1話 知らない天丼
「……知らない天井だ」
いや、天井……というか、岩の壁かな。
本当に見た事のない場所だけど……まぁ、日本じゃ無いことだけは分かる。だって、視界の端にゲームの時と同じくマップが見えているし。
それにさ、マサイ族かってくらい目がいいんだけど。それに周囲に灯りが見えないっていうのに夜目も効いているしさ。
何となく……嫌な予感がするな。
体を起こして周囲を見渡してみる。当然だけど岩肌が見えて……そして、片隅に机と椅子があった。後はベッドなんかもあったが……なぜに俺が目を覚ました場所は岩肌の上なんだろうね。そのせいで少しだけ腰が痛い。
まぁ、いいや。とりあえず分かったことがある。
これは……間違いないな。俺は異世界転移というものをしてしまったらしい。どうしてだとか、理由に関してはサッパリだけど……まぁ、人生を捧げてきたゲームが終わった直後だったし、日本に未練は少しも無いからいいか。
それで今いる場所は……っと。
畳八畳程度、俺一人で暮らすのなら問題が無さそうな広さだな。とはいえ、さっき見た机と椅子、それと消されたランプが四つ、小綺麗なベッドが一つあるだけだ。暮らしたいかと聞かれれば確実に首を横に振る。
一応、机の上のランプをつけておく。
一瞬だけ目が眩んだけどすぐに慣れた。机の上にノートもあったし、誰かしらがここで活動した痕跡があるな。ノートを一ページ捲って開いてみる。
ふむふむ、やはりと言うべきか、ここは異世界で間違いが無いみたいだ。それでいてステータスだとかの異世界要素も多く含んだ世界らしいから、俄然楽しみになってきた。
ここはダンジョンの一室のようで、異世界転移した人が訪れる場所でもある、と書かれている。外へ出れば知らない怪物が跋扈していて命からがら戻ってきたみたいだな。
とはいえ、世界の説明と書いている人に関わる話が書かれているだけで、他に有用そうな情報は無さそうだ。書いている人に関する話も途中で止んでいるあたり死んだのか。日記のように書かれているし三十四日目以降は……。
はぁ、まずは俺についての確認だ。
とりあえず……オーケー、ステータスは開けた。ここら辺はゲームの画面と変わらないな。それと全スキルレベルが一に戻っているから……まぁ、ステータスの詳しい数値は分からない。
ただゲームの時の俺が持っていたスキルはそのまま所持していた。職業も銃士のままだし……強くは無いが戦えなくも無いか。
銃士はステータスの上昇が低い代わりにスキルレベルが上がりやすく、経験値も多く貰えて、速度が上がりやすくなる。ただ職業補正が極端に低いからメリットがデメリットに勝てないんだよな。……変える方法が見つかったら違うものにしよう。
「白と黒も出せるな」
俺の心器は二丁拳銃の白と黒だ。
まぁ、最初から始め直しみたいなものだから拳銃スタイル以外は持っていないようだけど。本来ならショットガンだったり、スナイパーライフルの状態が強かったんだけどな。
ワガママを言っても仕方ないか。
まだ使える武器があるだけマシ、そう考えておこう。これで大盾とかが来ていたら多分、ブチ切れていた自信がある。アレは最強クラスの武器だけど暴れられないから楽しくない。
心器の性能の確認は……後回しでいいか。
スキルを見た感じ、俺がゲームでよく使っていた空間系のものも残っている。レベル一とはいえ、敵さえ選べば早々に死ぬ事は無いだろう。
倉庫の中身も引き継がれているのか。
スキルとかは良いとしても……持ち物に関しては駄目じゃないか。だって、ここにあるものって希少な素材もあれば、グレードの高い武器だって多くある。もっと言えば最高ランクの武器だって少なくないし……。
なにドMみたいな考えをしているんだ。
よくよく考えてみろ、ノートを書いていた転移者も簡単に死ぬ世界だ。死ななくなる可能性を高められるのならそれでいいじゃないか。……ってか、職業が銃士で心器が二丁拳銃の時点で十分なハンデだし。
倉庫からは……あ、ゲームと同じか。
欲しいものの検索をかけて二つの武器を出しておく。
片方は杖で……ちょっと説明が難しいけど先っぽに大きな玉が付いている。その四方に大きなリングが付いていて、そこにもう一つのリングがついているってフォルムだ。
もう片方が刀、これは説明が簡単だね。何の飾りっけのない柄から刃先までで一メートル弱ある。
杖の方が夢想、刀の方が堕天。
両方ともグレードが最高ランクだ。杖は魔力を高めて魔法制御の手助けを、刀は斬れ味が抜群で劣化する事が無いという普通の能力だけど、持ち主と共に成長していく武器だから使ってこそ意味がある。
俺が作った武器だけど……もう一回、作ろうとして完成させられるかは分からない。それくらいこの武器には価値がある。
というか、本当に今更だけど目線が高いな。
って事は、今の俺の体はゲームのままなのか。元の俺の体はチビだったからな。これが百八十センチの目線……うーん、悪くない!
刀を腰に差して、杖を背負う。
これがゲームの中での俺のデフォルトの姿だ。一応、白と黒があるけど雑魚狩りは刀の方が楽だからね。さっさとレベルを上げておこう。
おーし、マップで検索をかけてっと。
「……はぁ?」
ダンジョンの中にゴブリンやオークがいない。
ウッソだろ、あれほど群れていて狩りやすい経験値はいないのに。……なら、ウルフとかの最下層種族は……これもいないのか。
待て待て待て、気が付いてしまった。
ここ……高難易度ダンジョンだ。最弱でもゴブリンリーダーからだし、ソイツらも入口付近の上の階層にしかいない。今いる場所は十四階層だから行くのは手間だよな。
なら、ポータルとかの入口へ飛べる魔法具を探そう。……って、あったけど、これはこれで面倒だなぁ。ゲームでもポータル前に守護する魔物がいたんだけど、この世界にもいた。
十四階層ならオーガがいる。
ゲームと同じ……では無いよなぁ。ゲームと同じ尺度で測ったとしても、出会いたくない魔物ランキング上位に入る強さだ。出来ればやり合いたくは無いものだけど……。
「そうやってウダウダしていたら出れる機会を逃すか」
まぁ、勝てないって事は無いか。
ポータル以外の通常で出てくる魔物もオーガレベルの強さだし、やるのならポータルで戦って外へ出て安全な場所で休みたい。高難易度ダンジョンって見方を変えれば良いレベル上げスポットだしな。
それに道具は全て引き継がれている。
外へさえ出ればキャンピングセットとかがあるから安心安全な生活も送れるからね。そういう点では道具を持ったままにしてくれていてありがたい限りだよ。
ぐっふっふ……なら、決まりだ。
今日の飯はオーガ肉、良い調味料もあるから不味くなるわけが無い。それに調理スキルだってあるから補正もかかるしな。
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