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探偵の憂鬱(1)

 ぼく──失礼。私の名前は広岡俊介、探偵だ。依頼はそう多くもないが、それならそれでいい。困って泣いている女がいないということだからな。

 段々と寒さが増して来た。なので、陽のあたるベンチに近付く。

 と、そこに先客がいた。美しい、猫のレディだ。名前は「たま」。

「いいかい?」

「にゃ」

 たまはこちらへちらりと目をやって短く鳴くと、興味を失ったかのようにまた丸くなって眠ってしまった。

 私は苦笑を浮べて、静かにたまの隣に腰を下ろした。

 重く雲の垂れこめた空が、近々雨を降らせる事を示している。

 寒い日には、運動会の時に転んで作った時の古傷が痛むのだがな。

 と、静かなひと時を破って、女が小走りで近寄って来た。

「俊君、そろそろ中に入りましょう。折り紙をしようね」

 やれやれ。

 私は小さく苦笑して、春香先生に手をつながれて菊組の教室へ向かった。


 園児達は思い思いの場所に座り、先生に教えられた通りに折り紙を折っている。みかん、ゆきだるま、きつねを折る事になっているのだが、同じようにしているつもりでも、手先の器用さや集中力の違いか、出来上がりにはずいぶんな差がある。

 私は出来上がったそれを床の上に置いて眺め、皮肉げな笑みを浮かべた。どうやらお前も1人、孤独らしいな。周囲から孤立し、溶け込む事ができないようだ。

「広岡の、変だなあ」

 ガキ大将がそれをさっと取り上げて声を上げると、腰巾着としていつもついて回っているやつらも口々に言った。

「みかんでもゆきだるまでもないしきつねでもないし。何勝手なもの作ってるんだよ」

「それにしても、何だ?石?」

「スライムだろ。ほら」

 そう言って哀れなきつねをクシャッと丸めた。

「なんて事言うのよ。野蛮ね」

 クラスの女子がそう言うと、やつらは肩をいからせて何かを言い募ろうとしたが、クラスで一番美人のりなちゃんが黙ったままじっと見つめると、恥ずかしさを感じたのか、口の中でごにょごにょと何かを言いながらそれを放り出して立ち去った。

「大丈夫?」

 りなちゃんは私に近付き、私は肩をすくめて短く答えた。

「ああ、慣れている。探偵は、タフでなければやっていけない」

 りなちゃんはきつねを掴み上げると、ていねいにしわを伸ばした。

「かわいそうに」

「そうやって美女に可愛がられて、そいつも喜んでるだろう」

 りなちゃんは軽く咎めるような目を私に向けると、小声で言った。

「依頼したい事があるの」

「話はこの後の昼食の後で聞こう。花壇のそばで」

「ええ。わかったわ」

 りなちゃんはするりと私から離れると、流し目を残して自分達の集団の方へ帰って行った。


 今日の昼食は、チキンライスとサラダとコロッケとスープ、それとプリンだった。

 チキンライスの中に混ざっていた緑色の異物を弾き、私は安心してスプーンをチキンライスに突き立てようとした。

「ああ。俊君、グリーンピース残してるぅ」

 隣の席で食べていた雄太が春香先生に密告しようとしたので、私は素早くグリーンピースという異物を雄太の皿に移し入れて、雄太のサラダから雄太の嫌いなトマトを抜き取ってやった。

 そして私達は、小さく共犯の笑みを浮かべる。

「春香せんせー。雄太君と俊君が、グリーンピースとトマト、交換してるー」

 向かい側でおせっかいな女が喚き、私達はグリーンピースとトマトを皿に戻された。

 男は我慢だ。

 私は青臭いかおりのするグリーンピースを、憂鬱な溜め息と共に口に放り込んだ。





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