49.旅路
ソニアさんに招待された日に合わせて、わたし達は村を出発した。
王都までの道のりは徒歩で六日。
駅馬車に乗れば三日、魔鉱石を推進機関にした魔装具シルバリウスに乗れば一日で着くけど、もちろんそんなお金はないので、わたし達は歩いて行くしかなかった。
王都までは、アレクも一緒に行くことになっていた。
わたしの護衛として。
「お前のことが心配なんだ」
なんて大真面目な顔で言われたら悪い気はしないし。
「招待されたのはわたしだけだから、一人で行こうと思うの」
最初にそう告げた時のアレクの落ち込みようと言ったら、見ていて可哀想になるくらいだったから。
ダリルさんやハンナさん、エイミーさんに村長さんにも忠告され、果てはイザベラにまで、
「アレクさん、一緒、行くのが、いいです」
と、言われるほどだったのだ。
それで結局わたしが折れて、一緒に来て欲しいとお願いした時には、彼は飛び上がりそうなほどに喜んでいた。
尻尾を付けてあげたら、懸命に振りまくっているように見えるくらいに。
そして、村を出て最初の日は、わたし達は北に向かってエンタリオ街道に出て、そこからひたすら西へと歩いて、夕方には街道に設けられた宿場町にたどり着いていた。
ゴルドニア王国には、主要街道の途中途中に、食事や宿泊ができる宿場町が整備されている。
大人が一日歩けばたどり着けるくらいの間隔で設置されている宿場町には、旅人のための宿屋や酒場があり、魔装具の整備ができる工房もあり、ばん獣の休息や交代ができる厩舎もあるのだ。
そういう数十軒のお店がひと塊となって、魔獣を防ぐための防護柵で取り囲まれた町には、国家警察の詰め所もあって、小さな町を形作っていた。
わたし達はなけなしの路銀を使って、なるべく安くて良さそうな宿を取った。
一階が食堂を兼ねた酒場で、二階に宿泊者用の部屋があるというこぢんまりとした所で、恰幅のいいご夫婦で経営しているみたいだった。
ボリューム満点の晩御飯をいただいてから、横幅がわたしの二倍はありそうな宿の主人から鍵を受け取り、魔装具ラントナのほのかな明かりに照らされた階段を上がり、使い古されたベッドと机と椅子が一つずつ備えられた部屋に入った。
「それじゃ、明日に備えて寝よっか」
というわたしの提案に、アレクは一つ頷くと。
いきなり、部屋を出ていこうとした。
「ちょっとっ。どこに行くつもりなのっ?」
慌てて彼の肩を掴んで制止して、わたしは問い質した。
外はもう暗くて、お店も全部閉まっているというのに、出かける用事なんて何もないはずだった。
「どこにって、俺は宿の外で寝るつもりなんだ」
「……は?」
一瞬、冗談かと思った。
「ここに来る時、いい感じの寝床になりそうなところを見つけたんだ」
でも、アレクは相変わらずくそ真面目な顔をしているから、きっと彼は本気で野宿するつもりなのだろう。
「そんなのダメだよ。アレクもここに泊まるの」
だからわたしは、ぴしゃりと言ってやった。
こやつはなに寝ぼけたことをのたまっているのか。
「……は?」
さっきのわたしと同じことを、アレクは呟いた。
目を丸くして、凍り付いたように固まっているのも、ちょっと前のわたしと同じだったのだろう。
「ちょっと待て。お前……俺と同じ部屋で寝ようと思っていたのか?」
「うん。そうだよ」
わたしがはっきりそう言うと、アレクは片手で頭を抱えて天を仰いだ。
その態度は、どういう意味なのかな……?
「わたしと同じ部屋で寝るのに、何か問題があるの?」
「問題だらけだ! この馬鹿!」
「バカとはなによ! 怒らなくてもいいでしょー!」
いきなり怒鳴りつけられて、わたしは思わず言い返してしまった。
「そもそも、二人分の部屋を取るようなお金はないの! それくらいわかるでしょ!?」
「だから俺は外で寝るって言ってるだろう!」
「それが一番ダメなの! 野宿なんてしてたら、国家警察に逮捕されちゃうんだから!」
宿場町というのは、他の町に比べて治安が良くない。
酔っ払いが多いから、ケンカなんて当たり前すぎて誰も止めようとしないし、荷物の窃盗や強盗もしょっちゅうで、時には人さらいだって出てくるのだ。
お互い顔も知らない者同士が集まっている分、そういう犯罪が起きやすく、警察は夜に出歩く人を片っ端から逮捕している状態だった。
「あなたは王権に追われてる身なんでしょ!? 警察に捕まったら、一生牢獄に囚われるかもしれないのよ!」
わたしにそう詰め寄られて、アレクは黙りこくった。
何か反論しようとしばし考えを巡らせ……
いいことを思いついたように顔を輝かせた。
「俺は町の外で寝てくる!」
「だから今から外出しちゃダメなんだって! そんなに捕まりたいの!?」
わたしは今にも飛び出しそうなアレクの腕を掴んで押し留めた。
日が暮れた今は、すでに外出禁止なのだ。
外にいるだけで、見回り中の警官に捕まっちゃう。
「それに、夜は魔獣に出くわすかもしれないの。明日の朝に食い散らかされたあなたの遺体とご対面なんて、ほんとに勘弁して」
「けど……だからって、なぁ……」
いよいよわたしに言い負かされても、アレクはまだぶつぶつ言っていた。
「よりもよってお前と……んかよ……」
耳まで赤くなったアレクは視線を床に落として、まだごにゃごにゃと呟いていた。
「何言ってるか分かんないの! 言いたいことがあるなら、はっきり言いなさい!」
「言えるか馬鹿!」
「なんだとー! だからバカって言うな!」
売られたケンカをつい買ってしまって、わたし達はしばらく押し問答を続けた。
結局……
お金がないという事実はどうしようもないので、わたしがベッドで、アレクは床で寝ることになった。




