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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
2. 過去と未来は交差して綾模様を描いては終へ墜ちる
30/81

“彼女”によく似た少女との邂逅



俺はカナタの後に続き、『ミシッピ』へ向かって全力疾走する。

呪力で脚力を強化し疾駆するカナタと共に、俺も『業火の仮面』(アケーディア)からの呪力供給で付け焼き刃同然の身体強化にて並走して疾駆する。



「カナタ! 『ゴースト』の方は頼んだ!」


「バレルこそ、そっちは頼みましたわよ!」


「任された!」



ただ、今の俺は『ミシッピ』は混乱と突如やってきた暴威に正気を保てないでいる。なにせ『ゴースト』が襲ってきたというのにやけに街全体が静かすぎるのだ。

一瞬、避難場がないのかと逡巡し、ならば早く助けなければと俺は脚に鞭打って、街の奥深くへと急ぐ。


しかし、そこに広がっていたのは異様な光景だった。

俺の目の前に映ったのは、外にいる者がみな地に膝をついて天に祈りを捧げている人々の姿。世間一般の常識とかけ離れた異様な光景を見た瞬間、俺の背を怖気が突き抜ける。


聖都もヘレ・ソフィア神への信仰は深いが、『聖火隊(セイヴャ)』という存在がある以上、彼らが自分達の安全を保障はしてくれる。

だから例え『ゴースト』が街を襲ったとしても『光の盾(チェイン)』がどうにかするし、避難するなりなんらかの対策は取る。


けれども、この街ではなにが起きているというのか……その疑問しか尽きない。

まるで世界の終焉が来たと言わんばかりに、もう自分達では抗いようがないからと神に乞うその光景はとても恐ろしいものだった。

俺は1人手に押し寄せる恐怖を押し殺し、静謐なこの場で声を上げる。



「すみません! この『ミシッピ』内に避難所などはありませんか!?」



静かに神に祈りを捧げていた者達はみな、俺の声を聞いて一斉に顔を上げる。

すると全員目を丸くして俺を見ているが、まぁそれは仕方ない。

なにせ急に余所者がこの街のルールに従わずにひっかけ回すなど、そちらの方が無作法というもの。だが1人の少年が俺に返した言葉は意外なものだった。



「お兄ちゃん、なにを言っているの? ここでじっとしていれば神様が助けてくれるんだよ?」


「え?」



俺はいよいよ、子供が発した言葉に絶句する。

そして、子供に続いて若い女性が口を挟む。



「先日、聖都を襲った『ゴースト』の群れが襲ったときも、神が『血濡れの剣』の兵士(つかい)を寄越して下さいました。きっともうしばらくすればもう1度神の遣いはここにいらっしゃるはずです」


「そんな……」



そんなことなど、あり得ない。

俺が「助けよう」なんて言わなければ、カナタとカゲフミが力を貸してくれなければ、この人達は死んでいたのだ。


だと言うのに不幸にも街外(そと)の状態など知らず、ただ祈り続けるのかと俺はいよいよ異様な光景に吐き気を覚える。

ならこの人達を動かすには、俺らが神の遣いとでも身分を偽るしかないのかと逡巡したそのとき。



「みなさん、この方の指示に従ってください!」



突如、静謐に満ちた異様な場を破ったのは、少女の声。

俺は声がする方に顔を向ければ、すぐそこには()()()がいた。

赤色の髪と蒼い瞳。

白い肌に歳を感じさせないまだ幼げが残る風貌――俺の姉さんであるヘレナ・ルテーシア……かと思ったがそうではない。


なにせ、姉さんはあんな風に不安そうな顔などしない。

(おとうと)を見て、怯えながらもどこか恍惚さを混ぜた表情など絶対にするものか――そう思った瞬間に、ようやく俺の目は覚める。


あの少女と、姉さんは別人だ。

少しばかり焦燥と今と過去が混雑するが、今はこの少女の手を借りるしか状況を打破する方法がない。



「そうです、俺は通りすがりの傭兵です! あなた方を助けに来ました!」



そう俺が言葉を継ぐと、この場に安堵が伝播していく。



「すみませんが、ここの街で大勢の人が集まれるような広場などはありますか!? 出来れば『ゴースト』の群れに襲われた箇所より遠くに!」



すると、少女は恐れを噛み殺したように頷き、東の方角を指差した。



「案内いたします! 皆様、こちらへ!」



俺と少女は急ながらも結託し、ここにいるみんなが焦って転んだりしないよう、逸る気持ちを抑えながらも安全な場へと誘導を始めるが、その刹那。



「きゃっ!」



悲鳴が響き、悲鳴が聞こえた先に視線を向けると、逃げて来たであろう『ゴースト』がこちらへと向かってくるのに気づく。

一気にこの場が混乱と、恐怖に満ちるが俺は避難している人々の波をかき分けて、彼らを守る為に『ゴースト』へと立ち塞がる。



「“罪業は今ここに”――“断罪せよ(Damnatio)”」



向かってくる『ゴースト』へ向かって詠唱開始(コマンド・オン)

俺は『業火の仮面』(アケーディア)に込められた呪力を迫って来た『ゴースト』のみに限定して解放する。



「“我こそ地に墜ちて(Allrgory)罪業を食らう破滅の使徒(Messiah)なり”――“一部開放(エントレンス)”!」



と、内臓の一部が呪力で焼かれつつ、この場に適しただけの呪力を『ゴースト』へとぶつける。

これらの手ほどきは全てカゲフミがしてくれたもので、実戦で使うのはこれが初めてだ。

なんとか『ゴースト』一体を仕留めることに成功するも、まだ『ゴースト』には息があった。



「キ、キキキ……」



『業火の仮面』(アケーディア)の呪力によって自壊していく『ゴースト』だが、奴は黒い爪は3本避難民へ向かって飛ばす。

俺はすぐさま腰に装備していたナイフを抜き、呪力で脚力を強化して爪が放たれた場所まで疾駆する。


なんとか紙一重で爪を全部弾いたが、爪を弾いた先には、先程避難させるきっかけを作ってくれた少女がいた。



「危ないッ!」



俺は再び呪力で脚力を強化。しかし、立て続けに呪力を使ったことで肉体的にも支障が出たのか、視界が霞む。だが、そんなことなどどうでもいい。

俺は間一髪で彼女の手を引いて、そのまま腕の中に彼女を引き寄せては文字通り盾となる。



「“蝕め”ッ!」



瞬間、呪力を俺の周囲に纏わすことで、『ゴースト』の爪はそのまま『業火の仮面』(アケーディア)の呪力に触れて消滅する。



「――づッ!」



たださすがに無傷とはいかず、『ゴースト』の爪は俺の左肩を掠っていた。1度よろめくが、気張ることでなんとか転倒だけは避けた。



「あっ、あの……」



すると、腕の中に収まった少女はおずおずと俺を見上げる。

恐怖ゆえか顔が青ざめているが、頬だけは赤い。俺は少女の声を聞いた瞬間安堵し、急いで少女から身を剥がす。



「ご、ごめん! 守るとは言え、こんなことしてごめん!」



と、口調が砕けてしまったが、今はそんなことなど考えている場合ではない。

今の『ゴースト』の強襲で、今まで順調に避難していた皆は恐怖に怯えている。

だから一刻も早く、この場から離脱せねばと思うも、『業火の仮面』(アケーディア)に込められた呪力は能力の使用対価として俺の精神を蝕んでいく。


こいつらを助ける価値などあるか? 純粋に神を信じ、白痴のように無様に祈っていた奴らを。

それよりもお前は、すぐさま先程助けた娘を殺せ。

()()()()()()()()()()()()()()()()


など、俺の脳裏からそんな残酷極まりない言葉ばかりが押し寄せてくる。だが、思うようにはさせないと俺は荒く呼吸を繰り返す。

その様はどこか獣のようでいて、まだ俺の傍にいた少女は俺を見て怯えるも、彼女はゆっくりと唇を動かす。



「……もしかして、呪力が体を蝕んでいるのですか?」



少女の問いかけに俺は彼女に視線を向けるも、今の俺の視線は獲物を狩る獣同様だ。

突如そんな視線を向けられた少女はさらに身を縮こませるが、息を呑んだ後、負傷した俺の肩へと手を翳す。



「……何をする気だ?」


「助けていただいたのでそのお礼です。“主よ、どうかその加護で私達を導き下さい”、“その光こそ、不浄を清める安息の光なれば”――“精神収束(Soothes)安定措置(mist)”」



詠唱を唱えた瞬間、白い光が俺を包み込む。

そして白い光は俺への体内へと溶け込んで、内側から呪力による不浄を雪のように溶かしていく。

数秒もすれば、精神が引っ張られる状態も落ち着き、思考回路も徐々に元の俺に戻って行った。

開いていた瞳孔も正常になり、呼吸も徐々に落ち着くのを俺は感じる。



「ふぅ……」



少女は息を吐いて、額に浮かんだ汗を拭う。そして俺は改めて少女へと頭を下げた。



「助けてくれてありがとう、けれど危険な目に遭わせてごめん」


「い、いえっ! ミシャ――じゃなくて、わっ、私は大丈夫ですから! それよりすぐに肩の傷はまだ塞がっていないので、すぐに治療します!」


「待った! それはみんなを避難させてから――……」



と言い争いになった瞬間、宙からカナタが降りてくる。



「申し訳ありませんわ、バレル! 私が目を離した瞬間に一体そちらへ逃してしまいまし――ああッ! その肩の傷は……!」



カナタは自身の服の裾を破ろうとしたが、俺は「ストップ!」と制止する。



「これは俺の不甲斐なさゆえだから大丈夫、それにこの子が止血はしてくれたし」


「は?」



瞬間、カナタはその碧瞳に憎悪を宿らせる。いや、憎悪というより嫉妬に近いか。

しかし少女はカナタの嫉妬に気付けない。なにせぺこぺこと何度も頭を下げているから、目の合わせようがないからだ。



「申し訳ありません、全てはミシャの不覚です! 責任をもってこの方の傷は癒しますから……!」


「結構ですわ。カゲフミ」



カナタが少女の謝罪を耳にした瞬間、すぐに治療は不要だと吐き捨てる。そして全ての『ゴースト』を殲滅し終わり、合流してこちらへやって来たカゲフミへと声をかけた。



「……俺に治療しろだって? 止血してあるんだから後は放っておけば塞がるだろ」


「そうだよ、カナタ。最悪自分で縫うし」


「んまぁあああああ――ッ! カゲフミったら本当にわたしのダーリンを虐めるのが大好きですわね!? それとダーリンも自分で縫うなんて言わないで下さいます!?」



何故かこのタイミングで俺のことを「ダーリン」と強調するのは牽制にしてはやりすぎだと思うが、こうしてみんなと合流出来たのを確認した。同時に俺は、避難していた人達へ向けて振り返ってはこう声をかける。



「襲ってきた『ゴースト』は全て斃しました。後は落ち着いて広場で様子を見てください、俺らは街の周囲を見てきます。……とにかく、カナタ、カゲフミ行こう」



と2人と共に、1度この街を出ようとした瞬間。



「あのッ!」



突如、姉さんによく似た少女が俺らの間に再び割って入る。



「わ、私にも手伝わせてください! 『ゴースト』退治!」




おーっと、ラインバレル君が主人公というか男の子してますねぇ!カッコいい!

閑話を読んでくださった方ならお分かりでしょうが、これこそカゲフミの特訓の成果です。

しかし、やはり“罪業”という“法”は少なからず仕手の精神を汚染するので、やはりこれは避けられぬ結果に……。


そして、この謎の少女こそこの作品においてのラストヒロインです。なんだか不穏な予感がしてなりませんね……なにせ彼女もまたカナタ同様、ラインバレル君のお姉さんに似てるんですから。(見た目が)



⚔30話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますのでご注意ください※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3147746/


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