく。


まるで世界の闇全てを意味するような漆黒は俺達へ真実を告げるべく、この場にあるもの全てを黒で塗り潰した。



はい。もうタイトルに悩まないと思っていたのに、またタイトルで悩みました。どうも織坂一です。


いよいよリアム君戦が始まったのですが、結構この戦いは長引きます。

しかしさすが邪神、こんなのはウォーミングアップにも過ぎないご様子……。前作のスペックとは大違いだ。その理由については次回明かされます。


にしても今回は情報量が多い上に、色々ネタバレというか前作の内容が含まれるので、詳細は活動報告にて回します。

なので、本っ当に今回の内容解説は前作のネタバレがOKな方だけにおすすめします。



⚔51話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後に閲覧を推奨します※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3167932/





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