眠れない夜に2人が語らうのは
今回から8話になります、よろしくお願いします。
はぁ、と俺は何度も重い嘆息を繰り返していた。
ミシャと約束を交わしてから既に3日が経った今、俺は今宵も眠れずにいる。
自分から自身を兄と呼んでいいと言っておきながら、やけにささくれ立つ罪悪感の影響で眠れないなど軟弱にも程がある。
隣で寝る奴がこんな様だと、この場に一緒にいるカゲフミからすれば不快なのは間違いない。おかげで彼もまたここ3日は嘆息ばかりの夜を過ごしていた。
「あのさぁ、アンタってやっぱ俺を苛立たせる才能あるよね?」
なんて2日前に浴びた嫌味と比べれば優しいものだったが、こうも嫌味が立て続けになると心は穴だらけになるのは当然。
結局、俺は今夜もまたカゲフミに対して謝り倒している訳だ。
「ない……と言いたいけど、説得力がないな。ごめん」
「もういいさ、慣れたよ」
するとカゲフミは起き上がり、立ち上がるや否や俺の背中を思い切り蹴飛ばした。
「いったッ! 蹴るのはいいけど、力だけは加減してくれよ、頼むから!」
「は? 別に力なんて込めてないし、つま先で軽く転がそうとしただけだけど?」
「え、嘘だろ……?」
俺は一瞬嘘だと思うも、起き上がってカゲフミの表情を見てしまえば、その言葉の真偽を理解する。
カゲフミは眉を顰めてはいるものの、嘘は言っていない。もう2ヶ月共に行動をしている訳だから、彼が嘘を吐いていないことは分かった。
だとしたら、カゲフミの脚力が異常なのかと思うが、こうしてまじまじと彼の姿を見てみるとそれさえ否定される。
なにせ、カゲフミは長身で俺よりも背が高い。
ざっと見た感じ、185近くはあるだろう。だがその身長の高さに体つきが合っていないのだ。
まるで枯れ木を連想させるような細さで、だからこそ右腕の無機質な義手の無骨さがさらに違和感を引き立たせる。
本当ならこんなことは野暮だが、何故か俺は引き寄せられるようにカゲフミへこう聞いていた。
「……なぁ。この間引っ張り上げられたときもそうだけど、カゲフミってもしかして常に呪力で身体強化してる?」
すると、カゲフミは一瞬だけ視線を泳がせる。
今は視角強化用の眼鏡はしておらず、露わに剥かれたままの黒い瞳もどこか困惑を訴えていた。しかし、カゲフミはすぐに首を横に振る。
「してない、俺はね。けど、勝手に体がそうさせてる」
「どういうことだ?」
「さぁね。俺の全身に流れる呪力を見て見れば分かるんじゃない?」
とカゲフミは答えを明確に口にはしないが、俺はカゲフミの言われた通りに彼の全身に流れる呪力の波へと目を凝らす。
すると、彼の体内にある呪力はまるで嵐で吹き荒れる海のようだった。
常に呪力が沸騰し、暴走しているのだ。俺はそんな現実を知って、思わず血の気が引いてしまう。
友人にこんな感情は抱きたくないが、こんな状態異常を抱えて生きるなど化け物かなにかだ。
呪力量は俺よりも遥かに多く、多大な呪力が今もこうして体内で荒れ狂っている。本来であれば、俺のように呪力に体を蝕まれて発狂するはず。
しかしカゲフミは平然としており、異常など全く感じさせないが、却ってそれが彼の異常性を物語っている。
俺が言葉を失っていれば、カゲフミは吐き捨てるように笑った。
「呆れるだろ? こんな異常状態。自分でもよくやってると思うよ」
「よくやってるというか、そもそもカゲフミはキクキョウ家の人間だろ? だったら呪力量が多かったり、それを抑える術なんかあるんじゃないか?」
「ないよ、そんなもん」
またもや吐き捨てるかのような自暴自棄な言葉に、俺はしまったと思う。しかし、何故か珍しくカゲフミはつらつらと言葉を継ぐ。
「そもそも呪力っていうのは憎悪だ、だから呪力量が多い人間は必然と憎しみも深い。血筋なんて関係ないんだよ。一時的に術式で抑えたところで却って反動で呪力が暴走するだけ」
「じゃあ……」
だとしたら、カゲフミはその意志1つで呪力を制御していることになる。すると彼がいつも浮かべている冷静な表情もそのためかと思うのだが、それは違うとカゲフミ本人が否定する。
「だが、間違いなくこれが俺の素だ。別に取り繕ってる訳じゃあない、言ってしまえば俺の歪みだよ。アンタのその善人っぷりと同じく」
「悪い、嫌なことを聞いた」
「別に。答えたくないなら答えないよ、俺はそこまでお人好しじゃないし」
俺はようやく身を起こすと、頭の中の混乱を緩和させるように頭を乱雑に掻く。
気づけば俺は、過去をわざわざ語る必要はないなんて口にした。だが、今こうして俺がしていることはその言葉に反している。
つくづく俺は最低な奴だと自己嫌悪していれば、カゲフミはその場に腰を下ろす。
「……まぁ、アンタみたいな善人をゴミ箱のように扱うのは楽しいかな。良ければ今だけはなんでも答えるけど?」
「なに、その下手なツンとデレ」
思わず真顔で口にしてしまうが、カゲフミは喉を鳴らして小さく笑うだけ。
「じゃあもう質問は締め切っていい? ここを逃せば答える気はないから」
「下手なツンデレ見せた次はメンヘラ? 本当にお前って変わってるよな」
「知ってる。けど、次メンヘラとか抜かしたら殺すから」
「すみません……」
「で? 本当にいいの?」
「じゃあお言葉に甘えて……」
と、俺はカゲフミに聞きたいことを1度脳内で整理する。
さてどれを聞こうかと質問を巡らせて、やはり1番気になったのが彼の過去だ。
「そもそも、なんでキクキョウ家にいないんだ? 前に自分の体を取り戻したいと言ってたけど、そんなのはもっと安全な場所で行うもんじゃないか?」
「そんなもの?」
瞬間、俺がしまったと我に返ったときには既に遅い。
カゲフミは明らかに嚇怒を瞳に浮かべ、一瞬、右目の瞳孔を赤い陽炎が縁取っては揺らめく。明らかにカゲフミの地雷を踏んだと認識した瞬間、カゲフミは俺に背を向ける。
「……ああ、そんなものだろうな。だが、アンタは家柄や集団に幻想を抱きすぎだ。キクキョウ家がそんな善人の集まりだとでも? 俺をこんな体にさせた奴らだぞ? 後」
「な、なに……?」
「本当はもっと早く伝えたかったんだけど、お前は『聖火隊』に入らなくて正解だったと思う。呪力云々の問題でなくて、もっと単純な話」
「え?」
話が変な方向にこじれたのに訳も分からず目を見開いていれば、カゲフミは再び俺と向き合う。
「力のなかった頃のアンタが『聖火隊』を見たとき、すごいとか思わなかった? 今の印象はともかくとして」
「ああ、まぁ……。でも『光の盾』の底は知れたよ。でも実働部隊である『血濡れの剣』は違うんじゃないか? 現に『ラジアータ』攻略を目指している訳だし」
と、俺はさすがに『血濡れの剣』は違うだろうと期待したが、カゲフミの口から漏れたのは小馬鹿にしたような笑みと否定だけだった。
「残念。『血濡れの剣』の連中も27部隊中3部隊を除けば、『光の盾』とそう変わらないんだよね」
「は?」
またもや俺は呆気に取られるも、カゲフミの毒舌は遠慮なしに続いていく。
「確かに『血濡れの剣』に所属する兵士であれば普通の部隊でも『ゴースト』の群れは殺せる。だが、そこまでなんだよ。俺に喧嘩を売って来たのも何人かいたけど、再誕の“法”を使うまでもなかった。劣等生の俺にここまで翻弄されるなんて、それこそ馬鹿馬鹿しい」
「嘘だろ……」
突如俺の理想は粉微塵にされたが、まぁそうだろうなと頷く俺もいた。
なにせカゲフミは博識であり、呪力の扱いも上手いどころの話ではない。
過去、少し話してくれたが彼は今キクキョウ家から離れ、フリーランスの傭兵として活動している。
今はリアムが目覚めたため『ラジアータ』を目指していたが、最悪カゲフミ1人でもリアムへ対抗出来るのではないかと俺は勝手に思っていた。
だが、その言葉を口にした瞬間「邪神っていう存在を嘗めすぎてない?」と冷静に返されたのだが。
「でも仕方ないかぁ……カゲフミだもんな」
「なにその雑な答え。俺のこと馬鹿にしてる?」
「なんで!? むしろ褒めてたよ、カゲフミはすごいなーって。特にあの黒い長筒とかすごいよな」
「長筒? まさか銃のこと?」
「銃って?」
瞬間、俺らを静寂が包み込んでいく。
今、カゲフミはあの黒い長筒を銃と言ったが、俺はそんな武器など聞いたことがない。するとカゲフミは盛大に笑い始めた。
や、やっとカゲフミ編だ――!と歓喜していましたが、彼のヒロイン力案外弱くない?というか、下手にツンとデレを出すとはお前一体……という感じでした。
いや、彼のヒロインとしての真価はこんなもんじゃないんですよ。
にしても今回、どこで区切るかめちゃくちゃ悩んでます……。
⚔38話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますのでご注意ください※)
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