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マナイズム・レクイエム ~Allrgory Massiah~  作者: 織坂一
1. 青年は戦う為だけに全てを業火に焼べる
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旅支度



と、先程まで悲しみで胸が苦しかった俺だが、今ではもうそんな痛みや悲しみなど感じていない。

俺が感じているのは、不安だけだ。


俺達はあの後、セイビアの東側の区画にある呪具屋を訪れていた。

呪具屋とは名前の通り、呪具を扱っている店舗のこと。

旧暦だと呪具は武器が多いらしいが、この改暦では呪具の性質上、装飾品として造られている。

店内は所狭しと呪具を並べた棚があり、俺はガラス越しながら陳列された呪具達をまじまじと見つめる。



「ええと……呪具って確か、自身の呪力を増加させるものなんですよね? しかも、呪術を使う上で大事なものだと聞きましたが」



俺は一応確認のために、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんへ呪具の用途を尋ねるが、彼は目についた呪具を見るや否や、店員へガラス戸を開けさせてはカゴへと物凄い勢いで呪具を放り込んでいる。

しかしそれでも俺を無視する気はないのか、僅かな意識を俺へと向けて呪具の詳細を解説し始めた。



「いいや? 増加はせん。恐らくキクキョウ家の連中であれば、自分達用にそんな代物を生み出してそうだがな。こうして売り物に出されている偽物(やすもの)は呪力を留まらせるのだけで精一杯だ。まぁ呪力の貯蓄といった面では重要かもしれんが」



すると、すぐ傍で俺達の様子を伺っている店主さんが鋭い眼光で俺達を睨む。

拙いと思った俺は、店主さんに向き直って何度も頭を下げた。だが、そんな苦労(うら)を知らない『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんは淡々と話を続けていく。



「呪力の根源は憎悪ゆえ、留まらせるというのは精神上不衛生極まりない。だから人々を少しでも楽にさせるためにあの傍観者(ゴミ)が智慧を授けた……とか」


傍観者(ゴミ)……?」



はたしてそれは一体誰なのか問いかけたい気持ちでいっぱいなのだが、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんはどこか虫の居心地が悪そうであった。


先程にも増して、呪具をカゴに放るスピードが速くなったため、不機嫌かつあまり深掘りされたくない話題だと俺は理解する。

とにかく俺は、少しでも財産が手元に残るように足掻かなければならない。しかし――



「嘘だろ……? この1時間弱の買い物で俺の貯金が半分以下になってる……」



思わず、俺は悲惨な現実にその場に膝から崩れ落ちた。

しかし、俺の貯金を好きに使い込んだ『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんはどこか上機嫌に笑っている。

ああ、もう分かったと、俺は胸中であることを覚悟する。

()、この人が余計なことをしたら、もう「さん」付けとか敬語は止めようと。

さすがの神様も、こんな悪逆非道な人間を敬えなんて言っていないし、聖書にだってそんな一文は載ってはいない。多分。


偉大なるヘレ・ソフィア神様、こちらを見ていますでしょうか。もしこの惨状を見ていらしたらこの災厄(バカ)にどうか鉄槌を――と胸中で祈りを捧げていると、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんは俺の内心を読んだのか口元を緩めている。



「はっはっはっ、奴は勤勉かつ真面目ではあるが、奴の権能は“繁栄”だぞ? 鉄槌などではない」


「確かに人類の繫栄はヘレ・ソフィア神の偉業みたいですけどね! こういった害悪を排除するのも、人の繁栄に繋がるのではないでしょうか!?」


「呵々ッ! いやいや、儂に手は出させん。リアムをこの手で殺すまではな。恐らくそれまでは天で見守ってくださることだろうよ」


「え?」



ふと、突如出た話題に、俺は思わず膝をつく姿勢から正座に変わっていた。まぁこうなるのも仕方ない。

ヘレ・ソフィア神が、リアムと関係している――そんな意味不明な一言を聞いてしまえば、拍子抜けも良いところだ。

『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんはそれを最初から分かっていたのか、淡々と彼らの間にある因縁を語り始める。



「確かこの世界で出回っている聖典にもあるはずだぞ。かつて、ヘレ・ソフィア神(やつ)はリアムを討ち、現に弱体化には成功している」



そしてそれを何故あたかも目にしたように語るのか、本当にこの人達の因果関係が理解出来ない。

ただ、この因果関係を理解出来ないなりにも感じ取れたのは『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんはヘレ・ソフィア神(てん)リアム(じごく)も憎んでいるというだけ。

彼があの2人を憎むたび、『業火の仮面』(アケーディア)に込められた呪力が俺の中で波打っている。



「だが、奴とて神の一柱。いくらリアムが邪神だからといって、奴も神の法にしがみつく者であるならば、そう簡単に討てんよ」


「まぁ、確かに複雑な事情はありそうですしね……」



古来より神話においては、神同士での争いによって次々と人類の繁栄などのきっかけなどが生まれているが、それでも何人も同じ存在がいる。それなりに均衡を保たなければ、それこそ世界が滅ぶ原因になりかねない。



「だからこそ、呪具やキクキョウ家や他の三家が辿り着いた超常の術は、ヘレ・ソフィア神(やつ)の置き土産のようなものよ。自分達で邪神から身を守れ……と。全く、奴の愛する者への愛情深さは相変わらずよ」


「……」



ふとこの瞬間、俺は言葉を失う。

淡々と神や邪神、それに聖典に隠されているはずの真実を語る『原初の災厄』さん(このひと)が、ものすごく遠くにいるように感じる。


だと言うのに、俺がそんな聖戦(ばしょ)へ足を踏み入れていいものかと思ってしまう。

なにせ俺も教会へと通っていたほどだから、ヘレ・ソフィア神をそれなりに信仰している。

ただの人間が、神の辿った道に続くなど烏滸がましい。罰当たりもいいところだ。しかし。



「だが、儂の呪力を用いた“罪業(シェルス)”こそ、ヘレ・ソフィア神(やつ)が望んだ奇跡そのもの……。それの使い手に選ばれたお前も、少なからずこちら側に来る運命にあったのだよ」



『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんは視線1つで俺をこう諭す。

既に(じぶん)を受け入れたのならば、足掻いてでも断罪者へと至れと。

俺はその視線に対して、頷きだけ返す。

確かに荷こそ重いし、今後俺がどうなるかは不明だ。


しかし、両親の無念を晴らし、姉さんの尊厳を守った上で誰も悲しまない世界が創れるのならば、神々の争いだろうがなんだろうが挑んでみせる。


ただ、『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんはそんな俺を訝しむように消え入りそうな声音で俺の決意を否定する。



「……だから、おかしいんだよお前は。誰も悲しまない世界を創るなどいって戦いに身を投じるのは、既にソフィア(やつ)リアム(あれ)とそう変わらんのに」


「なにか?」


「いいや、お前の聞き間違いだよ」


「はぁ……」



俺が立ち上がって『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんに追いつくと、彼はなんでもないと首を横に振る。



「そういやお前、個人の金庫に400万も預けていたが、なにか怪しげな仕事などしていないだろうな?」


「あー、ははは……。ここ3年間は堅実に働いてきましたよ」



と、俺は笑ってここ5年のうちあった2年間の職歴を苦笑1つで記憶から抹消させる。

なにせ俺は10歳頃から学校に通いつつ働いていたが、所詮学校を卒業したところで正社員になれるほど優秀ではなかった。


なら稼ぐためには、如何なる仕事にも手を出したが、姉さんが亡くなったと同時にそういった業界から足を洗っている。



「ほう? しかし、苦労はしたようだな。まさか『マタ』の治療に金が必要だったか?」



『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんはもはや俺の思っていることだけでなく、俺の過去にさえ的確に言い当てる。

そう、俺は『マタ』の治療に金が必要だった。


幼い頃から父さんが『マタ』を発症して、続いて母さんが、そして両親の死後は姉さんも『マタ』によって命を落としている。



「『マタ』の治療は、やはり呪力緩和に長けた治療班(ヒーラー)が必要ですからね。薬草でも多少は抑えられますが、それでも効果は雲泥の差ですし……」


「ましてや治療班(ヒーラー)はなれる者が限られているからなぁ、この大陸中に『マタ』が蔓延している以上、治療班(ヒーラー)の希少価値も高い。……治療費はさぞ高額だったろうに」


「ええ。治療班(ヒーラー)に10回程依頼する金があるなら、2年は働かずとも贅沢して暮らせますから」



と言ったように治療班(ヒーラー)に呪力緩和の治療を依頼するには、それだけの金がかかるのだ。

しかも、治療班(ヒーラー)に出来ることはあくまで緩和で、呪力の浄化ではない。だからこそ、余計に出費が嵩む。


ゆえに父さんと母さんは、俺と姉さんの今後を案じてか治療班(ヒーラー)の治療など1度も受けていない。

彼らは治療班(ヒーラー)などと高尚に名乗っているが、結局彼らもまた金が必要で、簡単に金を巻き上げられる方法(ビジネス)がこれだっただけだ。


本当に、この世の中は汚い。そう思った瞬間、俺は我に返る。

一体、俺は今なにを考えていたのだろうか?

生きていくために金が必要だなんて、この人間社会では当たり前の話ではないか。

だと言うのに、治療班(かれら)は悪意と欲で金を搾取していたと考えるなんて、()()()()()()()()()。そう焦りを感じた瞬間だった。



「ほれ」



『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんは呪具がたんまり入った袋の1つを俺に差し出す。



「とにかく付けておけ。少し悪趣味なナリになりそうだが、儂があの店でお前の呪力に波長が合いそうなものをかたっぱしから購入した」


「もはやそれは荒らし行為ですね……って、お前の呪力?」



ようやくこの疑問で、俺は平静になる。

そもそも俺の体にある呪力は『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんのもので、俺のものではない。

しかし、実際はそうではないと『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんは首を横に振る。



「まぁ、元は儂の呪力だがな。そのまま入れてしまえばお前は死ぬだろう。だから、お前の体が勝手に変換しているんだよ。業腹だが」


「けど、そんな芸当俺には――……」


「出来るさ。お前は“再誕”という法は使えんが、“罪業”という法には至れる。そういう性質なんだよ」



だからそれ以上は聞くなと言う『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんの制止で、俺は言葉を継ぐのを止めた。

確かに色々問いたいことは山程あるし、納得のいかない部分もある。


ただ、それでもこうして力を貸してもらい、こんな過酷な運命に身を投じた以上、それなりの振る舞いはしなければならない。


その後、俺は『原初の災厄』(ファースト・スカージ)さんから渡された呪具を一通り付けてみたが、やはり軽薄かつ軟派なナリになるのは避けられなかった。

そして、夜が明け次第このセイビアを立ち、『ラジアータ』を目指すこととなる。




これほどまでにタイトルに困った回はこの先ないと思います。

にしても、色々と明かされてしまいましたというか現段階で必要な情報は今話までで出し切りました。


いやー、にしてもリアム君とヘレ・ソフィアは1度殺り合ってましたかー。やってましたねー、第1話で。

それよりも個人的には、ラインバレル君がよく今まで生き残れたなって事実の方が強いです。


今回で第2話が終わり、いよいよ『原初の災厄』さんとラインバレル君の旅が始まります!



⚔10話の内容解説(振り返り)はこちらになります!↓(※多々ネタバレが含まれますので、ご注意下さい※)

https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3117537/


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