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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
3. 運命は廻り、徐々に崩れ逝く現実
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カナタ・ハルミの嘘



「よくも……よくもよくもよくもよくも……ッ! 殺す、絶対に殺す、お前らは1人たりとも生かすものか! 返せッ! 俺の仲間を……家族を返せよッ! 聞こえているんだろうがッ! リアム―――ッ!」



そう絶叫する様に、カナタは目を丸くして驚愕する。

あれほど優しかったラインバレルが、呪力によってこんな醜悪な姿に変えられる様を。


しかしカナタはミシャとは違い、呪力が如何に人を変えるものか、呪力の醜悪さについては人一倍理解している。なにせ、()()()()()()()()()()()


だから絶望し、どこを見ても光など射さない現実に諦観したとき、他人にされたかったことも未だに胸の奥に仕舞ったままだ。

なにより自身の愛した人がここまで狂わされるのは心が痛んで仕方ない。


あの夜——自身が『原初の災厄』(ファースト・スカージ)に揶揄われた後のこと、ラインバレルに本心を打ち明けたときに彼に告げた言葉に1つも偽りはない。


彼の純粋な部分を嫌悪していることも、彼に平穏な日常と言う幸福を享受して欲しいと言うことも。

なにより、自分はあの夜にラインバレル・ルテーシアと言う男に心を奪われてしまった。

だからせめて自身の命を捧げることが出来なくとも、彼を楽にしてやりたい……そんな願いが痛む心臓と共に脈を打つ。


カナタは両手に呪力をこめて、身体強化をする。そしてそのまま必死に抵抗するラインバレルを抱きしめるような形で抑え込んだ。

未だ呪詛を吐き散らして怨嗟に溺れるラインバレルを抑えつつ背伸びをして、彼の耳朶にそっと自身の唇を近づける。



「ねぇ、お願い。どうか目を覚まして。わたしを置いてどこかへ行かないで」



瞬間彼女はそっとラインバレルから顔を離すと、そのまま自身の胸へとラインバレルの顔面を押し付けた。

絶対に離さないとなんとか力で彼を抑え込み、彼女は唱を詠う。



大規模展開(スケール・ハイ)鎮静(ベオーク)及び(・ルル・)緩和ルル



呪力の汚染から愛しい人を守るべく、愛と再生の唱を紡げば、徐々に胸元で未だ抵抗するラインバレルの力が弱まっていく。



「“死滅(ユル)”、“再生(ユル)”、“死滅(ユル)”、“再生(ユル)”、“再生(ユル)”、“再生(ユル)”」



そして、ラインバレルの中にある悪性(ふじゅんぶつ)を殺し、彼の本来の善性を再生し続けることで正気を保たせるきっかけを作っていく。


幾度も幾度も、子守歌のように自身の願いを桃色に潤む唇は紡ぎ続ける。

どうか戻って欲しいと、切実にラインバレルに訴え続けた結果、ようやく彼は正気に戻り我へ返る。

一方正気に戻ったラインバレルは、顔面いっぱいにカナタの豊満な胸部の柔らかさを感じると同時に、カナタと距離を置く。



「——って、カナタ!? ご、ごめん! 突然襲ったりなんかして!」



そう顔を赤くして謝罪するラインバレルを見て、ようやくカナタも安堵して笑みを零した。



「大丈夫ですわよ。私のこの身体は今やもうあなただけのものですもの、好きにしてくださって構いません」



となんの恥もなくこの状況でもなお愛の告白をするカナタを見て、ラインバレルは顔を逸らして無言で頭を乱雑に掻く。



「……まぁ、本来ならお礼を申し上げるならば、わたしの方ですわ。なにせバレルの今の一撃が伝播して他の雑魚も跡形もなく消えていますもの」


「え? 本当?」



と返すと、ラインバレルは辺りを見渡す。そしてカナタは頬を膨らませ、ラインバレルへと近寄っては彼の頬をつねりあげる。



「——い゛ッ!」


「……全くもう、少しは冷静になってくださいまし。なんにせよ合流出来たのですから、後はカゲフミを探しましょう?」



そう、ラインバレルを落ち着かせたカナタは頬から手を放し、ラインバレルへ背を向ける。

一方、ラインバレルは未だ痛む頬を抑えながら消え入りそうな声でこう呟いた。



「ミシャのことは気にならないのか?」



瞬間、カナタは昏い空を見上げるがすぐに俯く。そして淡々とこう返した。



「ここにいないと言うことはそれが全てですわ。わたしとて、そこまで鈍くありませんわよ」


「……ごめん」


「と・に・か・く!」



カナタはラインバレルと向き合い、今後はこうすべきと策を提示する。



「まずはカゲフミとの合流が先決ですわ。わたしとバレルの愛でリアムを討つのも魅力的な話ですけれど、今のバレルに全てを任せるとリアムに持っていかれるような気もいたしますし……」


「持ってかれるって、そんなのありえないさ」


「いいえー、絶対またリアムを殺すと息巻いてそのまま心中コースですわ。わたしを未亡人にさせないでくださいまし」


「へェ、アンタはそこのイケ好かねェ兄ちゃんみたいなのが好みなのかい?」



瞬間、この場に割って来た第三者の声に、ラインバレルとカナタは辺りを見回す。

すると漆黒の向こうで、一匹の『ゴースト』が他の『ゴースト』の死骸を爪であしらいながら、2人の方までゆっくりとやってくる。


2人の前に姿を現した『ゴースト』の目玉の色は麹塵色(きじんいろ)であり、通常の個体とは違うのは一目瞭然。刹那、カナタが攻撃を仕掛けようとした瞬間だった。

『ゴースト』は爪をカチカチと無機質な音を鳴らして、「待った、待った」と繰り返す。



「待ってくれや。俺はそこの美人な姉ちゃんが好みでよゥ、別に甚振る気はないぜ? ちょーっとお話した後に喰われてくれりゃそれで構わねェし」


「嫌ですわよ、そんなの! って言うか、あなた少々軽すぎません!?」


「はっはっはっ、兄弟達からよーく言われるよ。だから、さァ――」



『ゴースト』が軽快に嗤った刹那、突如黒い爪が伸び、それがラインバレルの体に巻き付く。



「よいせッと!」



爪にラインバレルを巻きつけた『ゴースト』は、そのまま後方へとラインバレルを勢いよく投げ捨てる。



「バレル!」



カナタはラインバレルが飛ばされた先を振り返って声を上げるが、瞬間、自身の胸元に何かが突き刺さった。


無論、カナタの胸を突き刺したのは目の前にいる『ゴースト』の爪である。

カナタが現実を視認した瞬間、全身に激痛が走るのと同時に、桃色の唇から紅い血が滴る。



「づ――ッ!」


「ああ、悪い悪い。やっぱいい女を見ちまうと、どうしても手が止められねェ。……だが、そうすぐ殺さんから安心しなさんな。ただアンタのことが知りたくてなァ。――“記憶搾取”」



ズッ、と鈍く粘着質な音がこの場に響いた瞬間、カナタの胸に刺さった爪は抜かれる。一方、『ゴースト』から解放されたカナタの目は虚ろで、まるで廃人のようだった。

別段、カナタは今攻撃を受けた訳ではない。厳密に言うと物理攻撃ではなく、精神干渉を受けたのだ。


彼女は今に至るまでの記憶を、麹塵色(きじんいろ)の瞳を持つ『ゴースト』に抜かれている。

『ゴースト』はカナタの記憶に干渉し、今までの彼女の人生をニタニタと口角を歪めながらじっくりと鑑賞していた。



「……ほう? 『カナタ・ハルミ』ってのは偽名だったのか。しかもそれどころか色々嘘を吐いていただなんて罪な女だなァ。だが、その闇深さは俺らからすればなによりも美しい」



すると、『ゴースト』は爪を引き摺っては、カナタの横を通り過ぎて、そのままラインバレルが飛ばされた方へ向かう。



「これは未来の旦那様である奴に伝えておかなきゃなァ? ……ってな訳で俺は先にあっちへ向かわせて貰うぜ。その傷で俺を追えるかは知らねェけど」



響く『ゴースト』の哄笑。

記憶操作と継承を武器とする上位個体――『ナインス』はカナタの全てを携えて、彼女の愛した男の元へと向かう。


そしてラインバレルが飛ばされた先には、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)がいるのも補足済み。これで、劣勢であるこちら側が反撃するためのきっかけ作りは全て終わった。


なにせ、カナタは『原初の災厄』(ファーストスカージ)()()()()を知ってしまっている。


ここで彼らが上手く鉢合わせれば上々。さらに事態は盛り上がるだろうと『ナインス』はこの先の展開を嬉々として反芻する。



「さァ、花婿さんも見て見ろよ。こいつは最高の毒女(はなよめ)だぜ?」



下卑た嗤い声がここ一帯に響き、さらに事態は激化する。

その愛が如何に嘘偽りで、自身が嫌って糾弾バカにしたものか。それをラインバレルが知れば、きっと彼を苦しめるには事足りるがゆえに。



いよぉお―――し! カナタよく言った! 言質取ったからな、言質!

……とカナタの恋路云々に1匹(?)の『ゴースト』の上位個体である『ナインス』さんが割って入ってきました。なんたるチャラ男と言うか大分『セカンド』さんとは性格が違いますね。兄弟なのに。


次回! いよいよカナタの過去が明かされます!



⚔46話の内容解説(活動内容)はこちらになります!↓(※多々ネタバレを含みますので、本編一読後に閲覧するのを推奨します※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3163114/



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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ残酷さが全開になってきましたね……前作のスピード感が蘇って来たかのようです。
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