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91.避けたい戦い

「アレク。ケイトさんに勝てる?」

「アルマトーラを使っても、難しいだろうな」

 わたしの質問に、彼は正直に答えた。

「彼女は近衛兵の鎧を、いとも簡単に破壊した。近衛の接近を察知し、ルクス・ゴルを起動するまでの反応を考えると、おそらく俺より強いだろう」

 とても落ち着いて、わたしがますます落ち込むような事実を告げた後。

「だが、お前があの魔法を防いでくれれば、一撃くらいは与えられるかもしれない。肉弾戦に持ち込んだ方が、勝機は増すだろう」

 わたしの意図をくみ取るように、アレクは言葉をつづけた。

「それで十分だよっ。アム・クラビスを手に入れたいの。父さんの魔法でそれを取り込めば、何かが変わるかもしれない、から」

 自分で言っておきながら、ひどくあやふやな作戦だと思った。

 わたしの根拠はただ一つ。

 ソニアさんの言葉だけなのだから。

「あなたの命を、わたしに賭けて。傷付き苦しむ人たちのために」

「もちろんだ。俺の全てを、お前に預ける」

 自信のないわたしを励ますように、彼は迷いなく受け入れてくれた。

 蒼い光の奔流を伴って、アレクが突撃。

「無駄だよ」

 ケイトさんは自分の眼前、数十センチ手前に頑強な盾を形成。

 色鮮やかな眩い光を放ちながら、アレクの突進が食い止められた。

「アルマトーラを使ったところで、私に触れることもできないよ」

「そう焦るなよ。まだ始まったばかりだろう」

 彼の右手が煌めいて、蒼く輝く槍が生み出された。

 自身の接近を阻む盾に向けて突き出し、自分を阻む障壁へとぶつける。

 激しく震える槍の穂先は、じりじりと前進し、ケイトさんを守る盾を少しずつ侵食していった。

「魔力を今より収束させれば、威力が上がるんだ」

「この程度で自慢するのは早いね」

 ケイトさんの宣告と共に、アレクの背後に不可視の力が集まっていく。

 対人戦闘魔法の最高峰、ルクス・ゴル。

 近衛兵の鎧をかみ砕いた白銀の牙が作り上げられ、アレクに向けて展開。

「リース!!」

「まかせて!」

 わたしは動きが止まった二人に接近。

 ヴァルト、起動。

 彼の背を守るように立ち、鎧を食い破ろうとした魔法の牙を迎え撃つ。

 【防護壁】は、わたしを守る時に一番強く働く。

 だから、こうして身を挺する方が防御力は高まるのだ。

 数十の牙がわたしを守る盾に食いつき、かみ砕こうとしてくる。

 魔法式が解除され、ほとんどの牙が溶け落ちていく中。

 いくつかの牙は、ヴァルトを貫通してきた!

 壁の突破に成功した魔法が、無防備なアレクの背に向けて迫る。

(大丈夫)

 と、わたしは思った。

 ギイィィン!

 と、耳をつんざく甲高い音を伴って、彼の背を突き破ろうとした牙が蒼き鎧に防がれた。

(消せなくてもいい。少しでも威力を落とせたら、それで……)

 魔法を無力化する防護壁を抜けたことで、牙の威力は下がっているのだ。

 獲物を捕らえ損ねた無数の牙は、無念さを訴えるような音を打ち鳴らしながら、虚空の中へと消えていった。

「まったく面倒な盾、だね!」

 悔し気に顔をしかめたケイトさんは、盾を抜けて槍を突き刺してくるアレクを迎撃しようと、右足を振り抜いた。

 突き上げられた蹴りを、アレクが片腕で受け止める。

 爆砕音が鼓膜をつんざき、びりびりと大気が震える。

 彼はバランスを崩すことなく突進の勢いのままケイトさんにぶつかり、そのお腹に槍の穂先を突き立てたように、見えた。

 でも、鋭い切っ先は、灰色のローブを貫いたのみ。

 必殺の一撃を外した瞬間、彼は手の槍を解除して、彼女の長い足を取った。

 強引に押し倒そうとするアレク。

 その背中を狙って。

 半円状の刃が四本、生まれ出た。


 生体切断魔法、【断罪の鎌】(ガザ・ファルク)


 半円を描く漆黒の刃が4つ、彼の胴体を両断しようと落ちてくる。

 わたしは飛び込むようにしてアレクに覆いかぶさり、再び防護の壁を展開。

 今度は完璧に防ぎ切り、鎌の刃先がヴァルトに触れると同時、黒き刃は色を薄めて消滅していった。

「君がいる限り、魔法は無意味、か……」

 わたしを見据えるケイトさんは、アレクに押し倒された。

 絡み合うように倒れた衝撃で、魔鉱石が彼女の手から離れて、床を転がっていく。

 ケイトさんに馬乗りになったアレクが、彼女の動きを抑えこむ隙に。

 わたしは床を転がる宝石を手にしようと駆け出した。

「させないよ」

 宝石に手が届く寸前、床が手の指のように隆起して、輝く宝石を包み込んだ。

 そして、しっかりとそれを握り締めた手が、天空に向かって伸び始めた。

「待って!」

 わたしが手を伸ばし、急激に伸長していく柱の先端に掴まった直後。


 柱はわたしの体重なんかものともせず、天高く伸びていった。

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