RPG ―ロールプレイングゲーム―
「おやすみになりますか?」
「はい」
「記録をつけますか?」
「はい」
シスターは開かれた分厚い冒険の書に、
勇者Lv.9 H98/98 M30/30
と書き込んだ。
そして眠りから覚めた勇者に向かって、
「あなたの旅に神のご加護がありますように」
と言った。
勇者は何も言わずに去っていった。
彼が何人目の勇者かわからなかった。
この先にはとんでもなく強い魔王がいて、何百人…いや、何千人もの勇者が魔王の前に散って行った。
おそらく先ほどの勇者も同じ道を辿るだろう。
レベル9…魔王をなめているとしか思えない。
しかしある時、シスターは1人の勇者に恋をした。
彼だけは死んで欲しくないと思った。
だがしかし、彼のレベルは1だったのだ。
魔王の元に行っても、やられるのは目に見えている。
しかしシスターはいつも通りの言葉を返すことしか出来なかった。
「おやすみになりますか?」
「はい」
「記録をつけますか?」
「はい」
冒険の書にペンを走らせようとした時、シスターははっと気がついた。
この冒険の書は神聖なもの。間違いは許されない。
なぜならそれは……
シスターは震える手で、
勇者Lv.99 H999/999 M999/999
と書き込んだ。
するとどうだろう。
ひ弱に見えた勇者の筋肉が盛り上がり、優しげな顔には苦難を乗り越えた男のしわが刻まれた。
ただの優しい青年にしか見えなった男が、屈強な勇者になったのだ。
「あ……あなたの旅に神のご加護がありますように」
シスターの動揺にも気付かず、勇者は何も言わずに去っていった。
数日後、勇者は魔王を仕留めた英雄として帰ってきた。
シスターの前に立った勇者は、突然こう切り出した。
「仲間になってくれませんか?」
勇者の仲間が説明する所によると、魔王を倒した勇者は、王からの依頼でさらに強いと言われている魔族を倒さなければならないらしい。
「あなたは私の勝利の女神です」
勇者は熱っぽい口調でそう言った。
けれどもそれは、シスターが恋をした優しい青年のものではなかった。
「あなたには私など必要ありません」
シスターはそう言って断ると、いつも通りのセリフを口にした。
「あなたに神のご加護がありますように」
勇者は記録もせずに帰って行った。