54.封鎖予告
コンラッドさんの部隊の人と力を合わせて、わたし達は崩れた建物に閉じ込められた人の救助と町の復興に取り掛かった。
クララさんや隊員の何人かは祝福持ちみたいで、魔力探知が使えるのだ。
彼女たちの力で生存者を見つけ出し、みんな総出でがれきと焼け焦げた建材を取り除いて、動けなくなっていた人を助け出す。
怪我をしている人は、町の治癒術師か、コンラッド隊の衛生兵が治療に当たる。
負傷者の治療は、わたしもこっそり手伝った。
わたしの場合は治癒魔法よりも、傷薬とかの方が役に立ったけど。
コンラッドさん達は、わたしの違法行為に目を瞑ってくれていた。
何しろ怪我をした人が多いから、治癒術師は一人でも多い方がいいのだ。
そして、それらに加えて。
遺体の回収と、遺族への引き渡しも行った。
そういう時は、誰であろうとも何もできなかった。
悲しみに暮れる人にお悔やみを述べて、そっとしておくしかできなかったのだ。
他にも遅い夕食の炊き出しや、しばらくの間の寝床の確保など、やることは山のようにあった。
そういうあわただしい夜を過ごして、わたし達が一息付けたのは。
夜が明けた直後のことだった。
「はう……あぁぁ……」
町長さんの館の庭で、わたしはつい、あくびを漏らしてしまった。
実際、今すぐにでも寝られそうだった。
地平線から上っていく朝日が眩しくて、目を開けているのが辛い。
アレクは相変わらず、どこかに行ったままだった。
彼が姿を隠しているのはある意味、仕方のないことだった。
町には【銀の弾丸】の人たちが溢れていて、彼は王権に追われる身なのだから。
「お疲れ様でしたねぇ」
と、わたしに声をかけてきたのは、クララさんだった。
この館を救護所として負傷者を収容し、その前庭が仮の指揮所になっているのだ。
さっきまで部下に指示を出していたコンラッドさんも、今は温かいお茶を飲んで休憩していた。
「おぬしには大変な迷惑をかけてしまったな」
「いえいえ。わたしもお役に立てて良かったです」
わたしは両手を振って、コンラッドさんの謝罪に応えた。
別に苦労した覚えはないし、自分の力が誰かのためになるのは、とても嬉しいことだった。
「コンラッドさん達は、もう帰るんですか?」
「我輩やクララを含めた主力部隊は、昼前には撤退する予定だ」
「そう……ですか」
この後のことをあの警官たちに任せて大丈夫なのかと、わたしはちょっと心配だった。
「そんなに心配せずとも、ここには部下を数人残しておくつもりだ。あんな奴らには任せておけぬから、しばらくはこちらが指導する」
「それなら安心です」
と、わたしは笑顔で返した。
コンラッドさんの統率が行き届いているのか、【銀の弾丸】の人たちは国の役人としての意識がものすごく高い。
困っている人を助けるのが自分の使命だと、心の底から信じているみたいだった。
「リースさんは、これからどうされるおつもりですかぁ?」
と、今度はクララさんに聞かれた。
彼女は年下で平民であるわたしにも、丁寧な物腰を崩さなかった。
「さん」付けで呼ばれるのには慣れてないから、呼び捨てでいいとわたしが言っても、彼女は頑なに変えなかったのだ。
「次の町に行こうと思ってます」
と、わたしは言った。
後ろ髪を引かれる思いはあるけど、ずっとここにはいられない。
コンラッドさん達に後は任せて、自分の旅の目的を果たさなければいけない。
わたしがこのまま町を離れても、アレクは魔力探知でわたしの居場所が分かるから、きっと追いついて来られると思う。
「次の町って、あなたは王都に行くつもりなんですよねぇ?」
「そう、ですけど」
わたしの返事に、彼女はコンラッドさんと顔を見合わせた。
それからとても申し訳なさそうな顔で。
「それは……無理ですねぇ」
と言ってきた。
「どうしてですか!?」
彼女から告げられた言葉に、わたしは心底驚いた。
眠気なんか一瞬で吹っ飛んでしまった。
「魔獣に襲われたのは、この町だけではないのだ。王都から東西南北に伸びる街道にある、複数の宿場町が同時に襲われている」
「私達の到着が遅れたのも、他の町への対応をしていたからなんですよぉ」
「遅くとも明日には、王都を含めた主要都市の封鎖が布告されるだろう。魔獣の正体と出現方法を突き止めるまでは、当面外出禁止の措置がなされる」
「そんなぁ!」
コンラッドさん達の話に、わたしは泣きそうになった。
まだまだ長い道のりがあるのに、それじゃあ、王都にたどり着けないじゃないか。
「おぬしのような旅人には不便をかけるが、国家臣民の安全には変えられぬ」
「でもっ、わたしはどうしても、王都に行きたいんです!」
それが自分の我が儘だってことは分かってる。
だとしても、わたしはソニアさんに会いたかった。
王国随一の治癒術師に父さんの魔法を見てもらって、どうやれば使えるようになるのかを知りたかったのだ。
「そうは言われてもな……我輩の権限ではどうにもならぬ」
「そうなんですよぉ。こういうのはもっと上の人が決めちゃいますから」
コンラッドさんもクララさんも、困り果てたように眉根を寄せていた。
どーしよ……王都に行きたいのに。
わたしも頭を抱えて、その場にうずくまってしまった。
野宿を繰り返して何とかたどり着いても、入れてくれないんじゃ意味がない。
封鎖が解除されるまで、何日も何十日も王都の門の前で待ち続けるなんて、できるはずもなかった。
(もう諦めて帰るしかないのかなあ)
「何か、あったのか?」
絶望に包まれたわたしに声をかけてきたのは。
アレク、だった。




