プロローグ
急に思いついて書いたので雑です。結婚式の言葉に詳しいわけではないので間違えている可能性があります。ちなみに「袂を分かつ」の反対語は、「袖を連ねる」らしいので、このタイトルは造語です。
「病める時も 健やかなる時も 富める時も貧しき時も 死がふたりを分かつまで 命の続く限り これを愛し 敬い 貞操を守ることを誓いますか?」
「ーーはい、誓います」
何処までも続く青空
眩い光を放つ太陽
俺は今日、最愛の人と結婚する。
隣に立つ君は、この世で一番綺麗で。
あー、俺は幸せ者だ。
そしてきっとこれからもずっと幸せ者だ。
ずっと隣で、笑い合って、寄り添って行ける君がいるから。
この幸せはこれで終わりじゃない、ここからが始まりなんだ。
幸せな道を、二人で歩んでいくんだ。
‥そう、信じて疑わなかった。
「それでは、誓いのキスを…」
あの時までは。
「ーーーーー起きて」
静かな部屋に響く甘やかな声。
心地よいその声に俺は寝返りを打つ。
「ん…あと五分ーー」
「もう…早く起きてってば」
朝から起こしてくれるのは君以外居ない。
愛しい君が…ーーー
「おにいちゃん!」
え
「…ぅ、はる…?」
瞼を開けたそこには、俺の最愛の人ではなく
「‥また夢見てたのね、こっちでの名前は星蘭 だって言ってるのに」
愛すべき実妹の姿があった。
遡るは14年前。
あれは寒くて凍えるような雪の日であった。
「おかあさん…まだかな」
「大丈夫、お母さんならきっと元気な子を産んで戻ってくるよ」
どこまでも続くような暗く、つめたい廊下。
どこからか機械的な音が聞こえて、俺、御堂 藍は身震いをした。
新たな命のスタート地点である病院。
それと同時に微かに漂う死の匂い。
命、を感じる病院は苦手だ。
…前世のことを思い出してしまうから。
そう、俺は3歳ながら思い出してしまったのだ。愛しい波瑠のことを。
波瑠は俺の前世の結婚相手で、将来を誓い合った直後に交通事故に巻き込まれてしまい、命を落としてしまった。…頭によぎる、死の間際の記憶。
「ぅ‥は…はるっ!」
耳鳴りがして、苦しく歪む視界。
「は…る」
やっと彼女を見つけた頃には後頭部に咲く紅色が大きく広がっていた。俺は大きく脈打つ。
彼女の灯がもうまもなく消えてしまうことは明らかだった。
きっと俺ももう長くはもたないのだろう。
でも、幸い、彼女にはまだもう少しだけ、息があった。
「っは、る‥一緒…だぞ」
最後の力を振り絞って、彼女をなんとか抱きしめる。
「‥う、まれ、かわって…も」
視界がぼやけてうまく見えない。
「ぅ‥ん、い、っしょ、だよ…」
最期に彼女の声が響いた。
‥生まれ変わっても一緒、なんて
所詮、物語の中だけの話だと分かっている。
だけど
俺達なら、もしかすると…、と期待せずにはいられないのだ。
ーー第一、彼女に記憶がないと分からないが。
「…ーーあー!ぅあー!」
横に座る父が音を立てて立ち上がる。
駆け出す父に続いて、俺もゆっくり立ち上がる。
まもなく病室の方から父と看護師の明るい声が聞こえて、ほっ、と胸を撫でおろす。どうやら無事生まれたらしい。
俺も隙間を縫って母に近づく。
ーーー俺は、絶句した。
「ほら‥藍」
何故なら咄嗟に理解してしまったから。
それが、
「元気な女の子だよ‥!」
実妹が、ーー…波瑠であることを。
妹、星蘭は日々成長していった。
ひとつずつ、言葉を覚えて、俺のことを
「おにいちゃん!」
と呼んだ。
その愛らしい様子にときめかなかったと言えば噓になる。
でも、俺は分かっていた。
この世界線では愛し合ってはいけないということ。
なにせ、本当に血が繋がった兄弟だ。法律的にも完全アウトである。
それに、これを誰かに相談しようものなら、俺は変態シスコン野郎として社会的に終わる。
‥あんなに前世で愛し合った仲だ。傍に居たら恋に落ちるのも時間の問題だ。
だから俺は距離を置いた。
親からは心配されたが、理由を説明できるわけもなく。
そのまま、同じ家に暮らしていても会話を交わさない日々が続いた。
…それは突然訪れた。
激しい雨の日、傘を差さずに帰ってきた星蘭は、普段なら見向きもしない俺の部屋に突然転がり込んできた。
「ちょっ…ずぶ濡れじゃねぇか、拭けって」
そのままタオルを星蘭に被せて、髪を拭く。
普段抑えていた分の反動で、妙にらしくないことをしてしまっている俺。だけど、それを自覚する前に星蘭が口を開いた。
「病める時も」
「‥‥‥‥は?」
俺が素っ頓狂な声を上げても、彼女は止まらなかった。
「健やかなる時も 富める時も貧しき時も」
目が合う。
「‥‥死がふたりを分かつまで」
星蘭は泣いていた。
「…‥波瑠?」
震える声でなんとか言葉にする。
「…樹」
…ーーそうだ俺の前世の名前は、
「…樹だよ、波瑠」
「…はぁい、回想シーン終わりィ!!!!」
耳元で叫び声が聞こえるのと同時に、頬に鋭い衝撃が走る。
強制的に現実世界に戻ってきた俺は、咳き込みながら彼女を睨む。
「なっ、なんだよ星蘭‥」
「いや、聞いてほしいのだよ最愛の兄よ」
妙に深刻な顔つきをして顔の半分を手で覆う星蘭。
「あてし達‥世界最強じゃね?」
「は?」
そして重々しく告げられた言葉に、俺は思わず肩の力が抜ける。
「‥ん、まぁ一応聞いとくわ、何で?」
「だって、前世の記憶を持ち合わせる二人のラブコメだぞ?感動の実話として売り込んだらがっぽがっぽだ」
キリっとした顔でしょーもないことを言う星蘭、うん、いい天気ぃー
「まず、大人気少女漫画家に売り込み、漫画化してもらう」
「なるほど」
「そこからノベライズ化、アニメ化を経て、遂にはアニメ映画化!満場一致でアカデミー賞になって、世界で吹き替え!そして最終的には本人たちの出演する実写映画となり、宇宙人が涙を流すのだ…‥!!」
「うん、そっかー!凄いねー」
もはやお手上げである。この妹様には誰も敵わないようだった。
「キャッチコピーは、ずばり…」
「ゴクリ」
「‥『どうやら”死如き”では二人は分かつことはできないらしい。』だ」
「オーケー二度寝するわ」
「おいこら起きろやぁぁぁぁ!!?」
これは、死如きでは分かたれなかった、とある兄弟の話である。
ラブコメって難しい…。