78.思いがけない援軍
やっとの思いで、門の中にいる敵を全部撃破した。
みんなで足止めした魔人の頭を、わたしやアレクが狙う。
即席の連携だったけど、アレクが上手く兵士たちの指揮を執ってくれたおかげで、誰一人怪我をすることなく、20を超える敵を全滅させることができたのだ。
宿場町を襲った魔獣と同じく、魔人の死体は残らなかった。
弱点である魔鉱石を砕くと、すぐさま細かな粒子へと分解されるように、消滅してしまったのだ。
だから、こいつらが何者なのかを調べようもなかった。
そもそも……
調査している場合でもなかった。
さらなる魔人の増援が、通路から入り込んできたから。
「もうっ! きりがないじゃないかぁ!」
再び短剣を振るって敵の頭を貫きながら、わたしは叫んだ。
もはや、倒した敵を数える余裕もなくなってきた。
何しろ撃破した数よりも多い敵が、通路の方から押し寄せてくるのだから。
その先には、王都の市街地側へとつながる扉があったはずだった。
扉はおそらくもう破られていて、街中にあふれた魔人が、こっちにも向かっているのだろう。
わたしとアレクだけじゃ、とても手が足りなかった。
次々に現れる魔人を一体ずつ倒していっても、ちっとも敵の数が減らない。
「どーしよ……このままじゃ負けるよぅ」
背後に駆け付けてきたアレクへ、わたしは愚痴った。
わたし達よりも、敵の足止めをしているノードリーさん達の方が限界だった。
彼らの武器では魔人に傷を付けるのがやっとだから、次第に負傷者の数が増え、戦える人の数が減っていた。
わたしが最前線を支えきれなくなったら、みんな総崩れになる予感がした。
「心配するな。援軍を見つけた」
「見つけたって……でも、魔装具もなしに戦える人なんて、どこにいるのよ?」
やけに自信満々のアレクに、わたしは聞いた。
普通の人や兵士じゃ、あの魔人に太刀打ちできないのだ。
近衛兵でもない限り、まともな援軍にはならないと思う。
「いや、いるにはいるんだ」
アレクは目を閉じ、静かに意識を集中させた。
それと同時に、わたしでさえ分かるくらいの濃密な魔力が、彼の体内からあふれ出てきた。
「【魔鎧】は使っちゃダメッ!」
わたしは彼の腕を取り、慌てて止めた。
「それをむやみやたらに使ったら、死んじゃうんだから!」
敵はまだ、無数にいるのだ。
なのに、アルマトーラで魔力を無駄に消費したら、アレクの身体がもたない。
「大丈夫だ。少し落ち着け」
蒼き鎧を身にまとったアレクは、平然とした顔をしていた。
「向こうに、俺という存在を教えてやるんだよ」
(そう、か……)
と、わたしは思った。
魔力探知。
祝福を持つ者が使える能力を、利用するつもりなのだ。
これほど大きな魔力を見せつければ、アレクの言う援軍も、彼がここにいるということに気付くだろう。
そして、そう時間も置かずに……
「どうやら、来てくれたようだ」
彼女は、現れた。
市街地から続く広い通路。
密集した魔人たちが形作る紫の壁を打ち破り、その向こう側からやって来たのは。
「ああ~。やっぱりですか」
という間延びした声を持つ、一人の女性だった。
「リースさん達も、こちらにおられたんですね?」
紺色の制服を身に着けた彼女――クララさんが手にした巨大な銃をぶっ放し、群がる魔人を一撃のもとに屠っていった。
「お久しぶりです。半日ぶりですね~」
柔和な笑顔を浮かべた女性は、前と変わらぬ軽い調子で言ってくる。
彼女の背後では、【白銀の弾丸】の隊員らしき人達が、魔人を次々に倒し続けていた。
形勢が、一気に逆転した。
「すごい……魔装具もないのに……」
彼らが戦う光景を目の当たりにして、わたしは目が点になった。
あれだけの数の魔人が、瞬く間に掃討されていく様は現実のものとは思えなかった。
「あんなのに頼らなくても、わたし達は戦えます。隊長にみっちり鍛えられましたからね」
彼らが携えているのは、バイオンクラスの小火器だった。
そういう低威力の武器を使って、あるいは自分の拳で殴りつけて、魔人の弱点である頭を破壊し、無力化している。
「戦闘の基本は鍛え上げられた魔力と肉体、なのです。あなたも、身に覚えがあるはずですよね?」
「あまりいい思い出じゃないがな」
嫌な記憶を呼び覚まされたのか、アレクは苦い笑みを浮かべていた。
「それで、そのニコラスはどうした? いないのか?」
「隊長は絶賛奮闘中ですよ~。あちこち動き回って、孤立して戦っている部隊を糾合中なので、もうすぐ合流されるかと思います」
クララさんは自らの隊長を自慢するように、胸を反らしてみせた。
「わたし達は生き残った住民を救出していたんです。そうしているうちに、あなた方の魔力を探知したのもあって、ここに来たんですよ~」
クララさんが目を向けた先、彼女の背後には大勢の人々がいた。
一様に疲れ果てた表情を見せる彼らはきっと、この惨劇に巻き込まれた人達なのだろう。
「ひとまず、彼らを脱出させよう。ここよりも外の方が安全だ」
「了解で~す」
と返したクララさんの指示のもと、選抜された何人かの隊員に率いられ、大勢の人々が門の外へと向かっていく。
「……ん?」
その時、わたしは気付いてしまった。
人ごみに紛れて、あのグウィンまでもが門の外へ出ようとしているのを。
アレクもそれを見つけたのか、背を向けて逃げようとしたグウィンの首根っこを掴み。
「た、助けてくれ! 俺は……!」
手足をばたつかせてもがく彼を、クララさんに向けて放り投げた。
「こいつも使ってやってくれないか? 多少は役に立つだろう」
「審査官のカーディス・グウィンさんと……予備役将校のダグラス・ノードリーさんですね。王国の人々のため、我々と一緒に頑張りましょう!」
腰を抜かしたように床に這いつくばるグウィンと、直立の姿勢を取るノードリーさんに向かって、クララさんは高らかに宣言した。




