崩壊の足音
今回から9話になります、よろしくお願いします。
話の流れで偶然にも俺はカゲフミの本心を聞き、あいつがが泣き出してから軽く1時間。俺はあいつを慰め続けていた。
そんな中、途中でカゲフミが急に笑い出し、俺達は訳も分からないままに笑い合ってはふざけ合うことさらに2時間。
ようやく友達らしく馬鹿をやれたと思ったのに、笑い終わった後すぐにまたカゲフミのツンデレスイッチが入ってしまう。
そして夜を迎えた今、カゲフミは俺とまともに口を利くこともせず、目を赤く腫らしたまま口元を固く一文字に結んでいた。
「カゲフミ、目が赤いですわよ? 寝不足かしら?」
それから1時間後、カゲフミはカナタから自身の異変を言及される。
カゲフミはカナタの言及に対し、視線を泳がせては黙り込んでしまう。それもそうだろう。
持ち直したとは言え、まだカゲフミの心も整理がついていない。だから俺はすぐさま2人の間に割って入ってカゲフミのカバーに入る。
「実は昨日さ、カゲフミに稽古に付き合ってもらったんだよ。結構ハードだったから無理させちゃったかも」
「……そう言うことだから、さっさと行くよ」
少し落ち着いたのかカゲフミがそうぶっきらぼうに場を濁せば、俺の横にカゲフミが並ぶ。
そして、俺だけに聞こえるぐらいの声量でぽつりとこう呟く。
「ありがとう」
思わず俺は、カゲフミの不意打ちに立ち止まり顔を赤くしてしまう。
いや、待て。相手は友達だぞ? しかも同性の。
だと言うのにこんな胸が高鳴ってどうすると我に返って、深呼吸を3度繰り返す。
そして深呼吸をする俺がおかしいと思ったのか、カナタとミシャが俺の顔を覗き込む。
「もしお疲れでしたら、いつでもわたしが癒しますわよ? それにカゲフミなら放っておいてもどうにかなりますわ」
「あまり無理はしないで下さいね? カゲフミ様も心配ですが、ラインバレル様もどこか顔色が優れないので……」
2人のこの一言で、残念なことに彼女らにはカゲフミへの心配がひと欠片もないことが判明してしまう。
こんな光景を目にしてしまえば、あいつの不器用さも難がありすぎるとまたもや心配になってくる。
とにかく2人には素直に礼を言い、カゲフミに関しては俺が数時間前の責任を取ると言う形で守ろうと気に留めることにした。
そうして俺達はリアムがいるであろう霊碑街を目指して赤い荒野を歩き続ける。
相変わらず、この果てのない荒野はどこを見渡しても赤く瘴気が濃い。
呪力が一定数満ちており、俺のように外部から呪力の加護があるのならば、稀に咳が出る程度で済む。
しかし俺達5人の誰しもがこれだけの瘴気を吸って、無事でいられる訳ではない。
俺は前に進むにつれ、段々と顔が蒼くなっていくミシャが心配で仕方がなかった。
なにせ俺が見立てたところ、ミシャの呪力量はこの中で1番少ない。ゆえに呪力への抵抗力も低いのだ。
それに彼女は治療班の多い『光輪を仰ぎし者』に所属こそしていたが、ミシャ自身治療班ではない。
霊碑街との距離が近くなるにつれ具合が悪くなっていくミシャを見て、俺は隣に寄り添って一声かける。
「ミシャ、大丈夫?」
すると彼女は蒼い顔で、脂汗を滲ませながらも微苦笑を浮かべる。
「はい、まだこれぐらいならば平気です。心配はいりません」
瞬間、ミシャが咳き込むのを見て、俺は反射的に彼女の背中を摩った。
「無理はするなよ? 一応、『ミシッピ』でもらった緩和剤があるから」
「ええ、でもまだ歩けるだけの余力はあります。緩和剤には限りがありますし、『ラジアータ』の霊碑街まで距離があると分かった以上、軽率に使えませんし」
「そうだけど……」
「ダーリン」
俺がミシャを心配していると、前方を歩くカナタがこちらを向くこともせずに俺達のやり取りに横槍を入れてくる。
なによりこの第一声と呼び方で、俺はこの後修羅場が訪れるのを察知した。
今のカナタが放った声色は氷よりも冷たく、氷柱よりも鋭い。
うっすらと呪力が体外へと出ているし、その様子から彼女が今怒っているのはよく分かる。だから、俺は慎重に言葉を選んで返事を返す。
「どうしたの? カナタも具合が悪い?」
「お生憎様、わたしはそこのお嬢さんのようにか弱くありませんわ。ただ少し、肩入れをしすぎではなくって?」
「肩入れ? 別に俺はいつも通りだろ?」
「いいえ」
瞬間、カナタの言葉の温度が氷点下に達した瞬間、彼女はその碧眼でミシャを睨みつける。
「……ミシャ、あなたどう言うことですの? バレルのことを自分の兄と呼ぶだなんて」
「え?」
ミシャが言葉を詰まらせるのと同時に、俺もまた言葉を失う。
俺は3日前のミシャとの会話をカナタに聞かれていたと今知るが、あの場所で話すのは確かに迂闊だった。
とは言え、なにもカナタは最初から俺達の会話を盗み聞きするつもりはなかっただろう。
カナタもミシャが心配になって探しに出た結果、あのやり取りを聞いてしまったとカナタは説明する。
「まさか、隣で寝ていたはずのあなたが急にいなくなったから心配で探してみれば……こんなことになっているなんて驚きですわ。本当ならわたしのダーリンに手を出そうとしたことを酷く責めて差し上げたいのですが――」
つらつらと平然な様子で心配と嫉妬を述べた後、カナタは急に振り返ってはミシャへと歩み寄る。
細められたカナタの眼光は、憤怒寸前と言わんばかりに怒りが宿っていた。
拙いと思った俺はミシャを庇うように前に出るが、突如視界が暗転する。
気付けば、俺は今の一瞬でカナタが自身の足を俺に引っ掛けられ一回転させられていた。それゆえに反応が一瞬どころか数十秒は遅れる。
なにより、ミシャもカナタに怯えているのか数歩後ずさる。
だが、カナタが止まることなどない。そしてカナタはミシャの胸倉を容赦なく掴んだ。
「カナタ、止めろ! ミシャは悪くない!」
俺はそう制止するも、カナタは一切俺の制止などに耳を傾けず、顔を嚇怒で歪ませた。
「ふざけるのもいい加減にしなさいよ、この小娘! バレルはあなたの兄じゃない! そんな歪んだ愛情と依存はいざ土壇場となったら、状況を悪くさせるのが関の山でしょうね。なにより、そんな代替行為と妄想が2人を傷付けることも分からないとでも!?」
「……」
一瞬、カゲフミもカナタを止めようとしたが、カナタの言葉を聞いて仲介するのを止める。
出来るなら事態が悪化しないうちに止めたいだろうが、カナタの懸念は今後に支障が出るとカゲフミは判断したのだろう。
なによりここで自身が現実を突きつけるよりも、ずっとミシャには有効的だと思ったのだろう。だが。
ミシャは俯き、体を震わせている。
俺は泣いているのかと思い、さっさと立ち上がってミシャの肩を掴む。しかし、その程度では済まされないとミシャの怒号が荒野に響く。
「黙れッ! ラインバレル様は兄さんであって、私の元に帰って来てくれたんです! そしてラインバレル様もそれを受け入れて下さいました! それを血の繋がりもなく、絆も薄いお前に指図される謂われはないッ!」
ミシャは穏やかな顔を鬼女のように歪めるも、カナタはミシャの本性が晒されてもなお彼女へ噛みつく。
「血の繋がりですって? だから、バレルはあなたの兄ではないの! そもそもバレルを……これだけ優しい人を、ただの慰めの道具に使うのが許せないのよ!」
カナタは、腹奥からミシャの欠落した人間としての倫理観を断罪せんと声を張り上げる。
決して、彼女は自身の兄を愛するミシャを否定したい訳じゃない。カナタが否定したいのはたった1つだけ。
「バレルがあなたに笑いかける際、彼がどんな顔をしているかきちんと見ていないのね。辛いと訴えているのに、あなたのためと笑って誤魔化している。それさえ気づけずにあなたはのうのうと……彼の負担になっていることなど気づきもしないくせに!」
全ては俺の負担にならないために、苦しい思いなどさせないようにと俺を庇うカナタ。
しかし、この状況でこんな口論を繰り広げるなど、それこそ輪を乱して迷惑極まりない。でも、それでもミシャを許せないとカナタは食い掛る。
ただここでミシャが諦めるようならば、そもそもこんな修羅場になってなどいない。
ゆえに事態は険悪かつ、ただ悪い方向へと傾いていく。
「いいえ! ラインバレル様は兄さんです! 私がずっと愛していた優しい兄さん、私のかけがえのない家族! それ以外の事実なんてミシャには必要ありませんッ!」
「ミシャ、カナタ! 2人共止めてくれ!」
そして馬鹿な俺は、こうして最悪の事態にならなければ自身が如何に軽率な行動を取ったかを理解出来なかった。
俺の制止は2人に届かず、無意味に終わる。
正直ミシャがここまで怒りを露わにするなど、ヘレ・ソフィア神へ不敬を向けたときぐらいだ。
いや、むしろ彼女は自身の信仰対象を侮辱されたときよりも怒っていた。
「へぇ? まさか神様大好きなあなたが、兄のことになるとこんな風になるなんて……と言うより、神様に縋ったのもいつしか大好きなお兄ちゃんの安否を聞きたかっただけではなくて?」
「――ッ!」
ミシャが言葉を詰まらせ歯ぎしりした後に、カナタは「やはりか」と笑い飛ばす。
所詮、神様の声を聞いて祈りを捧げていたのは所詮お前自身の欲のため。
ならば、いっそそんなものは捨てろと言わんばかりにカナタは口元を吊り上げた。
だが、すぐさまカナタの口端は下がり、同時にこの場に響いたのは肌を打つ甲高い音だった。
「カナタ!」
気付けば、カナタは一発ミシャの頬に平手打ちをかましていた。そして地面に尻持ちをついたミシャをもういいと切り捨てるように睥睨する。
「これだから神を妄信する人は嫌ですの。……いいや、あなたは一生自分の中で自分にとって都合のいい夢でも見ていなさい。バレルの優しさや痛みに気付かずに勝手に縋ってるといいですわ。もちろん、バレルは私の未来の旦那様なので、わたしが貰いますけれど」
「この……ッ!」
「もういい加減にしろッ!」
いつまでも止まない2人の無謀な平行線とも言えよう言い合いを、俺は怒声1つでかき消す。
ミシャは俺の怒声がこの場に響いた瞬間、大きく肩を揺らす。そして恐る恐る背後を振り返っては俺を見上げる。
俺は一瞬、この場を静められない自分に腹が立ったがいよいよ腹を括る。
せっかくカゲフミとラインバレル君との仲が深まったと思ったら修羅場かい! ……ということで、いよいよ話の流れは変わって参りました。
そもそも、ミシャという存在が爆弾みたいなものなので、ラインバレル君があんな我侭を許してミシャを甘やかした時点でこの未来が訪れるのは自明です。
いつもはネタバレ防止を呼び掛けている内容解説ですが、今回は読んでいただけると色々と分かることがあると思います。なにせラインバレル君視点では語りきれないことが多いですからね。
さて、ヒロイン同士が争っていますが実はそんなことをしてられません。詳しくは次回。
⚔41話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますのでご注意ください※)
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