カナタ・ハルミという女の裏事情
それになんだかんだこの場は甘えてしまったので、謝礼代わりに「ええ」と笑みを返す。
「戦ってるときのカナタさん、まるで天女みたいで綺麗でした」
「やーん! やっぱりダーリン大好き――ッ!」
そのまま俺の胸板に顔を擦りつけるカナタさんを他所に、カゲフミも呪力を霧散させ左腕も元に戻っていた。
狂界の門前で再度顔を合わせたときは失礼なことを思ってしまったが、それも俺の中で撤回される。
呪力の操作の精度は正に桁違いで、あれだけの呪力に一切呑まれることなくカゲフミは制御していた。
カゲフミ本人にとっては当たり前の話なのかもしれないが、自身の欠損した体を不利とさせない時点で戦略を立てるのが上手い。
2人共方向性こそ違うが、こうしてみれば『光の盾』に所属する兵士より数段は上だろう。
そしてようやく事態が落ち着いた後、カゲフミは俺に向き直り、重い溜息を吐く。
俺は今更ながらにしまったと思い、謝罪を口にしようとした同時。
「「あのさ」」
見事、俺達の声は重なってしまう。
「あ、先にどうぞ……」
俺は急に気恥ずかしくなってカゲフミにこの場を譲ると、カゲフミもどこか照れ隠しするかのように咳払いを1つする。
「良かったら俺についてくる? 目的は一部合致しているし、リアムのいる結界までの道案内は必要だろ。……今のアンタじゃ、そこの女を無駄に死なせるだけだろうし」
「え? いいのか?」
すると、カゲフミはしつこいと言わんばかりに頭を掻きながら乱雑に返答する。
「いいよ。目的地が同じ以上、知った顔の死体が転がってたら気分も悪いし」
――と言うのが、昼に起きたことのトラブルの経緯である。
俺としては心強い味方が増えることには大歓迎だし、なにより命の恩人に今後恩を返すチャンスがやってきたのだ。今のところ、彼に恩を返せる機会など程遠い場所にあるが。
俺達は昼に起こったアクシデントを各々の形で思い返しつつ、ビールを煽るなり不機嫌そうにしていた。
そんな中、どこか酔った様子のカゲフミがこんな言葉を零す。
「にしても、そこの淫売は面白い能力を持ってるな。能力が陰湿すぎる」
とカゲフミは、突如カナタさんを小馬鹿にしたように笑う。
それゆえカナタさんが勢いよく立ち上がるも、俺はなんとかカナタさんを宥めた。
「まぁまぁ、落ち着いて。カナタさんも本当にすごかったですよ! ……一体なにが起こったのか全然分かりませんでしたけど」
「ダーリン、酷っ!」
俺の言葉が止めとなって床に崩れ落ちるカナタさんだが、俺は彼女の隣に寄り添う。そして項垂れる彼女の背中を優しく摩りつつ、カゲフミへとこう問いかけた。
「結局、あれはなんだったんだ?」
「簡潔に言えば、周囲にある呪力へ自身の呪力を同調させたってこと。そして干渉した呪力と同調を深めて、耳を潰した挙句に精神的な攪乱を起こしたって感じ」
「――って言うか、あなた! わたしの飛ばした呪力を吸い取って矢にしておりましよね!? 本っ当に最低! 変態!」
カナタさんは今思い出したと言わんばかりに勢いよく立ち上がり、カゲフミへと詰め寄る。しかし、カゲフミがカナタさんに構うなんてする訳がなく。
「言っただろ、呪力は温存しておきたいと。別にアンタなんかに興味なんてないし」
「まぁああああッ! なんて合理的なんでしょうね!? あなたなんてライバルどころか犬畜生にも劣りますわ!」
「はいはい。訳アリ事情を抱えた痴女は黙っててくれ」
「訳アリ?」
思わず俺は、カゲフミがなんとなく放った言葉に気が立ってしまう。
すると、カゲフミはあっけからんと俺に顔を向けては淡々と胸の内を語って行く。
「気づかない? あんな完全に攪乱に長けた能力なんて、キクキョウ家の人間どころか『血濡れの剣』辺り……特に『血濡れの剣』の裏方である『収集隊』の人間の十八番でしかないと思うけど」
『収集隊』と言う存在は初めて聞いたが、その名の通りに捉えていいのであれば、きっと彼らが主としているのは直接的な戦闘などではなく陽動かなにかだろう。
少しだけカゲフミの考察が気になってカナタさんへ視線を向ければ、彼女は大人しくなって苦虫を噛んだような表情をしている。
すると、今まで蚊帳の外で大人しくしていた『原初の災厄』がこの問答試合に参戦し始めた。
「確かにカゲフミお兄ちゃんのいうとおり、カナタお姉ちゃんって少し特殊だよね。ボクもあんな能力なんて見たことないよ。それに、あんなに恐れもなしに『ゴースト』の群れへ突っ込めるなんてすごいなぁ……特に空なんて逃げ場がないのに」
「……別に。呪力を使って戦うなら、それこそ能力は十人十色ですわ。別にわたしによく似た能力を持った人間なんてそこらに中いますし。坊やが世間知らずなだけでしょう?」
「へぇ? じゃあカナタお姉ちゃんは自分以外にも似た能力を持った人間を見たことあるんだ? ねぇねぇ、どこで見たの?」
視線を逸らし、『原初の災厄』の問いに答えまいと口を噤んでいたカナタさんの頬には、汗が伝っている――いや。
その汗かと見間違えた雫がなにか理解した後、俺は遠慮なしに笑う『原初の災厄』を睨む。
「……それ以上、なにも言うな」
「え?」
と、『原初の災厄』が俺が知らぬうちに口にしていた言葉を嘲笑った瞬間だった。
「カナタさんが嫌がってるだろう? だったら、それ以上なにも言うなよ。『原初の災厄』」
「なんだよ、ラインバレル。別にボクにだって悪意がある訳じゃ――……」
俺は床にしゃがみ込んでいたままだったが勢いよく立ち上がり、『原初の災厄』の胸ぐらを掴む。
「悪意しかないだろ! カナタさんだって苦しんでいるんだ! それに……俺の大事な仲間を泣かすのは許さない!」
瞬間、店内は俺の怒号で静まり返ってしまう。
俺は訪れた静けさでようやく我に返り、『原初の災厄』の胸ぐらから手を離す。
その代わり、離した手でカナタさんの手を握る。
「少し外で話そう」
そして、そのまま彼女を連れて俺は一旦酒場から出て行くのであった。
前回はあれだけ賑やかだったのに、一気にお通夜ムードですみません。
とまぁ、今回はカナタ編①と称したお話の開始です。
確かに彼女は色々と胡散臭いですが、彼女は一体何者なのか……はそこまで明かしません、はい。
ただ、あくまで中盤にラインバレル君強化のためのイベントになるので、彼女の正体についてはもうしばらく開示までお待ちください。
⚔23話の内容解説(活動報告)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますのでご注意ください※)
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