77.反撃
「き、君は、なぜ……?」
床にへたり込んで言葉もないグウィンの代わりに、ノードリーさんが聞いて来た。
彼も状況がつかめないのか、すっかり混乱しているみたいだった。
「何があったの?」
と、わたしは聞いた。
疑問に答えている暇はなかった。
わたしがここに来たことなんて、大した問題じゃないのだ。
「分からないんだ。突然爆発が起きたと思ったら、我々はあの化け物に取り囲まれていた」
それを察してくれたのか、ノードリーさんは震える声で答えてくれた。
「王様は何か言ってきた?」
自分のお膝元で、異変が起きているのだ。
事態を収拾するために近衛兵を派遣するなり、軍を糾合させるなりするのに、何かしら王様から指示があるはずだった。
「なにも、ないんだ」
と、ノードリーさんは力なく首を振った。
「ない……って?」
「我々には、何の命令も来ていない。やむを得ず、自衛と住民の脱出路を確保しようと戦ったが、奴らには手も足も出なかった」
「生き残れたのは、あなた達だけなの?」
「他にもいる。無傷なのはわたし達二人だけだが」
そう言った彼らの背後には、負傷したらしい人が何人も横たわり、座り込んでいた。
グウィンも一応、仲間を守ろうとしたのかもしれない。
「あなた達はここにいて! わたし達で何とかするから」
だいたいの状況が把握できたわたしは、戦い続けるアレクに加勢した。
魔装具もなしに、彼らを戦わせるわけにはいかない。
あの魔人の餌食になるだけだ。
【防護の指輪】と【炎の短剣】は、暴発しなかった。
アレクのマグリット・ライフルもそうだ。
ソニアさんは、父さんの手がけた魔装具は、系統が異なると言っていた。
だから、魔人の餌にはならないのかもしれない。
残りはざっと十二体。
部屋の中にいるのと、通路からこちらへやって来るのとを合わせると、まだまだ敵の数は多かった。
「アレク! 下がって!」
三体を同時に相手していた彼に声をかけ、わたしが代わりに前に出る。
魔人の強さは、だいたい分かった。
その再生能力と一撃の重さは脅威だけど、その大きな体躯の通り動きが鈍かった。
だから……
わたしを切り伏せよう、叩き潰そうとする剣や拳の動きさえ見極めれば、背後から狙われなければ、負けるとは思えなかった。
わたしは突撃の勢いのまま、剣を敵の足元へと振るい、ぬめる片足を切り落とした。
バランスを崩して倒れていく魔人の腕も返す刃で切断して。
「やっちゃって!」
と、アレクに合図を送った。
その声に合わせて、地面から無数の槍が生み出され、倒れ込む魔人の頭を貫通。
狙いは違わず魔鉱石を打ち砕き、敵の身体が霧のように蒸発していった。
わたしはその成果を確認することなく、次の相手へと切りかかる。
とにかく、一刻も早くここを解放しなければならなかった。
封印結界が生きている以上、今の王都は鳥籠のようなもので、王都の住民たちは囚われた鳥のようなものなのだ。
二体目の頭をてっぺんから両断した直後。
「うわああぁぁ!」
という悲鳴が、部屋の隅から聞こえて来た。
声がした方にある通路から……
新たな敵の増援が複数、現れつつあった。
「まだいるの!?」
と、叫んだわたしは、軽い絶望感に襲われた。
魔人には、負けるはずがなかった。
だけど、敵の数が多すぎる。
そこかしこから次々現れる敵から、ここにいる全員――ノードリーさん達や負傷して床に横たわる兵士達を守り切るなんて、できそうになかったのだ。
「貴様ら! 何をしているか!」
力が抜けそうになったわたしの背後から、アレクの叱責が轟いた。
大きな怒声を叩きつけられたグウィン達は、雷に打たれたように身体を震わせた。
「ただ眺めているんじゃない! 武器を取れ! 敵の動きを止めろ!」
アレクは叫び、マグリット・ライフルを発砲。
出てきた魔人の群れに雷の蛇を叩き付け、通路内へと押し戻した。
「大砲でも銃でも何でもいい! 魔鉱石を使ってない武器を持て! 奴らの好きにさせるな!」
「はっ、ははっ! かしこまりました!!」
グウィンもノードリーさんも、怪我をして倒れていた兵士までもが一斉に動き出し、魔人の群れに対抗できる武器を探し、手に取り始めた。
彼の声には、人を従わせる威圧感と、反論を許さない力が込められていた。
その命令に従うのが当然、と思わせる声をしていた。
最初に敵へと切りかかったのは、ノードリーさんだった。
彼はアレクの前に立ち、襲ってきた魔人を両手剣で迎え撃った。
魔力のない、鋼鉄製の剣で、壁に飾られていた骨董品だった。
装備の手入れは兵士の基本的な任務だから、何かしらの武器がここにはあるのだ。
グウィンや座り込んでいた兵士も震えながらも立ち上がり、魔鉱石を使ってない大砲とかを持ち出して、応戦を始めた。
「いいぞ! とどめは俺と彼女とで刺す! お前たちは相手の牽制に徹しろ!」
アレクの激励を受けて、わたし達は徐々に形勢を立て直していった。




