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53/98

53.おじさんの正体

 小柄な男の身体が、あっけなく吹っ飛んだ。

 顎を打ち抜かれた支部長はきりもみしながら宙を舞い、地面に激突してからも煙を上げて滑っていった。

「守るべき民を見捨てて逃亡した挙句、住民の救助活動をも妨げるとは何事か!」

 おじさんは憤怒の表情で、溢れる怒気を吐き出した。

 あまりの怒気に、誰も止められなかった。

 支部長の背後に控えていた二人の部下も、上司が殴り飛ばされたのを呆然と見つめているだけだった。

「あまつさえ異変に立ち向かう勇気を持った者に濡れ衣を着せ、独断で処刑を図るなど言語道断!」

 おじさんは足音高く支部長に近づき、ぐったりした男の制服をつかんで無理やり引き起こす。

 闘気をも纏った拳を振り上げ、さらなる制裁を与えようとするのを。

「ちょっと! もういいでしょ!」

 わたしが慌てて割って入った。

 両手で丸太のような腕を引き戻し、さらに殴りかかろうとするのを必死で止めた。

「む、むぅ……よいのか?」

 おじさんは納得できない様子だったけど、ひとまず拳を収めてくれた。

「貴様ら! 何をしているか!」

 口と鼻から血を溢れさせた支部長は這いずるようにして逃げ出し、自分の部下を怒鳴りつけた。

「暴行傷害罪の現行犯だ! この者どもを、今すぐ逮捕せよ!」

「この恥知らずが! まだ分からぬのか!?」

 おじさんは腕を掴んだわたしを引きずり、金切り声を上げる男に詰め寄ろうとした。

「だから止めて! これ以上怪我人を増やさないで!」

 わたしがいくら力を込めても、怒れる彼を止められなかった。

(アレクってば、どこに行ったの!?)

 わたしは姿を消したままの護衛を、怒鳴りつけてやりたくてたまらなかった。

 さっきのピンチにも現れないし、何のために付いて来たのか……

 四つん這いになって逃げる男に、わたしを引きずるおじさんが追いついた直後。


 キラキラと星のように瞬く複数の輝きが、わたし達の周りに生まれ出た。


 これは……

「転移反応!?」

 わたしは、驚きの声を上げた。

 光の数からして一人じゃない。

 数十人規模の部隊が、ここに現れようとしていた。

「コンラッドたいちょう~」

 光を抜けて最初に現れたのは、紺色の制服を着た若い女の人だった。

 人のよさそうな顔に涙を浮かべ、泣きそうな顔で拳を振り上げたおじさんに駆け寄って来た。

「わたし達を置いてかないでくださいよ~。ほんっとに心配したんですよぉ……」

「む、むう……それについては謝罪しよう」

 えぐえぐと泣く女性に勢いをそがれたのか、おじさんはようやく矛を収めてくれた。

 その頃には、同じ色の制服を着た男女が次々と現れ、話をする二人の前に整列していった。

「お待たせして申し訳ございません! コンラッド中隊第一小隊五十名、現場に到着いたしました!」

「うむ。ご苦労」

 全員からの完璧にそろった敬礼を受けたおじさんは、女性から手渡された制服の上着を着込んだ。

「そ、その制服は……」

 支部長は、あんぐりと口を開けて呻いた。

 おじさんが身に着けた紺色の制服には、わたしも見覚えがあった。

 ダリルさんから、絶対に戦うなと言われた相手。

 何万人もの候補者の中から選りすぐられたエリート。

 国家警察の中でも大きな権限と実行力を有する精鋭部隊であり、町の警官隊とは実力も階級もはるか上の存在。

「ふむ……そう言えば、名乗るのが遅れたな」

 館の前にいる人たちを見渡して、おじさんは名乗りを上げる。

「我輩は緊急対応部隊【銀の弾丸】(シルベル・バレット)所属の中隊長、ニコラス・コンラッドだ」

「副官のクララ・オルブライトです。よろしく~」

 上司の無事を確かめられて涙を収めた女性は、わたしに向かってひらひらと手を振って見せた。

「以降、この場は我が隊が取り仕切る!」

 町全体に響き渡るような声で、コンラッドさんは宣言した。

 宿場町の人たちからは、何の文句も出なかった。

 でたらめな指示を出す警官隊に任せるよりも、コンラッドさん達に復興の指揮してもらった方がいいと、わたしも思った。

「この決定に異議のある者は前に出よ!」

 魔神のごとき気迫のコンラッドさんにすごまれて、支部長を初めとした警官たちは、何一つとして反論できなかった。

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