コルド・ブランシア
改暦1072年。ある都市で1人の少女が誕生する。
彼女の名前はコルド・ブランシア。警察官を務める父と専業主婦の母の間に生まれたごく平凡な少女だった。
コルドは昔から愛嬌のいい少女で、明るく勝気な性格であり、老若男女問わず誰からも愛されていた。
無論彼女の両親も例外ではなく、コルドの両親は彼女へ惜しみなく愛情を与えた。
おかけで家族仲も良好であり、警察官であるコルドの父は妻と娘に不自由ない生活を送らせるために日々必死に働いていたのである。
正義感に溢れる父の背中を見て、優しい母と昼間一緒に過ごす穏やかな生活は、彼女が8歳の頃に無惨にも壊されてしまう。
それが『血濡れの剣』の兵士による両親殺害。
コルドは目の前で両親を殺され、そのまま『血濡れの剣』の本部まで拉致されたのである。
彼女は『血濡れの剣』の本部がある大都市・キュールに着くまでに、両親が隠していた本当の肩書きを『血濡れの剣』の兵士の口から明かされる。
コルドの両親は、どちらとも『血濡れの剣』と敵対するある組織の工作員だった。
コルドの両親は『血濡れの剣』を1度再起不能に陥るまでの破壊工作を行った後、そのまま行方をくらます。
数年後にコルドの母はコルドを身ごもり、両親の所属していた組織が斡旋した警察署にて父が警官をしていたと言う経緯があった。
当然、コルドは自身の優しかった両親がそんな惨い殺しなど出来る訳がないと真実を聞いてもなお否定した。
だが、どこかでそれはただの現実逃避でしかないと両親を殺した『血濡れの剣』の兵士はコルドを散々追い詰め、事実を突きつけた。
そして彼女はそのまま、呪力の有無を確かめるべく身体検査にかけられた。
その際、『血濡れの剣』の研究員はコルドの呪力の特性に目をつけられ、彼女は立派な工作員として育てあげられることになる。
コルドの呪力発生の発端となったのは、無論両親の殺害。
なにより、彼女が持つ同調と言う特性はあまりにも希少かつ有用性のあるものであった。
呪力を用いて異能を行使する際、特性は人それぞれ。
しかし、このときまで『血濡れの剣』どころか『聖火隊』の中で他者の呪力との同調出来る異能など発見されていなかった。
ましてや、同調だけでなく他者への干渉も出来てしまうとなると、その汎用性は異常値を誇る。
一介の使い捨ての工作員どころか『血濡れの剣』の一組織である『収集隊』の兵士に匹敵するであろうその能力を開花させられた彼女は、長年に渡り、彼らの玩具となったのだ。
呪力を用いての陽動だけでなく、暗殺術、隠蔽工作の仕方、他にもその美貌を用いてスパイとしての訓練も受けさせられた。
そして、彼女は嫌々訓練をその身に叩き込まれる日々を送って3年が経ったある日のこと。彼女は何故両親が殺されたのか詳細な理由を偶然にも聞いてしまう。
「コルドの両親は、我らが神に弓引いた賊軍だ」
その言葉を聞いて、そんなはずがないとコルドは自身の中で否定する。
あんなに優しい人達が、神様を敬わない訳がないと、ひたすら否定を重ねているところに真実がのしかかった。
「ああ。なにせ神の尖兵である俺達を受け入れないどころか、街から追い出せと指令を受けたなんてな。普通あそこまでやるか? おかげで軽く100人は死んだぞ」
この事実を聞いた瞬間、コルドの心は軋んで砕けそうだった。
両親が100人もの『血濡れの剣』の兵を殺したこと。ただそこには街の人達を守る大義があった。
けれどだからと言って、そんなことをしていいのだろうか?
彼女の中で善悪の天秤の錘は外れ、もはやなにが正しいのか判断すら出来なくなる。それに異常なのは両親だけでなく、『血濡れの剣』もだと彼女は確信する。
実際、『血濡れの剣』内部では、自身らが神の尖兵であると免罪符を掲げて無駄に『ラジアータ』で亡骸を積み上げていた。
いつか平和を取り戻すべく、邪神を討とう――この志だけならば立派だ。
しかし、その裏に隠されたのは自己満足と自己陶酔しかない。
『血濡れの剣』にとって大事なのは、リアムを討つことではなく、リアムを討つ経過を民衆へ報せること。
我らは勇ましく、いつか邪神を討つための血濡れの剣。
ゆえに、若人よ。亡き我ら同志の意志を継げ――と。
そうして勇士を集い、神のためと謳い無駄に屍を積むだけなのだ。
つまり『血濡れの剣』の兵士にとって、神のために身を捧げることこそが美徳。
そんな訳も分からず、狂った思想の神の信奉者がどうやって邪神を討てると言うのか。
ゆえに、彼女がミシャのような人間を嫌うのは当然の帰結と言える。
コルドからすれば、なにも助けてくれやしないただの幻影に祈ることなど無駄に等しい。なによりそんな幻影に期待して、惑わされて、どれだけ大切なものを奪われたことか。
やがてコルドは陽動作戦においても功績を残し続け、さらにはその話術と美貌で幾人の貴族を騙して資金調達や情報を『血濡れの剣』への土産として捧げた。
そして、とうとう畏怖からか彼女は本名ではなく毒女と渾名され、そう呼ばれることになる。
とうとう名前さえ失い、彼女はもはや強欲と妄信の化身達に身を捧げる女となってしまった。
だが、やがて毒女と化した彼女は、今度は自身の利益の為にその能力の全てを使うようになる。
結果、自身の欲を優先して規律を乱した彼女は、呆気なく『血濡れの剣』を追い出されることになる。
以降彼女は『オリベ』へと身を移し、娼婦であるカナタ・ハルミと名乗っては『代理人』として日々生きていた。
『代理人』と着飾っても、していることは毒婦とそう変わらず、彼女のせいで路頭に迷った者も多い。
カナタ自身、他者から金や物品、情報を搾取したところでなんとも思わず、むしろそれこそ当然だと驕り続けた。
なにせこの世界では、強者が弱者を喰らう非情な道理が罷り通ることを彼女は知っている。
生きていくのには金がかかるし、自慢の美貌を保つのもそうだ。それにまだ彼女には欲しいものがたくさんあった。
権力者とのパイプ、綺麗なドレスに高価な装飾品、さらには見目麗しい若い男などなど。
酒池肉林に溺れて、圧倒的な力で他者を食い潰す様は裏社会の女王そのもの。
散々他者から金を搾取し、毎日のように男を捕まえてはさらに搾取した挙句、欲まで満たすなどその様は正に色欲の罪。
そんな奔放な毎日を送って1年。とうとう彼女の中でも飽きがやってきた。
折角繋いだ太客も金に底が尽き、借金をしてまで自身に貢ぐ始末でもう搾れる金などたかが知れている。
どれだけ綺麗な装飾品に、流行りのドレスを手に入れても3回身に着けてしまえばゴミ同然と化す。
それは男も同様だ。毎日毎日肉欲に溺れる日々など送っていれば、獲物を食い尽くすか刺激のない退屈な夜を送るだけだった。
今まで愉しんでいた豊かな生活に飽き飽きしかけていた中、カナタはあの酒場にて自身の運命と出会う。
酒場で偶然にも出会った男の名はラインバレル・ルテーシア。
見るからに無害そうで、情に弱そうだと一瞬で見抜ける愚鈍な青年。
最初はその美貌ゆえに興味を持ったが、彼と話している際、彼がズボンに隠した財布に触れた瞬間、こいつはいい金鶴になるとカナタは確信する。
しかし何故か、会話を重ねていくうちに彼に本気になるなど、彼女自身思いもしなかった。
以降、コルドは毒女でも裏社会の女王でもなく、彼に名乗った『カナタ・ハルミ』として生きていくことを決意したのだ。
いつか教え込まれたように、無垢な笑顔で醜悪な自身を隠す。
献身的な女を偽れば、数日後にはもう適応出来た。
『原初の災厄』に過去の傷を抉られた際も、確かに悲しんでいたが、心のどこかではラインバレルの反応を楽しみたい無粋な自分もいた。
しかし、趣味の悪い遊びにラインバレルを乗せた後、まさか彼の純情さに妬いて、本心から守ってあげたいと思ってしまったのは皮肉でしかなく。
自身から墓穴を掘り、結果カナタは今後は本当に献身的で彼を想う女でいようと誓う。
いつか化けの皮が剥がれたその際は、自身を見捨ててとラインバレルへ伝えたが、彼がカナタを殺すことなど絶対に出来やしないことも知っている。
『ラジアータ』までの旅路は、正直以前の悠々自適とした暮らしに比べれば辛いことはたくさんある。
綺麗で柔らかな寝床もなければ、ゆっくりと湯舟に浸かれる訳でもない。
だが、そんな不自由すぎる旅は、あの頃送っていた生活より楽しくて、心躍るものであったから。
幼い頃に崩壊してしまったあの温かい日々の再来に、カナタは日々ラインバレルへと胸の内で感謝を告げる。
だが、同時にこの旅が終わることと万が一自身の過去が割れることだけが怖かった。
ゆえに、どうかこのことは彼に明かさないでと散々嫌っていた神に祈る。
これこそが、カナタ・ハルミ――いや、コルド・ブランシアという女の過去だ。
はい、これがカナタの過去になります。
詳しくは活動報告(という名の振り返り)で全てを明かしたいのですが、まぁ~~~彼女も中々闇が深いですね。
『毒女』というのも正に彼女の送って来た人生によるものでした。はたしてこれをラインバレル君が知ったら怖いですね……いや、奴なら受け入れそうだ。
⚔47話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、本編一読後の閲覧を推奨します※)
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