表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/98

57.大門にて

 王都最大の特徴は、都市の外壁として展開された、巨大な封印結界だ。

 以前見たセルザム商会のものとは、レベルも能力も桁が違う。

 より強固で範囲も広くて、街並みの全体を結界が覆いつくしている。

 さらには結界を構成する膜の透明度も高く、景色が滲んで見えるようなこともない。

 そして、その防御力は折り紙付きで。


 都市を灰燼と化す戦略級極大魔法ですら防ぎ切る。


 わたしの【防護壁】(ヴァルト)も通用しない複雑な魔法式が使われていて、外部からは誰一人として侵入できず、内部からの脱出もできない。

 毎日莫大な魔力を消費してでも動かす価値がある、王都の安全を守る要となる防御システムだった。

 その壁を越えて王都に出入りするには、都市の南に設置された大門をくぐらないといけない。

 ここだけに結界を抜けるための通路が設けられていて、王都を出入りする全員のチェックも行われている。

 王都唯一の玄関口である大門は、物々しい雰囲気に包まれていた。

 見上げるほど大きな門の周囲には、大勢の兵士が詰めていた。

 彼らは完全武装で、マグリット・ライフルを手に、魔力で硬度を上げた強化鎧で全身を固めている。

 門の上には大型の大砲まで持ち込まれ、壁面に開けられた銃眼からは、無数の銃口がこちらを向いていた。

 銃を向けられた先、太い鎖で引き上げられた鋼鉄製の門扉の下には、大量の荷車と大勢の人とが押し寄せていた。

 コンラッドさんの言った通り、日暮れと共に大門が閉じられるという噂が出ていて、慌てて出発しようという人と、閉じられる前に戻ろうという人が集まっているのだ。

 わたしは一人で入都者用の列に並んで、手続きの順番が回って来るのを待っていた。

 アレクは王都に近づくと色々問題があるので、外で待機することになっていた。

 周りにいる人たちの会話を何とは無しに聞いていると、多数の宿場町が魔獣に襲われたというのが話題の中心だった。

 魔獣の見た目も、突然町中に現れたというのも同じで、大勢の死傷者が出たらしい。

 そして、敵を撃退したのは【銀の弾丸】の部隊であり、国家警察はほとんど戦わずに逃亡したというのが、一致した意見だった。

「はあぁ……普段は威張り散らしているくせに、肝心な時に役に立たないんだから」

「頼むから、たとえ本当のことでも、余計な悪口は言わないでくれ」

「あれっ? 聞こえてた?」

 耳元にアレクの声がして、わたしは慌てて口を閉ざした。

 わたしの肩にとまった小鳥を通じて、今のつぶやきを聞かれてしまったのだ。

 通信用の魔装具カルプト。

 それは自らの翼を羽ばたかせて自由に空を飛び、内蔵された通信具を用いて、遠く離れた人とも話せる優れものだった。

 ウッドランド村で警戒連絡用に使われているうちの一羽で、アレクは王都に着いてから使うつもりだったみたいで、村長さんに借りていたらしい。

 王都だと人が多いしわたし達の距離も離れるので、魔力探知だけではわたしの正確な状況を掴めないんだって。

 アレクと別れてからは、何があってもすぐに対応できるように、カルプトの通信具を作動させっぱなしの状態にしていた。

「声に出しているんだから当たり前だろ。しかも、けっこう大きかった」

「そ、そーだったっけ?」

 全然自覚がなかったわたしは、慌てて周りを見回した。

 わたしが並んでいる長い行列を見張る者たちには、黒い制服の警官も混じっていた。

 前に王都を訪れた時とは、警官や兵士の雰囲気が違う。

 正体不明の魔獣を警戒しているのか、ピリピリと張り詰めた空気を醸し出していた。

 そんな彼らへの不用意な発言を聞かれたら、侮辱罪で逮捕されてしまう。

「おそらく、聞かれてはいない。でも、用心してくれよ」

「分かりましたです……」

 小声でカルプトに返したわたしは、深く深く反省した。

 口を閉じ、聞き耳を立てず、大人しく順番が回って来るのを待つ。

 そんなわたしの裾を、誰かが引っ張った。

 何気なくそちら……自分の足元へと目を向けると。

 ボロボロになった服を着た、男の子が立っていた。

「いいよ。ちょっと待ってね」

 とわたしは言って、背にしたリュックの中から。

 堅パンを一個取り出して、手渡してあげた。

 こういう子は、前にも会ったことがある。

 結界の外に築かれた、スラム街に住む人々なのだ。

 王都だけでなく、それなりの規模の都市の外縁部には、寄る辺のない人々が築いたスラムがあって、都市に住む人々からの施しを糧に生活している。

「あり、がと」

 呟くように言った男の子は、その場でパンをかじって、あっという間に平らげた。

 彼が空腹を満たすためには、そうしなければいけないのだ。

 男の子の背後に目を向けると、同じような薄汚れた身なりをした大勢の人々が、道端に座り込んで物乞いをしていた。

 彼らはみんな、手足のどこかが白く染まっている。

 スラムに住むのは、そのほとんどがラングロワ病にかかった人々だ。

 彼らの生まれ故郷にも、王様にも見捨てられて、どこにも行くところがなくて。

 それでも、誰かに縋るしかない人々だった。

 彼らはじっと、わたし達の方を見ていた。

 わたしが何をあげるのか、男の子が何を手にしたのか、一部始終を見ていた。

 そうしてこの子がお金とか食べ物とか、何かしら価値があるものを受け取ったなら、彼らは後でこの子を襲って、手に入れたものを奪うのだ。

 それは、生きるか死ぬかの闘争だった。

 彼らには救済法も救いの手もなく、王都の住人から蔑まれて疎まれて、わずかに与えられる慈悲に頼って生きていくしかなかった。

 とても小さなパイを巡って、お互いに争うしかないのだ。

(ごめんなさい……)

 と、わたしは心の中で謝った。

 わたしには、こんなにたくさんの人を助ける力がなかった。

 せいぜいが、ちょっとした食べ物をあげるくらいしかできない。

 アンジェラやイザベラのように、たまたま縁を結んだ何人かの子供を、助けるくらいしかできない。

(でもいつか……)

 と、わたしは願う。


 もっともっと強くなって、みんなを救えるようになりたい、と願った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ