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16.高価な武具の持ち主

 両手が痺れる。

 柄が手ひらから、はじけ飛びそうだ。

 両足が地面を滑り、押し切られそうになる。

 わたしは全身に渾身の力を込めて。


 とげの付いた鉄球を、アレクの目の前で受け止めた。


「無事なの!?」

 視線だけを背後に向けると、ボロボロになったアレクがそこにいた。

(でも、生きてる!)

 その事実が、わたしにとって重要だった。

 やっと追いつけた。

 アレクを狙った、必中の一撃を防げた。

 涙が出そうだった。

 わたしは彼を、死なせずに済んだのだ。

「あなたは援護に集中して! こいつはわたしが何とかするから!」

 魔法が効かない相手に、アレクは太刀打ちできない。

 だからヘクターに立ち向かうよりも、後ろで兵士をけん制してもらった方がいい。

 その事実を突きつけられたアレクは、悔しさに顔を歪ませながらも、わたしの背後へと回った。

「次はお前が遊んでくれるのか?」

 楽しそうな声がした。

 上から鉄球でわたしを押さえつけるヘクターが。

 空いた手を握り締め、拳を突き上げてきた。

「そういうことよっ!」

 硬い籠手の一撃を靴裏で受け止め、拳に押される勢いを利用して。

 わたしは、敵から離れた。

「ほう……アレックスよりもやれそうだ」

 軽い口笛を吹くヘクターは……


 ほぼ無傷だった。


 マグリット・ライフルの十数発の魔法を受けたはずなのに、かすり傷程度しか負っていなかった。

 上級に匹敵する威力があっても、強化したあいつの肉体は貫けないのだ。

「まあいい。どのみち貴様ら二人ともぶっ殺すつもりなんだ。そんな腑抜け野郎は部下に任せるとしよう」

 にやけ面のヘクターが片手で指示を与えると、これまでわたしを抑えることに徹していた配下の兵士たちが、一斉にアレクへと襲い掛かった。

 わたしには、彼を助ける余裕がなかった。

「女と遊んだ方が、楽しいもんなぁ!」

 モーニングスターを振り回し、籠手で殴ろうとしてくる奴がいるから。

 わたしは両手で握った【炎の短剣】(フラムダガー)で、あらゆる方向から飛んでくる拳と鉄塊を打ち返した。

 触らせるな。

 因子を見られるな。

 わたしのことを知られたら。


 隷従魔法を使われてしまう。


 それを頭に置いて、わたしは戦闘を組み立てる。

 全ての打撃をダガーで受けて、掴みかかってくる手を回避して、反撃のチャンスをうかがう。

「さあ頑張れ! 俺に殺されるまで!」

 気味の悪い愉悦にひたるヘクターは、わたしに敢えて受けさせているようだった。

 受けやすい部位を狙って、分かりやすい軌道を取っている。

 わたしは余裕をもって、ダガーを使って攻撃を受け流していた。

 けど。

 何度も打撃を跳ね返していくうちに、気付いた。

 金属が打ち鳴らされる音が戦場に響くたびに、短剣の刃が少しずつ削り取られていく。

 このままじゃ……


 刀身が、持たない!


 どんな金属だって両断できる灼熱の刃が、ヘクターの武器に傷一つ付けられなかった。

 むしろ刃こぼれしているのは、【炎の短剣】の方なのだ。

 奴は、まさか。

「あんた、わたしの武器から潰そうと思ってるの?」

「へぇ……気付いたか」

 真意を隠そうともしないヘクターは、満面に嗜虐的な笑みを浮かべていた。

「女は、存分にいたぶってから殺した方が楽しいからなっ!」

 自分の欲望を叫ぶヘクターは地を蹴り、とげの付いた鉄塊を真横に振り抜く。

 ほんと、サイアクな奴だった。

 無力化したわたしを痛めつけようなんて、趣味が悪いにもほどがある。

「そんなの、させるわけないでしょ!」

 わたしは両足を踏ん張り、柄を両手で握り締めて、ダガーの魔鉱石に命じた。


 炎熱魔法、最大出力。


 その意思に従い、灼熱の刃が一回り太くなる。

 迫るモーニングスターの丸い頭部と、盾にした赤い刃が激突。

 瞬間、鉄塊の表面がうっすらと透き通り。


 内部に、青き雷が走ったのが見えた。


 まさか、と思った。

 びりびりと衝撃に震える柄を両手で支えながら、わたしは愕然とした。

 ヘクターの武器は、【炎の短剣】の炎熱魔法を打ち破り、完璧に防ぎ切っていた。

 しかも表面の変化は、ただの鋼や金属ではなく……


 魔鉱石の、反応だった。


 あのモーニングスターも、左手の籠手も、魔鉱石を直接削り出して作られているのだ。

 だから武器全体が常に防御魔法に覆われ、打撃や斬撃、魔法による破壊を防いでいる。

 それを正規兵として訓練を受けた技で使いこなせば……


 抜群の防御力と攻撃力を発揮する。


 防御魔法を永続されたら、短剣の灼熱の刃も、【防護の指輪】(ヴァルト・リング)による無効化も効果を発揮できない。

 何重にも重なった魔法の壁は、どんな攻撃魔法でも、無効化魔法でも解除しきれないのだ。

「いいだろう? こいつは、国王陛下に賜った逸品だ。王国貴族たる俺にふさわしいと思わないか?」

「そんなものっ! 貴重な魔鉱石の無駄遣いじゃない!」

 じりじりと押し込まれながらも、わたしは反論した。

 どんな効果があろうとも、武器そのものの大きさの魔鉱石なんて、見たことも聞いたこともなかった。

 普通は宝石大の魔鉱石を核にして、金属など魔力を通しやすい素材で周囲を覆って、魔装具の形に仕上げるのだ。

「そんなのにお金をかけるくらいなら、もっと上手な使い方があるでしょ!?」

 籠手もモーニングスターも桁外れに高価な代物で、わたしが一生豪遊しても使い切れないくらいの費用がかかっているはずだった。

「これだから下賤な者は……完璧な武具ってのは、どんな金にも代えられない価値があるんだよ」

「ふざっ……けないで!」

 ため息まじりのヘクターを押し返し、距離を開けるためダガーを大きく振り回した。

「あんた一人の武勲のために、どれだけの人が犠牲になってると思ってるのよ!」

 その武器に費やしたお金があれば、困っている大勢の人が救えるはずなのだ。

 ラングロワ病の研究だって、もっと進められるはずなのだ。

「はははっ。さっきも言っただろう? ごまんといる役立たずを救うよりも、俺に強力な武具を持たせた方が、よほど王国のためになるのさ」

「そう……そこまで言うなら……」

 わたしは大きく息を吸い、高ぶる気持ちを静めた。

 感情に流されたらダメ。

 常に落ち着き、冷静な判断がいる。

 身体から無駄な力を抜き、最小限の動きを最速で実現する。

 敵に勝つには、それが必要なのだ。

 体内に魔力を満たし、筋肉の緊張をほぐし、その準備を整えた。


 ここからは。


 戦い方を、変える。

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