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94.リースの決意

 そこかしこから激突音が聞こえ、青い光がキラキラと舞い踊る。

 二人の戦闘は、今のところは互角なのかもしれない。

 でも、アレクが無理をしているのは間違いなかった。

 わたしの周りに舞い散る光は、アレクがまとう鎧の破片なのだ。

 主から離れた魔力の塊は、明るい光を放ちながら小さくなっていき、すぐに虚空へと消えていった。

 彼の足の負傷は、大きなハンディキャップになっていると思う。

 まともに動かない足を無理やり動かして戦い続ければ、いつか限界が訪れるだろう。

 すでに、アルマトーラによる魔法の鎧を、維持できなくなってきているのだから。

 ヘクターや、近衛兵と戦った時とは違うのだ。

 ケイトさんは彼らよりも強くて、アレクが万全な状態でも勝てないかもしれない。

 そんな人に、手負いの状態の彼が勝てるとは、とても思えなかった。

 だから……


 わたしが、何とかしなくちゃいけないのだ。


 ケイトさんの真の狙いは、アム・クラビスだ。

 彼女がアレクを殺そうとするのは、あくまで彼に使用権限があるからにすぎない。

 わたしの手の中にある宝石を、その中に込められた魔法式を何とかできれば、彼女を止められるはず、だった。

 そのためには、父さんの魔法を使うためには、足りない魔力を補わないといけない。

 わたしは必死で考えて、考え抜いて。

 一つの考えにたどり着いた。


 引き出せる魔力が、わたしにはまだあった。


 それを実行するため、わたしは魔鉱石を胸に抱き締めた。

 迷いは、欠片もなかった。

 戦うアレクを助けたい。

 罪を犯し続けるケイトさんを止めたい。

 傷付き、殺されそうな王都の人を、王国の人を救いたい。

 わたしの頭にあったのは、その想いだけだった。

 やり方は、肉体の強化と同じ。

 身体の中心、胸の奥底、わたしの根幹をなすモノを意識する。

 魂と言うべき存在に触れて、その中から少しずつ、少しずつ必要なものを引き出していく。

「リース! 何をするつもり……」

「何やってんだ! おい……!」

 アレクとジェイクの声が、どこか遠くに聞こえた。

 今のわたしに感じられるのは父さんの魔法と、わたしの内面が大部分を占めていた。

 目の前にあるのは、黒く染まった球状の魔法式。

 そこに、わたしから引き出したものを流し込んでいけばいい。

 そうすると、薄暗い部分にちょっとずつ、光が灯っていく。

(イザベラも、こんな気持ちだったのかな……)

 と、わたしは思った。

 今なら、彼女の気持ちが分かる気がした。

 迫り来る脅威。

 小さな少女と、少女の大切な友達を害する者達が、近づいてきている。

 何とかしたい。友達を守りたい。

 でも、力が足りない。

 命を賭してでも守りたい人がいるのに、自分にはどうしようもない。

 そんなもどかしさが募る中、その願いを実現する方法を知ったなら……


 わたしもやっぱり、イザベラと同じことをすると思う。


 魂から魔力を引き出すにつれ、意識が自分自身の奥深くへと沈んでいった。

 アム・クラビスは、人の魂から魔力を引き出すものだ。

 肉体の強化も、わたしの根幹をなす魂から魔力を得て実現する。

 だから……

 魔力の源である魂を捧げれば、普通はできないこと――風龍様を呼び出したり、使えないはずの魔法が使えたりするのだ。

 球体の光の範囲が広がるのに合わせて思考が鈍り、意識が薄れていった。

 アレク達の声も聞こえず、姿も見えなくなっていた。

 今あるのは、ぼんやりと輪郭が霞んだわたし自身と、光を増していく魔法式だけだった。

(お願い! もう少し! あと少しだからっ!)

 と、わたしは懸命に祈った。

 このまま魔力を引き出し続ければ、わたしは死ぬかもしれない。

 魂を失くした人間が、生きていけるはずがないのだから。

 でも、後悔はなかった。

 アム・クラビスがある限り、この悲劇は止まらない。

 アレクや無数の人が、殺されていくのだ。

 魔装具を破壊しつくし、ゴルドニア王家の血を引く人全てが死ぬまで。

 それを止める力が、わたしにあるのなら。


 できるのか、できないのか、結果は分からないけれど。


 わたしは迷うことなく、自分の命を差し出した。

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