81.大通りでの戦闘
破壊の限りを尽くされた市街を北へと進み始めたわたし達の前に、破壊をもたらした元凶が立ちはだかった。
大通りは、魔人であふれ返っていた。
奴らは、あらゆる魔装具から生まれ出たのだ。
何百何千という数ではない。
結界の中では、おそらく万を超える魔人がうごめいているはずだった。
紫の肉塊で埋め尽くされた通りを、わたし達は一気に駆け抜ける。
背後からの狙撃が、その手助けをしてくれた。
クララさんの射撃は、驚くほど正確だった。
魔人の弱点である頭を一撃で貫き、敵がわたし達に飛び掛かる暇さえ与えない。
一歩進むごとに新たな敵が倒れ、死体も残さず消滅していく。
だからわたしとアレクは、正面に立ちはだかる魔人にのみ集中していればよかった。
背後のアレクが撃ち出す雷の蛇や氷の棺桶で敵の足を止め。
「せやっ!」
掛け声とともに、跳躍したわたしが赤熱の刃で魔人の頭を切り捨てる。
それを繰り返して魔人を次々屠りながら、大門から真っ直ぐ北へと延びる大通りを駆けていく。
この通りの、突き当りが王宮だった。
脇には目もくれず、全速力で突き進むわたし達の前に。
新しい群れが、立ちはだかった。
素早い進撃を続けるわたし達に狙いを定めたのか、狙撃を受けて倒されるよりも速いペースでわらわらと集まってくる。
「軽く百はいそうだな」
「迂回なんてしない。真っ直ぐ行くよ」
アレクの警告を聞いても、わたしは迷わず断言した。
時間をかければかけるほど、犠牲者が増えるのだ。
最短の距離を、最短の時間で駆け抜けなきゃいけない。
「そう言うと思ったよ」
諦めているのか呆れているのか、アレクは驚きもせずに言った。
マグリット・ライフルに自らの魔力を充填させて、迫り来る戦闘に備える。
「援護は任せろ。一気に突破しよう」
「とーぜん!」
クララさんの狙撃とアレクの魔法。
敵を圧倒する二つの力に守られたわたしは、赤い刃を振りかざして、魔人の群れへと突入した。
魔人の群れは直進するわたしを取り囲み、前進を妨げようとした。
長距離狙撃で次々に仲間が倒されてもなお、手にした赤い刃を振りかざし、突破を図るわたしを切り捨てようとしてくる。
赤い血に濡れた十の刃が、四方から降ってきた。
そのうち三つ。
背後の三体が氷漬けになり、斬撃が止まる。
さらに左の二体が背後から突撃してきた雷に噛みつかれ、なぎ倒された。
わたしは残った右と前の敵を見据えて、半円を描く五つの軌道を見極めた。
左に一歩動いてから、身体を横に。
鋭利な刃物が鼻先と背後を通過した直後。
地面に突き刺さった剣を踏みつけて、短剣を構えて飛び掛かる。
狙いはたがわず、魔人の単眼に切っ先が突き刺さる。
ぐらりと後ろに傾いだ敵から剣を引き抜き、胸を蹴って真横に突っ立つ敵の頭を切り裂く。
わたしは頭を両断された敵の背後に狙いを定め。
「伸びろ!」
と命じた。
フラムダガーの魔鉱石が瞬時に反応。
剣先からさらなる刃を伸ばし、届かないはずの敵の頭に突き刺さる。
残りは二体。
後ろに回った魔人は自らの得物を引き戻し、再び上段から切りかかってくる。
石畳に着地したわたしはダガーを下から切り上げて、赤く濡れた刃を両断。
回転しながら背後へ吹っ飛ぶ刃を尻目に、打ち上げた勢いのまま、頭を下から切り裂いた。
残り一。
横合いからわたしの胴を真っ二つにしようとする敵は。
背後から飛来した、無数の風の刃がバラバラに切り刻んだ。
「行くよ、アレク!」
わたしは後ろにいるはずの彼に声をかけ、一点突破を図る。
数え切れない敵を撃破し続け、ようやく、包囲の突破口が見えて来たのだ。
目の前に広がる紫の肉の壁。
その一部に、薄い部分ができていた。
穴をふさごうと左右から群がる敵は。
「エクスプロード!」
わたしを中心に広がった爆炎で押し戻し、アレクの【雷蛇】とフラムダガーの斬撃で切り開く。
そして……
どうにか壁を抜け出たわたし達の目の前に。
ぶよぶよとした、肉の塊が鎮座していた。
「な、何あれ?」
あまりの不気味さに、進撃する足が止まった。
「あれは、これまでとは桁違いの奴だ。近づくな」
アレクに警告されるまでもない。
あんなのには近づきたくなかったし、戦いたくもなかった。
わたしが足を止めたわずかの間に、敵の動きが変わった。
数十の個体が、次から次へと塊の中へと、飛び込んでいき始めたのだ。
「な、なに!? 何なの!?」
何をしているのかが、分からなかった。
召喚獣は召喚した者の命に従う。
奴らだって、自分が何をしているのかは理解していないだろう。
ただそうしろと命令されたから、あの肉塊の中に飛び込んでいくのだ。
仲間を飲み込むほどに、塊は高く大きくなり、すぐさま見上げるほどのサイズになった。
眼前にそそり立つ塊は、鼓動を打つように脈動していた。
表面のそこかしこから湯気が立ち上り、ザワザワと何かがはい回るような気味の悪い音を立てていた。
血のような鉄臭さが鼻を突き、吐き気を催しそうだった。
五感全てを不快にさせる肉塊は完成したのか、ゆっくりと形を変え始める。
四つの膨らみが生まれ、それらが長く伸びていく。
二つの突起が地面に突き刺さって道路を震わせ、石畳に放射状の亀裂が入る。
不気味な紫の肉塊が手足を持つ人型へと変化して、ゆるりと……
立ち上がった、のだ。




