68.子供を狩るハンター
「冗談……ですよね?」
と、わたしが聞いても、ノードリーさんは返事をしなかった。
苦しそうに顔を歪め、直立不動の姿勢を保ったままだった。
「まさか……本当に……?」
やっぱり、返事はなかった。
彼の立場上、それ以上のことは言えないのかもしれない。
わたしは踵を返して、門を飛び出した。
どいつもこいつも、ろくでもない連中ばっかりだ。
(人を殺して、何が楽しいのよ!)
「待て! どこに行く気だ!?」
心の中で毒づくわたしに、翼をはためかせて滞空するカルプトがどやしつけてきた。
アレクの声だった。
魔力探知を使って、わたしが急に走り出したのを察知したのだろう。
「ちょっと黙ってて! 今いそがしいの!」
「忙しいって何だよ!?」
「人を殺して楽しもうとしてるバカどもを叩きのめすから!」
焦るアレクにきっぱりと言い放ち、わたしは周囲を探った。
武器を持って外に出たのは、十人はいたはずだった。
それなら、ある程度広い場所に集まるはず……
わたしは大通りを中心に、連中の姿を探し続けた。
「なんでそんなことになるんだよ! これ以上の騒ぎは起こさないはずだろう!?」
「騒ぎじゃないもん! これはやらなきゃいけないことなの!」
「ああクソっ……やっぱりこうなるのかよ!」
彼の文句を聞き流し、左右にスラムの崩れかけた建物が建つ街道をさらに走ると。
(見つけた!)
さっきの一団が目に入った。
わたしはグウィン達に見つかる前に、崩れかけた建物の陰に隠れた。
壁沿いに彼らに近づいてから、そっと顔をのぞかせ、そちらの様子を窺う。
集団に加わったグウィンが、実弾仕様のライフルを手に、彼らと談笑していた。
男どもの足元。
集団に取り囲まれるようにしてうずくまる、十数人の子供がいた。
男女半々くらいで、おそらく十才になるかどうかという年頃だった。
そこかしこに穴が開いている擦り切れた服を着ていて、髪もぼさぼさで体中が汚れていた。
そして、その手足には。
鎖のような痣が浮かび上がっていた。
隷従魔法に囚われた子供たちは、自分の境遇を受け入れさせられ、これから行われることを静かに待っていた。
「それでは始めるぞ!」
と、男の一人が高らかに宣言した。
「これから、貴様らの魔法を外してやる」
その男は、バカげたルールを居丈高に説明し始めた。
「俺達に見つからずに日沈まで逃げられれば、貴様らは晴れて自由の身だ。逆に俺達に見つかれば、その場でこいつの餌食になる」
男の宣告を証明するように、彼ら全員が手にしたそれぞれの武器を子供たちへと向けた。
今にも殺されそうなのに、視線を落とした子供たちはピクリとも動かなかった。
隷従魔法が作り上げた人格が、彼らの恐怖や怯えさえも押しつぶしているのだ。
わし鼻のグウィンが集団の前に出て、口の中で何かを唱えた。
すると。
子供たちの手足から、鎖の痣が消えていった。
隷従魔法を、外したのだ。
魔法の枷から解放された子供たちは、我に返ったように周囲を見回した。
それから自分の手足や身体を見て、戻ってきたことを確認しているようだった。
「今から二十数えてやる。その間にとっとと逃げな」
戸惑う子供たちにライフルの銃口を突きつけ、最初の説明を行った男が言った。
「にじゅー、じゅーきゅー、じゅーはち……」
と、その男がふざけた調子で数字を数え始め、座り込んでいた子供たちも弾かれたように慌てて逃げ出した。
でも、その足取りはおぼつかなくて、まともに走れてなかった。
隷従魔法から解放されたばかりでは、自分の身体を上手く扱えないのだ。
それに何人かの子は、手足の一部が白く染まっていた。
ラングロワ病の症状が出ているらしくて、白くなった部分が全く動かせてなかった。
そんな手足の不自由な子供が、まともに走れるはずもなかった。
「じゅーう、きゅーう……」
カウントが、無慈悲に進んで行く。
ゼロになるのを待ちきれず、男どもが手にしたバイオンやマグリット・ライフルを構え始めた。
「落ち着け。こんなのはどこにでもある光景だ」
再び、アレクの声がした。
「奴隷を嬲る連中なんて、腐るほどいる。それにいちいち反応するな」
アレクの言う通りだと、わたしも思う。
わたしの周りには、息をひそめている人の気配がする。
彼らや彼女らは、スラムに住む人たちだった。
何百人、何千人という人がいて、誰一人として助けには出てこない。
そんなことをすれば、自分が狩られる立場になるからだ。
みんな廃墟の中に身を隠し、悪魔のような男たちが立ち去るのをじっと待っているのだ。
「ごもっともだね。でも……」
わたしは、アレクの忠告を。
「わたしはそんなの、絶対に許さない!」
無視することに決めた。
無力な子供を殺して楽しむなんて、見過ごせるはずがなかった。
誰が何と言おうと、あいつらは叩きのめすべきなのだ。
「ぜろー!」
最後のカウントが行われると同時に。
わたしは建物の陰から、飛び出した。




