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90.真相

 王様がいた場所を中心に生じた魔力の爆風は祭壇をなぎ倒し、泉の水をも蒸発させ、ドーム状の屋根を吹き飛ばした。

 高速で飛来する熱波は、【防護壁】(ヴァルト)でも防ぎ切れなかった。

 危うく吹き飛ばされそうになったわたしを、蒼い鎧をまとったアレクが庇ってくれた。

 周囲のもの全てを消し飛ばした爆風が収まった後。

 爆心地には、ケイトさんが立っていた。

 今の大きな爆発に巻き込まれたのにも関わらず、平然とその場に佇んでいた。

 彼女は無傷で、ローブのような灰色の服にも焦げ目一つなかった。

 その繊手には、大きな宝石があった。


 【魂の鍵】(アム・クラビス)の根幹をなす、魔鉱石が。


「さあ、次は君の番だ。アレク君」

 そう宣言したケイトさんは、わたし達の方へと向き直った。

「待ってください! アレクと戦うんですか!?」

 今度はわたしが彼の前に出て、彼女に向かって叫んだ。

 わたし達はこの異変を止めるために来たのだ。ケイトさんと戦う理由なんて……

「それはもちろん……」

 彼女はアレクを指さして。

「私がこの異変を引き起こしたからさ。彼を殺すことも、私の目的の一つなんだ」

「どうして……どうしてこんなことを……」

 わたしは、彼女が告げた事実を信じられなかった。

 あんなにも優しげだった女性が、なぜこんなにも残酷なことができるのだろう。

「彼、だけではないよ。私はアム・クラビスを取り戻し、魔鉱石をすべて破壊し、ゴルドニアの因子を持つ者を全て抹殺するために、この国に来たんだ」

 そうはっきりと告げる彼女がまとう雰囲気は、村で会った時や王都で会った時とは全然違った。

 声も表情も態度もひどく冷たく、外見が同じ全くの別人じゃないかと思えるほどだった。

「この国の人々は、手にするべきでない力を手にした。自分が便利な魔法を使うために、他者の命を削り取り、奪い去るなど許されることではない」

 それは、ソニアさんも言っていたことだった。

 因子に印を刻まれた人々から、魔力を吸い上げる能力が、アム・クラビスにはあるって。

「人の魂を、その生命力を魔力に変換して吸い上げ、魔鉱石に分配する。そうして自らが望む魔法を行使している裏側で、魔力を失った犠牲者は全身が白く染まり、やがて死に至るのだ。その症状は、どうしたって治しようがない。生命を維持するのに必要な力を、無理やり取り上げられているのだから」

「でも、だからって、あなたがゴルドニアの人を殺していい理由になんてなりません!」

「私には、その責任があるんだ」

 わたしの反論をものともせず、ケイトさんは静かに反論した。

「アム・クラビスは元々、我が同胞のイニティウム人が生み出した魔法なのだ。他者の魂と直接つながり、お互いをよりよく理解するために使われるはずだった」

 その人のことを思い出しているのか、ケイトさんは遠い目をして語る。

「だが、今からおよそ百五十年前、ゴルドニアの建国王が彼女を殺し、これを奪い取ったのだ。そして彼は、魂をつなげる力の形を変え、人々の魂から魔力を引き出す道具としてしまった」

「それは、彼女の言う通りだ」

 と、アレクは彼女の言葉を肯定した。

「ゴルドニアの建国と発展を支えるため、建国王は大量の奴隷を使役した。同時に、魔鉱石と魔装具を実用化して強力な国軍を作り上げ、周辺国からの干渉をことごとく撃退したんだ」

「私達も、ゴルドニアとは粘り強く交渉をした。鍵を返還して魔装具を廃棄し、奴隷制も廃止するように、と。だが、歴代の王は誰一人として耳を貸さなかった。先代王だけは状況を打開しようと努力してくれたが、今では結局、元通りだよ」

 これまでの苦労を嘆くように、ケイトさんは額に手を当ててうつむいた。

「百年以上の時を経て、私は悟ったのさ。人間の良心などに期待せず、実力をもって鍵と魔鉱石を全て破壊してしまうべきなのだと」

「あなたはもう鍵を手に入れたのに、これ以上戦うことなんてないじゃないですか」

「ゴルドニア王が持っていたこれはオリジナルだ。それは認めよう」

 手に持った宝石を掲げて見せながら、ケイトさんは言った。

「だが、王国の貴族どもとて愚かではない。鍵の魔法式の一部を複製して、魂に刻印する道具を大量に作り上げているのだ。だからこれだけを手に入れても、私の望みは叶わない」

 王国の役人は、グリミナの印をつける魔装具を持っている。

 それらを使って、毎日奴隷となる人を生み出し続けているのは、事実だった。

「で、でもっ、あなたがアレクと戦わなくてもっ! お互いに協力すれば……」

 彼女を説得できる材料なんて何もなかったけれど、わたしは諦めきれなかった。

 わたしはどうしても、アレクとケイトさんには戦って欲しくなかったのだ。

「アム・クラビスには、ゴルドニアの因子を持つ者に使用権限が付与されている。先代王の子息であるアレク君も二十五位に登録されている。つまり、彼も抹殺対象というわけさ」

「……っ!」

 わたしは言葉に詰まった。

 アレクに流れる血が、彼にはどうしようもないことが、無意味な戦いを引き寄せているのだ。

「一位のクリフト王をはじめ、二十位までは全て始末した。私はただ確実に、一人ずつ、ゴルドニアの因子を持つ者を全て消し去るつもりだ。禁忌を犯した貴族も、邪魔する兵士も、まとめて排除してしまってね」

「でもそれじゃ、大勢のグリミナの人や王権に関係ない人まで傷付き、殺されてしまうんです。あなたが呼び出した魔人たちの手で。だから……」

「私は、この国の誰かを救いに来たのではない。アム・クラビスにまつわる事象を止めに来たのだ。だからどれだけの人が巻き添えになろうとも、やめるつもりはないよ」

 わたしの懇願をも断ち切り、ケイトさんは全身に闘気を纏い始めた。

「これ以上の話は無意味だ。今ここで起きている事を止めたければ、私と戦い、勝利するしかない」

 その宣告に従うように、破壊された祭壇の周囲のそこかしこから複数の光の柱が立ち、夜空を不気味な紫に染めていった。

(早く……早く止めないとっ)

 そう思っても、わたしはすぐには動けなかった。

 光の下では新たな魔人が生み出され、人が死んでいくのに、決断が付かなかったのだ。


(ケイトさんと戦うしか、ないの……?)

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