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真犯人の影(1)尾行

 警察は学校周辺で聞き込みをした結果、コンビニでコピーをしていた被害者達を律子達が見つけて追及していた時の映像を見返し、その場にいたほかの客やコンビニ店員について、調べる事にした。

 その中の1人、居合わせた客を見た刑事は、ふと、記憶に引っかかるものを感じた。

「こいつ、見た事があるな。手配犯じゃないし、何だ……。

 あ、あいつか。女子高生のクラスにいた!」

 それにほかの刑事らが目を向けた。

「何だ?」

「昔、被害に遭った女子高生の在籍していたクラスに聞き込みに行ったんです。その時に見た男子生徒に似ているんですよ。

 名前は何だったかな。何か、女子とも仲が良さそうだったんですけどね、目付きが何とも、冷たいというか、憎んでるというか。独特の目付きで女子を見てたんですよ、陰では」

 初老の刑事がそう言うと、俄かに彼らは活気づいた。

「徹底的に調べろ!いいな!」

「はい!」


 セレは買い物を終えて、スーパーを出た。

 リクに指定された食品類と、特売の洗剤だ。重い。

 と、歩き出して気が付いた。

(誰かに尾行られてるな。素人臭いけど)

 そう思い、電話を出して家へかける。

「あ、リク。スーパーを出たところなんだけど。尾行られてる」

『わかった、すぐに調べるよ。セレはそのまま、先の公園に入って。車でモトを向かわせるから』

「わかった」

 セレは公園に入ると、ベンチに座って缶コーヒーを飲み始めた。

 視線は、相変わらず自分に向いている。

 マンションからここまで、車で5分ほどだ。ゆっくりとコーヒーを飲んでいると、先の交差点にモトの車が見えた。

 セレはゆっくりと立ち上がって空き缶をゴミ箱に捨てると、公園を横切って歩き出し、モトの車に素早く乗り込んだ。

 直後、信号が青に変わって、車は動き出した。

「何者だ?」

「素人みたいだったけど」

 モトとセレが言っていると、リクから電話が入った。

『わかったぜ。そのまま戻って来ていいから』

 モトは一瞬眉を寄せてから、

「わかった」

と言い、アクセルを踏んだ。

 部屋へ戻ると、買い物を片付けてからリクの所へ行く。

「お帰り。

 ストーカーの正体はこいつ。堀迫邦夫。アメリカの大学を卒業して、この春聖真大学の大学院に入ったやつだ」

 それにセレは首を傾けた。

「知らないな。まさか、昔の事件で俺の写真を見たやつとか?」

 それにモトが考えながら言う。

「いや、どうかな。あの頃はもっと顔立ちも子供っぽかったしな。今見て気付くかな」

 リクはパソコン画面に映った色々な角度の堀迫の写真を見ながら、

「もうちょっと調べてみるよ。マジで、ストーカーだったりして」

 セレは苦笑して、

「まだその方がマシ」

と肩を竦めた。

「じゃあ、切り替えよう。仕事の話だ」

 モトがそう言って、3人は表情を改めた。


 堀迫は、遠ざかって行く車をなす術もなく見送った。

「ああ。残念だったなあ。どこにどんな風に住んでるのか、見たかったのに。

 学校も休みだし、今日みたいに偶然見かける以外、手掛かりも無いのになあ」

 そして肩を竦めると、仕方なく歩き出した。

 足取りは意外と軽い。

 家は突き止められなかったが、同じスーパーを利用している事はわかった。

(どんな風に育って来たんだろうな。犯人の子にされて。理不尽な目に遇わされて。

 わかってやれるのはぼくだけだ。ぼくだけが、彼の理解者だ)

 そう思うと、どこか、ウキウキと心が弾んで来る。

(女はダメだな。あの子の母親も子供を捨てて男と逃げたクズだ。女子高生なんて、最後はあんな最低のクズ女になるだけだ)

 通りすがりの、派手なメイクと服装の女子高生が、見るからに野暮ったい男子高校生に暴言を吐いてからかっているのを見て眉をひそめ、足早に自宅へ戻った。

 秘密の部屋へ入ると、拘束していた女子高生に

「ただいま」

と言う。

 彼女は、コンビニの前で出会った女子高生だ。お婆さんにぶつかって、謝るどころか舌打ちしたのを見ていた。

「ああ。全く度し難い」

 そして、脳裏にセレを思い浮かべる。

「きっとあの子とは分かり合える。ぼくだけがあの子を助けてあげられる。

 そう思わないかい?」

 そして心からの笑みを浮かべたが、女子高生は、泣いて怯えるだけだった。





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