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75.王都の異変

「アレックス!」

 という、ソニアさんの声がした。

 やけに切迫した、危機感のこもった声。

 わたし達二人は慌てて離れて声のした方を見上げると、空の向こうから機械式の小鳥が飛んで来た。

 魔装具、カルプトだ。

「ああ、よかった。やっと見つけた」

「何があった?」

 ただならぬ声を前にして、アレクは気を引き締めた。

 わざわざアレクを捜しに来るなんて、ソニアさんもよほど切羽詰まっているのだろうか?

「緊急事態な……の! お願い……助け……」

 小鳥から聞こえるソニアさんの声が突然くぐもり、途切れがちになったかと思うと。

 翼をはためかせて滞空していた小さな魔装具が。


 砕け散った。


 内部に爆弾でも仕込まれていたのかと思えるくらい、粉々に。

「何が……あったのかな?」

「楽しいことじゃないのは、間違いないな」

 わたし達の胸の内に、不安が広がっていく。

 お互い顔を見合わせ、カルプトが飛んで来た方角……王都の方を見た。

 煌々とした光が、地平線の向こうに広がっている。

 日が暮れようと夜をも昼に変えるほどの灯りが、都市の夜空を照らして明るく染め上げている。

 何もなさそうと思っていた矢先。


 地平線の向こう側に、巨大な火柱が立った。


 数拍遅れて衝撃波が、さらに遅れて爆発音が届いた。

 衝撃波が身体を揺さぶり、鼓膜をつんざく爆音が全身を貫き、わたしは危うく尻もちをつきそうになった。

 倒れそうになったのをアレクに支えてもらって、わたしはそれを見た。

「あれは……あの色は……」

 わたしは唇を震わせた。

 あの炎には、見覚えがあった。

 紫色をした、不気味にうごめく炎。

 自然には発生しない、魔力を源として立ち上る炎だった。

 星降る夜空に舞い上がる炎は、宿場町を襲ったのと同じ色をしていたのだ。

「急ごう!」

 とわたしは叫んだ。

 一刻も早く助けに行かないと、また大勢の犠牲者が出てしまう。

「何をしに、行くんだ?」

 背後にたたずむアレクは、確認するように聞いてきた。

 返ってくる答えを、知っているくせに。

「決まってるでしょ! 王都の人を! 助けに行くの!」

 その決断を、わたしは何のためらいもなく下せた。

 それがとても嬉しかった。

「お前を殺そうとした奴を、か?」

「そうだよ! 当たり前でしょ!」

 グリミナを嫌っている王様がいようが、人でなしがいようが関係ない。

 わたしは、わたしのできることをしなくちゃならない。

 王都には、優しい人だっているのだ。

 わたしが知らないだけで、ソニアさんみたいないい人だっているのだ。

 彼女はちょっぴりいじわるだけど……


 でも、わたしの訴えに対するアレクの反応は、とても鈍かった。


「王都には、近衛兵もいる。わざわざお前が出向かなくても、彼らがどうにかするはずだ」

「……あなたまさか、みんなを見捨てるつもりなの?」

「見捨てるつもりなんてない。異変を解決するのは、何も俺達じゃなくてもいいだろうってことだ」

「それを見捨てるって言うの! 大変な目に遭っている人がいるのに、何もせずに見てるとか、目を逸らして逃げ出すなんて、できないよ!」

「頼むから、俺の言うことも聞いてくれ。グリミナが王都に駆け付けたところで、即刻奴隷にされるか逮捕されるかのどちらかだ」

「わたしのことなんて置いときなさいよ! アレクはどうなの!? あなたは今、どうしたいの?」

「……っ!」

 思わぬことを聞かれたように、彼は言葉に詰まった。

「あなたは大勢の人を助けたくて、【銀の弾丸】に入隊したんじゃないの? なのに、何もしなくてもいいって言うつもりなの?」

「俺、は……」

 彼は自分の内面を見つめるように、気持ちを確かめるように言葉を切って、から。

「誰も理不尽に殺されないようにと願ってきた。そのために、俺はこれまで生きて来たんだ」

 わたしをまっすぐ見つめて、断言してくれた。

「だったらわたしと一緒に行こう! わたし達の手で、なんとかするの!」

 どうすればいいかなんて分からない。

 二人でも力が及ばないかもしれない。

 でも今、助けに動かなければ何も起こせない。

 それだけは間違いなかった。

 だからわたしは、自分ができることをしたかった。

 棄てられた王子と、グリミナの女。

 王都の人たちにとって、一番助けられたくない者達かもしれない。

 でも、そんなことは言っていられない。

 戦力は一人でも多い方がいいのだから。


 わたし達は全速力で駆け出した。


 地平線の向こうを目指して。

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