13.勝利とお礼
そうしてアレクと二人、ほんの数分の戦闘で二十人以上を戦闘不能へと追い込んだ。
わたし達は次々と敵の武器を切り落とし、腕をへし折り、ろっ骨を砕き、すねを踏みぬいて、敵の数を減らしていった。
彼らは、非人道的な違法行為に加担していたのだ。
骨の二本や三本は、我慢してもらおう。
魔法剣もマグリット・ライフルも、【防護壁】の敵じゃない。
わたしに【輝く盾】が通じず、攻撃も当たらない。
アレクの銃撃も止められなくて、次々に討ち取られ……
やがて。
全滅も時間の問題ということを理解した敵は闘争心を失い、立ち向かってくる者が減って来た。
「なんなんだ!? 貴様らは!」
護衛の背後に隠れていた太っちょは、驚愕の叫びを上げた。
数と質とで圧倒的な優位を信じていた彼は、自分が負けそうなのを受け入れられないのだろう。
「ただの盗人だ」
自嘲気味に、アレクは返した。
「そのとーり。他と比べると、ちょっとばかり強いくらいかな」
彼の言葉に同意しつつ、太っちょの前に立つ最後の護衛を蹴り倒し、わたしはそいつに短剣を突き付けた。
「このまま逃げるなら見逃してあげるよ。どうする?」
「ふっ……!」
わたしの警告に、太っちょは息を吐くような声を零すと。
「ふざけるな! 貴様らのような下賤な者どもの命令など聞くものか!」
そう叫んだ男は、丸い塊を懐から取り出して。
手の中で破裂させた。
目が眩むほどの強い光があたりを満たして。
一時的な、盲目になってしまった。
「檻に向かったぞ!」
魔力探知を使ったらしいアレクの警告を聞いて、わたしは目が見えないまま駆け出した。
時間がない。
あいつの狙いはただ一つ。
戦場全体と自分の位置を思い返し、檻の位置にだいたいのめどをつけて。
跳躍。
ふわりと着地した手足に格子の冷たく硬い手触りがあって、わたしは安堵した。
少しずつ、視力が回復するにつれて……
檻の上にいる自分と、檻の格子を掴んだ男が見えてきた。
「人質を取ろうなんて考えても無駄よ。諦めなさい」
わたしは太っちょに警告した。
迫る危険を増幅するように、歩み寄って来たアレクが、冷たい瞳で男を見下ろしていた。
今にもくびり殺しそうな敵意を背に、鈍色の銃口を男に向ける。
「ひいっ」
と裏返った声を上げて、地を這うようにして後ずさる男に向けて。
アレクが発砲。
撃ち出された三匹の蛇が男の首と腕と足に噛みつき、放電。
「うぎゃああぁぁぁああぁぁ!」
と耳障りな悲鳴を上げて、太っちょがその場に昏倒した。
感電して、意識を失ったのだ。
男が倒れたのに合わせて、周囲の景色の輪郭がはっきりとした。
【雷蛇】の放電で、封印結界を発動していた魔装具が壊れたのかもしれない。
結界の崩壊が合図となって、敵は統率も戦意も失った。
まだ動ける護衛達も先を争って逃亡し始め、総崩れとなって……
あたりに、静寂が訪れた。
逃げ出した護衛は放っておいた。
あんなのを相手する時間がもったいないし、セルザムの本店から、積み荷を守れなかった責任を追及されるだろうから。
「あなたのおかげだよー。ありがとねっ」
わたしは檻の上から飛び降りると、アレクの首に両手を回して、ギュッと抱き締めた。
あれだけの戦力を前にして完勝できたのは、彼の力による部分も大きかった。
最初の奇襲に成功したのもそうだし、わたし一人なら制圧するのにもっと時間がかかっていただろうし、下手をすると子供たちを盾にされてたかもしれない。
すべての物事が上手く行ったことが嬉しくて、身体の中からいろいろあふれてきちゃって、それを表現してしまったのだった。
「なっ、あっ、うぁっ……」
わたしにくっ付かれたアレクは耳まで赤くなって、変な声を上げて、固まってしまった。
こういう反応は初めてだった。
ジェイクなら怒り出すし、エイミーさんなら微笑み返してくれるし、ダリルさんならよしよしと褒めてくれるのに……
でも、腕を振り解いたりしないから、きっと嫌じゃないんだろうとは思った。
真っ赤な顔をして、目をグルグル回すアレクを見ているうちに。
わたしは気付いた。
この反応は、以前お世話した子犬のものと同じだということに。
(あの子も抱き上げると、凍り付いたように固まってたなぁ)
全然動いてくれない子犬に対して、わたしがしたことと言えば……
可愛い可愛いと褒めながら、顎とか頭とかを撫でてあげることだった。
そうすると、すっごい喜んでしっぽを振ってくれたような気がする。
その子犬は数か月世話をしているうちに、大人と変わらない体格まで成長して、いつの間にかどこかに行っちゃったのだ。
(あの子、今頃どうしてるだろ……元気にしてるかなぁ)
わたしが昔のことを思い返している間も、アレクは固まっていた。
そのうち溢れていた感情も収まって来たので、ひとまず彼を解放してあげた。
このままだと、話もできそうになかったから。
「無事……みたいだね」
わたしはアレクの状態を見ながらそう言った。
多少息が上がっているものの、怪我はなさそうだった。
それに、左腕の白く固まった範囲も変化がなく、病気は進行していないようで、何よりだった。
「俺、よりもお前だよ。自分の身体くらい少しは気にしろ」
ようやく自分を取り戻したのか、アレクは声を抑えながら言った。
突き出してきた右手の親指で、わたしの頬をぬぐうと。
その指先に、うっすらと赤い血が付いていた。
「ありゃりゃ……いつの間に切られたのかな?」
わたしはとぼけたように言ってから、ジャケットのポケットに手を突っ込み、消毒薬を兼ねた塗り薬を取り出した。
透明な軟膏を頬の傷に塗り込み、しばし待つ。
薬が固まったのを感じてから、指先でその塊をはがすと。
「ほらっ、もう治ったでしょ」
痛みのなくなった頬を、アレクに近づけて見せつけた。
「……頼むから、近接戦闘ばっかりしないでくれ。そのうち死ぬぞ?」
なぜだか頬を赤く染めた彼は視線を逸らし、全然違う話題を持ち出した。
「だってー、わたしはそっちの方が得意なんだもん」
わたしは片手を振りながら、笑って受け流した。
接近戦は、一瞬のスキを突かれて大けがをすることもあるから、ひと時も気を抜けない。
その分、早く決着をつけられるというのが、わたしの性に合っていた。
身を隠しながら、あるいは動き回りながら、ひたすら銃撃戦を続けるなんて、とてもじゃないけど我慢できない。
「得意不得意の話じゃなくて、だ。危険は最小限に抑えるのが……」
「あー、はいはい。分かったってー」
お説教が始まりそうなのを、わたしは軽く受け流した。
戦闘スタイルというものは、わたしにもアレクにも向き不向きがあって、自分に合ったものを伸ばしていくべきなのだ。
ダリルさんだって、今の形がわたしに合うと思ってくれたから、接近戦の訓練ばっかりさせてくれたんだと思う。
だから今さら、この手のことで言い争うつもりはなかった。
そんなことよりも今は、子供たちの方が大事、だもんね。




