血という呪い
今回から7話になります、よろしくお願いします。
血が繋がった家族とは、ある種血の連鎖によって生み出されたもので、呪いでもある。
人間に限った話ではないが、生物には産まれたそのときから本能に刻まれた宿命に囚われてしまう。
その宿命とは、至って単純。己が血脈を途絶えさせないこと。
自身だけではなく、人間が、動物が生き物として刻まれた宿命は、外的破壊などがなければ途絶えさすことなどまず不可能。
さらに、こう言った血の連鎖が生物にとって絶対的な証明なのは生態だけではない。
いつかの未来――この世界では、既に世界が1度終わったために剪定されてしまったが、あり得た先の時代には法によっても血の繋がりに関する項目は多い。
例えば、親が子供を養育するのは当然の話で、子供に危害が加えられれば法的に罰せられる。
その逆も然りで、絶縁したという事情があったとしても子供は親を養う義務がある。これは法で定められてなかったとしても、倫理的にして当然だと人の意識に植えつけられているのだ。
逆に、托卵などの被害によるもの――自身の育てていた子供が万が一自身の子供でなかった場合、裁判所で異議申し立てをすれば、親子と言った関係を法的に切ることが出来る。
これに関しては、騙された側を守るための法律ではあるが、言ってしまえば血の繋がりのない他人をわざわざ育てる義務はないということだ。
このように血の繋がりというのは人類の繁栄だけでなく、倫理、精神、法と言った形でも深く食い込んでいる。
ゆえにこれは呪いに等しいと、遠い過去から剪定された未来を既に視ていた青年は思った。
彼もまた、家族という存在に悩まされては自身の体に流れる血に大分苦しんだ期間は長かった。
そして青年は幼い頃にこう思った。血とは枷であると。
彼が生きていた頃は、身分こそ自身の立場を証明するもの。高貴な血を引いた者は身分は必然と高く、それなりの生活と将来が保証されていた。
だが、それは決して喜ばしいことばかりではない。
安全が保証された身の上でも幼少の頃から肉親に虐げられ、自身の自尊心を彼らに粉々にされた青年からすれば、彼らと血が繋がっていること自体が悍ましく気持ち悪いのだ。
ゆえに自身をどこまでも否定し、人生に諦観を抱いたことなどそれこそ1度や2度ではなかった。
これが繁栄なるものか、と青年はいつしか胸中で呟いた。
抗えない生き物としての宿命と、法や倫理で固められた絆と身の保証の重み。青年はそれに嘆き、自身で壊してしまった。
彼にも大義があったとは言え、今青年が己が身を振り返ればあんなことをしたのはそれだけではないような気もした。
きっと、この血と言う呪いそのものを根絶したかったのだろう。
そう、神は青年の過去を同情で准えると、なにを馬鹿なと我に返る。
そもそも“繫栄”を願う時点で、こんな血の連鎖に僅かながら否定するのはおかしな話だ。
「……いいや、そもそも人間とは本能よりも情に傾くとでも言いますか」
神は、血の連鎖とはまた別の人を縛り付ける呪いを口にする。
ああ、そう言えば絆や愛と言ったものは憎悪よりもひと際性分が悪かったと。
あれらもまた温かくも人の心を縛っては離さない呪いなのだと、どうしようもなく人間に対して憐憫を抱かずにはいられない。
ああ、本当に。
愛も本能も宿命も、一体なんのために存在するのか。
答えは単純明快。全ては生きて、次代へ生命を芽吹かせるため、たったそれだけのために存在するのだ。
それこそ、自身と人間の宿命なのだと柘榴石のような瞳を細めて、神は今日も天から人間達を見守っている。
◆
「絶対離すなよ!? 離したらマジで終わりだからね!? 分かってるよな!?」
光が射さぬ地面は薄暗く視界も同様に暗いために、今や繋いだこの手こそが全ての命綱なのだと俺は理解した。
俺は地面を四つん這いで地を這い、暗く深い谷底を見ていた。そして俺の視界いっぱいに映るのは暗い谷底ではなく俺の手を命綱とするミシャだ。
一方、ミシャを引き上げようと気張る俺の足首を地に縫い留めているのはカゲフミだった。
俺はカゲフミに手を離すなと訴えかけているが、この狭い谷では声が反響して、大声がそのまま返って来る。そのため、カゲフミは耳に痛みを訴えながら額に青筋を浮かべている。
「いいから、さっさと回収してくれない? ……って言うか俺は全ては自己責任って言ったよね?」
「言いました! ここに来るまでに37回言ってました! けど仕方ないだろ、そこの『原初の災厄』が原因なんだからさァッ!」
事の顛末を話すとだ、元はこの狂獄を5人で越えることになったのが全ての始まりだ。
「狂獄を越えれば、『ラジアータ』の入り口である門は見えてくる。幸い、『ラジアータ』は普通の街とほぼ変わらないから左程問題はないけど、問題はやっぱり狂獄を越えること」
そう、この狂獄を越えることが最大の問題だったのだ。
カゲフミは呪力で身体強化させれば、八艘飛びの要領で狂獄を越えられると言っていた。
だが、残念ながらミシャは身体強化が苦手らしく、ミシャについては俺が抱えて狂獄を越えることで意見はまとまった。
話し合いの途中、カナタが「わたしも身体強化は出来ませんの!」と嘘を吐いて騒ぎ始めたが、そこはなんとかカゲフミがカナタを黙らせた。
さて、これでもう怖いものなどどこにもない。
むしろ、俺がミシャを守ってやらねばと勇んでいた最中だった。
「ラインバレル、儂をおぶれ」
「は?」
と、『原初の災厄』がふざけたことを抜かし始めたのだ。
何故か話し方が素に戻っているのを見て、俺はまたこいつが好奇心で場をひっかき回す気かと一瞬無視をする。
いや、お前は身体強化出来るだろと俺は返したのだが、奴から返って来た返事はこうだ。
「ふざけるなよお前ェッ! 儂にここを越えろと!? ここが高さ何メートルあるか言ってみろぉッ!」
そして、こいつが高所恐怖症であることが発覚する。無論、俺は未だこいつは演技をしていると思っていた。
「地面までは数百キロぐらいあるらしい。ちなみに下は針地獄だから落ちたら死ぬかも」
そうカゲフミが真実を告げれば、『原初の災厄』は突如地に膝をついてギャン泣きし始める。
「ほぉおおおおおらッ! 絶対無理なやつ! いいのか、ラインバレル!? 儂が死んでも!」
「うん、いいよ。むしろここでいなくなってくれた方が安心出来る」
「薄情者ぉおおお―――ッ!」
正直、『原初の災厄』については未だ謎が多いが、『業火の仮面』を装着している以上、呪力を分けているこいつの力量がそこらの兵士程度のものではないのは重々承知である。
本人曰く、「儂が本当に攻撃に転じられるのは1度だけ」だそうだが、身体強化や呪力の行使は多少であれば問題ないとのことだ。
なら、さっさと身体強化をしろと思うばかりだが、一向に『原初の災厄』の駄々は止まない。
「カゲフミ、『原初の災厄』は置いていこう。なんかそれがいい気がしてきた」
と言う俺の言葉に、脳内にて同居している例の男も「そうしろ」と進言してきた。だが、ここには子供の涙に弱い優しい人間もいる訳で。
「なら坊や、わたしに掴まりなさい。こんな谷なんてすぐに越えてやりますわ」
「あ、あの……。なにも出来ない私が言うのは失礼なのは承知ですが、さすがにここに置いていくのはちょっと……」
そんな優しい女性陣の頼みに弱い俺は、それを断ることなど出来る訳がなかった。
何故か『原初の災厄』はカナタではなく、俺の背中に抱き着いて狂獄を順調に越えていく。
狂獄は11個ほど谷があり、それぞれ大体数十メートル間隔で離れている。
1、2、3――とここまで越えるのは、今や俺にとって容易いことで。
5、6、7、8――とここまでも問題なし。ただ背中に必死にしがみつく『原初の災厄』の泣き声が煩い。
9、10、11――とゴールまであと少しと来たところで、谷を蹴って中空に出た瞬間。
「ラインバレル、待って。儂、大事なものを落とした」
そう、こんな感じで俺は着地しようとした瞬間に後ろを振り返ってしまった。と同時に、ミシャも体勢を崩してしまう。
ここからは端折るが、瞬時に俺は『原初の災厄』を狂獄を先に越えたカナタへと投げ捨て、すぐさま地面に着地すると間一髪でミシャの手首を掴むことに成功した訳だ。
ちなみに『原初の災厄』が落とした大事な物――鍵の形をしたなにかはカナタが探し出して回収してくれた。
どうも皆様こんばんは、織坂一です。
今回から7話突入なのですが、やたら血の繋がりを強調していますねというか、この7話では「血の繋がり」というのが大きなテーマであり、今後の伏線となってきます。
にしても、『原初の災厄』さんは高所恐怖症とか本当にこいつ前作でラスボスやってた存在なのかと疑わしくなりますね。
⚔34話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますのでご注意ください※)
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