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探偵の憂鬱(2)

 昼食を終えた園児達が、思い思いに園庭で遊んでいる。

 それらに丸めた背を向けて、私は花壇の前に立った。春はチューリップ、夏はひまわり、秋はコスモスと先生達が手を入れ、花を咲かせている花壇も、今の時期は少々寂しい。まあ、週末に新しい花を植えるらしい事を、園芸店との電話をしている所に偶然行き合わせて聞かせてもらったが、園児達へのサプライズに考えているようなので、黙っておいてやる事にしている。

 と、人目を避けるようにりなちゃんが現れた。

 素早く私の隣に並び、私達は座った。

「依頼内容を聞こうか」

 りなちゃんは、不安に強張る顔で唇をなめた。

「心配ない。私は探偵だ。秘密は誰にも洩らさない。例え拷問されようとも」

 そう言うと、りなちゃんは強張った小さな笑みを浮かべた。歯医者という拷問者でも、真の男の口を割ることはできない。

「お願いしたいのは、指輪の事なの」

 声を潜めて、憂い顔をわずかに安堵させてりなちゃんが口を開く。

「詳しくきこうか」

 りなちゃんは憂いを秘めた目をやや俯けて、話し出した。

 誕生日プレゼントにお姉さんからもらった赤い指輪を、無くしてしまったらしい。嬉しくて、友達にも見せてあげようとこっそりと持ってきて、失くしたらしい。

「なるほど」

「見付けてもらえるかしら」

「期待に沿えるよう、努力しよう。

 報酬だが」

「ええ。まずは手付に今日のプリンを。見つかったら、ミックスフルーツグミでどうかしら」

 グミの歯ごたえは独特だ。口寂しい時にも役に立つし、寂寥感も癒してくれる。

「いいだろう」

「ありがとう」

 プリンをこっそりと受け取った私は、早速今日これまで立ち寄った場所を聞き出す事から始めた。

 こういった風に、失くした物を探したり、失踪したペットを探したり、ケンカをした当事者同士を仲直りさせる仲介をしたりと、探偵の仕事なんて何でも屋と変わらない。

 それでも私は、この仕事に誇りを持っている。女の涙を見るよりは、私が這いずり回っていた方がましだ。


 赤い指輪を見付けたのは、それからほどなくした頃だった。手を洗う時に外したのだろう。園庭から教室へ入る時に手を洗う水道のところに落ちていた。落ち葉がかぶさっていて、見つけにくかったのだ。

「ありがとう!」

 りなちゃんは歓喜の涙をうっすらと浮かべ、指輪にキスするように唇を寄せた。

「力になれて良かった」

 私はポケットに手を入れたまま、はにかんだように笑った。

 りなちゃんはそんな私に笑いかけ、

「じゃあ、約束の報酬は、明日」

と言い、身を翻した。

 それを見送って、私は迎えに来た女の方へ向かう。

「俊ちゃん、今日も楽しかった?さあ、ママとおうちに帰りましょうね」

「うん!」

 私は子供っぽく明るく返事を返して笑いかけ、母親という女と手をつないで、園を出た。

 振り返ると、同じように母親に手を引かれて歩くりなちゃんが私の方を振り返り、アルカイックスマイルを浮べて私に小さく手を振っていた。

「俊ちゃん。今日はお出かけする日よ。おやつを食べたら出かけるわね」

 お出かけ。彼女がそう言う時は、それは買い物でも図書館でも公園でもなく、歯医者と決まっている。

 私は憂鬱な溜め息を押し殺した。






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