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14.悪事に加担する軍人

 わたしが【炎の短剣】(フラムダガー)の灼熱の刃で、檻の格子を破壊しにかかったところで。

「別の奴が、来るらしい」

 と、空を見上げたアレクが告げてきた。

 わたしもつられて上を見ると、真っ赤な夕焼けに覆われていた空が、滲んでぼやけた色に変わっていた。

「結界を、復活させたの?」

「そうだな。俺達を閉じ込めるため、限界まで広げて再起動したんだろう」

 アレクの言う通り、結界は街道のかなり外側、南にある森の近くまで達していた。

「少し、厄介なのが来たようだ」

 彼が視線を向けた先、最初の爆発で吹き飛ばした馬車の残骸の近くに、キラキラと輝く微粒子の霧が舞い踊っていた


 あれは……転移反応!


 霧の粒子がいくつかの塊にまとまり、黄色い光を放って現れたのは。

 赤い派手な制服を着こんだ、六人の男だった。

「宴の邪魔をしたのはお前らか」

 先頭に立つ男が、手にした酒瓶をあおりながら言った。

 赤を基調とした豪華な制服の襟をはだけ、袖も適当に腕まくりをして、だらしなく着崩していた。

 整えられていたはずの金髪は、服と同じように崩れてぼさぼさになっていて、赤らめた四角い顔と胡乱な視線を漂わせる青い瞳には、酒の影響が見て取れた。

 正直言って。


 こんなののどこが厄介なのか、と思える風情だった。


 彼の背後には、マグリット・ライフルを肩に下げた五人の男が従っていて、こちらは男と同じ赤い制服を、ピシリと寸分の狂いもなく着ていた。

「奴は国軍士官のヘクター・ベネットだ。さっきまでの護衛と訳が違う。気を付けろ」

 呆れたわたしにくぎを刺すように、アレクは囁いた。

 確かに、国軍の正規兵なら、わたしより強い可能性もある、けど……

「あいつってば、アレクの知り合い?」

「奴は王都では有名人なんだ。自分の部下を痛めつけて楽しむ趣味があるってな」

「うわ、サイアク……」

 わたしは引き気味に答えた。

 無抵抗な他人を苛めて何が楽しいのか、わたしには理解できなかった。

「そんな奴は、ボコボコにぶちのめさないとダメだよね」

「だから、ヒーラーが物騒なことを言うなよ……」

 というため息交じりの返事を無視して、わたしはゆっくり近づいてくるヘクターに向き直った。

 そして、ようやく。

「転移魔法で、国軍が来るなんておかしいんじゃない?」

 という疑問に、思い至った。

「おそらく、転移用の魔装具を、あらかじめヘクターに持たせていたんだろう。こういう非常事態が起きた時のために」

「って、完全にグルじゃん!」

 わたしは思わず叫んでしまった。

 国軍への期待はとっくにゼロだったけど、これはあまりにも露骨過ぎた。

 転移魔法には、入口と出口の両方がいる。

 出入口のつながりは最初から決まっているから、ここの出口に対応する転移魔装具は、よほど信用できる人物が持っているはずだった。

 それは、違法な取引の護衛を頼まれるほど、国軍はどっぷりとセルザムとつながっている証拠だった。

「そうかもな」

 と、ヘクターのあまりにも軽い声に、わたしは驚いた。

「なんで……どうして否定しないのよ!?」

「まー、俺がここに来た以上、今さらだろう?」

 わたしの追及を受け流し、ヘクターはにやにやと笑っていた。

 口元を歪めた、嫌な笑みだった。

 違法行為の現場に来た以上、わたし達を生かして返すつもりはない、ということなのだ。

「さて、顧客の商品に手を出した奴に、たっぷりとお仕置きをしてやろう」

 ヘクターは手にした酒瓶を投げ捨て、部下に持たせていた武器を受け取った。

 長い柄の先端に、とげ付きの鉄球を取り付けたモーニングスターだ。

 アンバランスな重い頭部を持つ武器を、彼は片手でやすやすと振り回して見せた。

「商品……ですって!? 人が?」

「そうとも。こんなゴミどもがいたところで何一つ役に立たないんだ。それなら、売り飛ばして金に換えた方が、少しは国のためになるってもんだ」

「あんたみたいな最低のくそ野郎を叩きのめした方が、よっぽど国のためにな……」

 わたしが全部を言い切る前に、アレクに口をふさがれた。

 でもそれはもう手遅れで、ヘクターの酔いが一瞬で覚めたようだった。

 憤怒の表情を浮かべた男の周囲でビキリ、と空気が砕けた音がして、増大した魔力が全身からあふれ出てくる。

「ありゃ、怒った?」

「……お前が挑発するからだろーが」

「してないもん! ほんとのことじゃないの!」

 わたし達が言い争う間にも、バキバキと放電したような音が響く。

「無礼者は、どうすればいいんだろうな?」

「「死をもって償わせるべきです!」」

 お怒りのヘクターの問いかけに、背後の兵士が唱和した。

 彼らの中で、わたし達の死刑が確定したらしい。

「簡単には死なせんぞ。貴族を侮辱した罪を骨の髄まで刻み込んでやる」

「ふん! あんたみたいな奴の思い通りになるもんか!」

 わたしは右手でダガーを構えて、連中をぶっ飛ばしてやると意気込んだ。

「アレクはあいつを足止めして。その間にわたしが……」

「撤退した方がいい、と思う」

「なっ……!」

 傍らに立つアレクの提案に、わたしは絶句した。

「するわけないでしょ! できないよ!」

 ショックからすぐ立ち直り、わたしは彼を睨みつけた。

 いきなり、何を言い出すのか。

 鎖につながれた子供を見捨てるなんて、考えられない。

 ここで助けられなければ、彼らは一生奴隷にされてしまうのだ。

 今がまさに運命の分かれ道なのに、戦う前から逃げることを考えるなんて、あり得なかった。

「奴は、隷従魔法の使い手だ。あれを使われると、厄介なことになりかねない」

 アレクが告げたのは、人を無理やり従わせる魔法の名前だ。

 ゴルドニアの貴族には、魔装具を使わなくても、隷従魔法を行使できる奴がいるらしい。

 そうして絶対服従の配下を増やし、自らの権勢を蓄え、王国内に確固とした基盤を作り上げている。

 では、あの兵士たちは、もしかして……

「そんなの、使わせなければいいの!」

 胸の内に膨らむ不安を押しつぶし、わたしは断言した。

 隷従魔法なんて、気にしなくていい。


 その魔法が、わたしにもかかる(・・・・・・・・)と気付かれなければいい。


 ただ、それだけのことなんだ。

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