人生5度目のピンチは美女によるデストラップ
今話から第4話になります、よろしくお願いします。
俺は今、人生で5度目になる危機に直面している。
1度目は、あるものを洗浄作業している際に足を滑らせ、酸のプールに浸かりかけたこと。
2度目は、1ヶ月前のセイビアでヴァンタールに利き腕を落とされかけたこと。
3度目は、3週間前に『ゴースト』の群れに襲われたこと。
4度目は、『ゴースト』を全滅させた後に、呪力に焼かれて死にかけたこと。
ああ、どれも俺の人生に終止符を打つほどの危機だったとも。
しかし、今直面している危機は少しだけ毛色が違う。
俺の左腕に当たるのは、豊満かつ柔らかい感触。
耳元に当たるのは、温かい吐息と甘い声。
鼻腔を擽るのは、女性特有の甘い香り。
俗に言う、美女からのデストラップである。
では、なぜこんな貞操の危機に瀕しているか今から説明しよう。
◆
その前に、ここ商業国・『オリベ』の話をしておきたい。
ここ『オリベ』は、この大陸における唯一の商業国であり、その人口と領土の広さは大陸一と噂されている。
ただあくまで商業国というのは自称であり、その呼称の由来は非常に複雑である。
この『オリベ』が商業国と自称し、世間からそう呼ばれているのは、『オリベ』が数多の国への出入り口となっているがためだ。
港へ出れば別の大陸へと移ることが出き、地続きの橋を渡れば、今度は『ラジアータ』へ至るための架け橋へ続くことが出来る。
ゆえに旅支度であったり、他の大陸との間での輸出や輸入などはこの『オリベ』で行われているのだ。
また人口が多いのは、やはり一重に如何なる身分・人種であっても受け入れるのがここのモットーであるからだ。
聖都やその周辺の都市や国では、余所から来た者を歓迎などしてくれない。
それは俺が育ったセイビアも同じで、だからすぐにイシュルという無法地帯……謂わばセイビアに住まうことを歓迎されなかった者達が腰を下ろしているのだ。
また、商業国という場所はあらゆる闇の温床でもある。
広大な土地ゆえ、警察もある程度配置されているとは言え、もはや裏の世界は法さえ存在を暗黙の了解として得ている。
さらに、さらに、さらに――と裏を洗えば出てくるのは、最悪髑髏の山だ。
追おうとすれば当然存在を消されるし、なのであくまでここはとっても栄えていて、色んな人達が行き交い、どんな人でも滞在権を得られる平等な国といっておこう。
そして俺達がこの『オリベ』に来たのは、ここが『ラジアータ』までの通過点であるのと同時に、ある問題をクリアしなければならないからだ。
ゆえに俺が『オリベ』に着き次第訪れようと提案したのが、狂界と呼ばれる別の大陸への入り口である。しかし、その提案はすぐ『原初の災厄』に却下される。
何故、特に装備も必要ない俺らが狂界へ向かうことが断念されたのか。その理由は至って単純である。
「狂界はある種、リアムを筆頭とする邪の存在を食い止めるための結界だからな。特別な術は施されてなどいないが、それでも寄るなという話だよ」
と『原初の災厄』は、俺に狂界の説明をつい2日前にしてくれた。
狂界を越えてしまえば、後は『ゴースト』の群れと呪力に満ちた大気がお出迎えしてくれるらしく、一般人が超えるなど自殺行為に等しいと『原初の災厄』は語る。
「なにより、あのソフィアが一般人が狂界を越えぬようにひと手間加えた上に、忠告までするという2度手間を踏んでいる。それほど厄介だという話だよ」
「じゃあ、どうやって狂界を越えるんだよ?」
と俺は勿体ぶるこいつに怪訝そうに言葉を返した。
あの一件以来、俺は『原初の災厄』に対してかなりフランクな口調になっていた。
なにせ出会った当初から、次になにかすれば敬意など示さないと心に決めていたのだ。現に当の本人もそれを理解しているのか、そこをとやかく追求しなかった。そのぶん、少し扱いが雑になった気もするが。そして『原初の災厄』は淡々と言葉を返す。
「狂界を越えるためにはな、『血濡れの剣』御用達のパスポートを貰わなければならない。ただこのパスポートを正式なルートで入手することなどまず不可能」
「……と言うことは?」
もはや嫌な予感しかしないし、残された道は僅かしかない。だが、念の為に俺は解答を一応聞いておくことにする。
すると、『原初の災厄』は静かに自身の左手の人差し指を折る。
「そうさなぁ……。まずは追い剥ぎか」
「うっ」
続いて、『原初の災厄』は中指を折る。
「もしくは恐喝」
「うぅ……」
最後、『原初の災厄』は薬指を折り、盛大に呵々と笑う。
「最悪の場合は、奴らと真っ向からの衝突だな! 『血濡れの剣』の連中の死体を港に積んでやればよかろう」
「ぐっは!!」
一瞬、思わず俺は精神的ダメージにより体勢を崩してしまう。
予想はしていたが、なんて犯罪のオンパレードか。正直、既に忘却したはずの薄汚い仕事達の方がまだ人道的である。
そんな中、俺はすれ違った男性と肩がぶつかったことで、ようやく現実に意識が帰って来る。
肩がぶつかった男性に俺はすぐ様謝罪をしたが、男性からの返答は舌打ちだった。
まぁ、肩をぶつけて舌打ち程度で済んだのであれば穏やかなものだ――そう『オリベ』の入り口をふらふらと彷徨う俺ら。
ちょうど夜も更けかけているし、宿をどうにかしようと思ったが、俺はこの宿探しに2時間程付き合わされていた。
『オリベ』は外から行き交う人が多い分、短期的な宿泊をする人間が多い。
故に宿屋はそれなりにあるし、そこらの宿であれば1泊2000円と安い上、早々宿探しにこんなに時間はかけないはずなのだが。
「……なぁ、いつまで宿探しをするんだよ? もう夜なんだが?」
「ふざけるなよ、戯け! この儂をそこらの安宿に寝かすとは何事だ!」
ご覧の通り、贅沢を抜かすやつが約1名。
俺は最初、そこそこ綺麗な宿屋を抑えたのだが、金食い虫はベッドが硬いからと文句を言って宿屋を飛び出してしまったのだ。
「待てって! 大体、お前野宿は出来ただろ!?」
俺がそう諭せば、『原初の災厄』は大きな瞳を潤わせる。
「嫌だと言っておるだろうがぁああああッ! 儂だって野宿で散々我慢したもん! 後数百万所持してるなら、高い宿に泊まらせろ馬鹿ぁあああああ――ッ!」
「しっ! 今手持ちの全財産を往来の場で明かすな!」
……と言った具合で、俺はこいつの我侭に付き合わされている訳だ。
そして俺達はこの後何件も宿屋を周るのだが、『原初の災厄』は「気に入らない」とその度に駄々を捏ねる。おかげでもう時刻は夜中を回りそうだった。
「うう……っ、あのマゾなら権力と札束で店主を殴ってくれるのに……」
「誰だよ、マゾって。んな結婚詐欺師のカモになりそうな男なら、どうぞ聖都に戻って漁ってきてくれ。お前は顔がいいんだから色々大丈夫」
「そんな趣味はないといっておるだろうが! 儂はなぁッ! お前のような――」
「分かった、それ以上言うな! それ以上口にしたらハツは食べさせませんからねッ!」
うっかりあの日の激痛が蘇りかけたが、『業火の仮面』から感じられる呪力は俺を小馬鹿にしたように嘲笑っている。
過去、純粋な俺はうっかりこいつの顔面だけに釣られて、危ない橋を渡りそうになったことがあった。しかし今思えばあんな橋を渡りかけたのか。
『原初の災厄』は顔が良いとはいえ、中身は超絶醜悪なドS悪趣味の詰め合わせかつ人類の敵だ。
健全すぎるのもあまりよろしくないな――そう自戒していたときだった。
皆様こんばんは、織坂一です。
今回から第4話ですが、前回から更新に間が空いて申し訳ありません。
結構『オリベ』は治安が悪そうに見えますが、まぁ色んなものが出入りする街といえば大体こんなもんじゃないかという私の偏見で出来上がってしまいました。深追いはよしましょう。
にしても、このままだとラインバレル君達は『ラジアータ』へ行けなくない……?
次回!そんな可哀そうな彼らの前に、1人の天女が降臨します!
⚔15話の内容解説(活動報告)はこちらに成ります!↓(※多々ネタバレが含まれますのでご注意ください※)
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