次に目指した街ははたして理想郷か地獄か
今回から6話になります、よろしくお願いします。
俺達が狂界のすぐ先にあった街から次に目指したのは、『ミシッピ』という街であった。
カナタとの一件があったあの夜が一夜明けた翌日のこと。俺達は途中休憩を挟みつつ、20日もかけて『ミシッピ』へ目指すも道中なにもなかったことに驚愕した。
特に『ゴースト』の群れに襲われた訳ではないし、『ゴースト』に襲われたとしても10にも満たない数体が襲ってきただけだ。
このとき、俺は戦闘に参加しようとしたものの、カゲフミに止められた……と言うより、カゲフミが『ゴースト』達を瞬殺した為、カゲフミ以外は特に苦労などしていない。
本当に、最後に寄ったあの街から『ミシッピ』に来るまでなにもなかったのだ。
それはトラブルや戦闘だけでなく、あらゆるもの全てだ。
街はもちろんだが、川や森もない。
ただ広がるのは荒野だけで、進む方向を違えれば一生迷うことになるからと先導役を買って出たカゲフミから、俺達3人は離れられなかった。
カゲフミの道案内がなければ、きっと俺達は『ミシッピ』に辿り着けなかったなんて次元の話ではなかった。
カゲフミの助言通り、あの街を立つ際に食料や水の確保をしていなければ俺達は飢え死にしていただろう。それ程まで、この『ミシッピ』に辿り着くまでには相当な苦労をした訳だ。
カナタは最低限の食料と水は必要だが、幸い俺と『原初の災厄』は別に飲食物は不要なため、普段は節約しているから問題ない。
俺はカゲフミも装備が必要なのではないかと心配したが、カゲフミも特に飲食物は不要だとのことだった。
だから俺らは本当に最低限必要なものだけで、『ミシッピ』を目指した。そして――
「あれが『ミシッピ』……」
俺らは果てのなかった荒野を越え、数キロ先にある緑豊かな小さな街を丘から見下ろす。
この呪力で満ちた狂界を越えた先がなぜこうも緑豊かなのか疑問だったが、理由は1つしかないとカゲフミは語る。
「あの街は言ってしまえば神による施し。そのためか大気中に満ちる呪力も少ないこともあって、ヘレ・ソフィア神の遺産だと勘違いするのもいるけど」
と辛口なカゲフミに対し、カナタは端正な顔を歪めた。
「なーんか、宗教国家臭いですわね……」
「あながち間違いじゃあない。ヘレ・ソフィア神は自身への信仰は最低限にせよ……そう聖書に記してあるから、宗教国家はこの大陸に存在はしないとは言え、な。でも、人の信仰も呪いと左程変わらない」
「つまり、善意という人の勝手で煮詰めた地獄だって?」
そう『原初の災厄』が話に割って首を傾げると、カゲフミは静かに首肯した。
「かもしれないな。あの街はいくつかの慈善団体のおかげで成り立っている街だ。だが蓋を開けたら最悪中の最悪。『血濡れの剣』が『ラジアータ』との中間地点として基地を作ろうとした際、それは反対だと言って街中の人間総出で連中は追い返されている」
「要は神様の御前を血で汚すな……ってことか。聖都より厳しいじゃないか」
と、俺は思わず『ミシッピ』の成り立ちに怖気を感じる。数年とはいえ、腰を下ろしていたセイビアとの格差に言葉を失いそうだった。
そんな事情があるとなると、『ミシッピ』で装備の見直しが出来るかと不安だらけで1歩踏み出した瞬間、カナタが顔を顰めたままその場から動かなくなってしまう。
「カナタ? どうしたの?」
すると、カナタはまるで唾を吐き捨てるかのように『ミシッピ』のある方角を睨む。
「わたしはパスですわ。わたしは先に1人でこの先にある狂獄へと向かいます」
「待った、待った! 一応『ミシッピ』には装備の見直しのために寄るんだよ? それにカナタには食料や水が必要じゃないか!」
俺が説得に出れば、カナタは碧色の瞳をこれでもかという程に細め、鋭い視線を今度は俺に向ける。
「いーや! あんなクソ教徒共に乞うのであれば、餓死した方がマシですわ!」
「だったらもう先へ行こう。せっかくの人の好意を無駄にしやがって、この売女」
「誰が売女ですってぇえええ――ッ!? ……あら?」
カナタがカゲフミの暴言に噛みついていると、カナタはある一点へと視線を向ける。
急に静かになったカナタを見て、俺達もカナタが視線を向けている方角へと視線を移した。すると、
視線の先に映っていたのは黒煙と赤。
「……あーあ。いくら神様を信じてるとは言え、やっぱ『ゴースト』に対抗するには難しかったかぁ」
「馬鹿! そんなこと言ってる場合じゃないだろ!?」
俺は呑気な『原初の災厄』の一言に声を荒げ、4人の中で唯一この場で事態をどうにかすべきだと声をあげる。しかし、カゲフミは俺の炎のように荒ぐ意思に水を被せるかのように冷たく返した。
「馬鹿はアンタだ。いくら小規模の街とは言え、『ゴースト』の群れに襲われたらひとたまりもない。ましてやあの街にいるのは治療班崩ればかりだ、戦える奴がいる訳ないだろ」
「だから助けるんじゃないか! 助けてあげないとこのままじゃ――」
「バレル、少し落ち着きなさいな。別に助ける必要はなくってよ。見たところ、燃えているのはごく一部です。なら避難程度でどうにかなりますわ」
「え?」
すると、カナタは銀色の髪をたなびかせては全身に呪力を纏わせる。
「仕方ありませんが、愛しのダーリンの願いとあれば話は別です。カゲフミ」
カナタから出撃を要請されたカゲフミは重く嘆息を吐く。
助ける義理なんてどこにあるのやら――そんな内心が透けてみえるが、彼は眼鏡を取り出して服の袖を捲る。
「了解。俺は高台へ向かって、そこから援護する。先導はカナタ、街の住人の救出はラインバレルに任せる」
「分かった!」
そう言って、俺達は丘を降りて方々向かうべき場所へと走り出す。
そして、この場に唯一取り残された『原初の災厄』は静かに顎を撫でる。
「……ほう。あそこに面白い者が数人おるな」
と、街に住まう人間の呪力を舐め回すように手に取っては選別していく。そして自身の興味を向けた人間の呪力を精査し終わった後、口端を三日月に歪める。
「また面白いものを見せてくれるようだな。いいぞ、是非ともラインバレルを地獄へ堕とす糧となれ」
『原初の災厄』は、そんなお前達を歓迎するぞとこの先に待ち受ける過酷な運命を勝手に1人で受け入れる。
そんな独善的で邪悪な一言など、俺達の耳に届くことはなかった。
しょっぱなから街が燃えてる……!? いや、創作においては村や街は燃やすものです。どうも織坂一です。
今回は短めとなってしまいましたが、6話開始早々不穏な空気で嫌になってしまいますね。
というより、本当にラインバレル君はなんでもかんでも人を助けようとするので、正直苛立った方がいたら申し訳ありません。ある種これは彼の業なので……。
忘れてましたが、この6話は少々長めです。
⚔29話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますのでご注意ください※)
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