第3話 伊勢神宮参拝!
翌日、目が覚めて雨戸を開けてみると空は気持ちよく晴れていた。
こんな日は観光するにはもってこいだ。
昨晩近所のスーパーで買った食パンとベーコンエッグを食べたあと、ボディバッグにスマホと財布だけ入れて出かけることにした。
ちなみに、調理器具や油も共用台所のものを自由に使って良いらしい。今は他の利用者もいないので、もうすっかり自分の家みたいな気分でいた。
玄関のカギを閉めてズボンのポケットに入れると、バス停へと向かう。
母屋の横を通り過ぎるときにちらっと見たら、税理士事務所の窓越しにパソコンに向かっている川中さんと目が合った。日曜日でも仕事してるんだ。繁盛してるのかな。なんて思いながら軽く会釈するとあちらも会釈を返してくれた。
道なりに五分ほど歩くと小さなバス停に出る。ちょうどバスが来たところだったので、急いで乗り込んだ。
でもいつもの癖で前のドアから乗ろうとしたら、運転手さんに後ろから乗ってくださいって言われてしまった。そっか。ここのバスは料金後払いなんだった。
バスに揺られてしばらくすると、終点の伊勢市駅前に着いた。
そこから石造りの鳥居をくぐって、チリンチリンと涼しげな音があちこちから響いてくる外宮参道を歩いていく。参道には料理屋さんやお土産屋さん、美味しそうなスイーツのカフェが軒を連ねてて、つい足を止めたくなってしまった。けど、さっき朝ごはん食べたばっかりだったから帰りに寄ることにしよう。後ろ髪惹かれながらも歩いていくと、開けた場所に出た。
車の行きかう御幸道路を渡った先には、こんもりとした緑の森が広がっているのが見える。
ここが、伊勢神宮の外宮と呼ばれる場所だ。
伊勢神宮は、外宮と内宮の二つに分かれている。それぞれ祀られている神様が違っていて、外宮には豊受大御神が、内宮には天照大御神が祀られているんだ。
豊受大御神は天照大御神のお食事を司る神様で、衣食住や産業の守り神としても崇敬されているらしい。
だから、伊勢神宮にお参りするときは、まず外宮からお参りして、次に内宮にお参りするのがシキタリになっているんだって。
僕もそのシキタリに従ってみることにした。それに、外宮は伊勢市駅から徒歩圏内だけど、内宮はそこから5キロほど離れた場所にあるから外宮からお参りする方が便利でもあるんだよね。
火除橋と呼ばれる木製の橋を超えて、手水舎で手を清めると、玉砂利の敷かれた参道を歩いていく。
歩いていくほどに、参道の両側には木々が高く多い茂っていてこころなしかひんやりと涼しくなってきた。
スマホに入れているガイドブックを頼りに歩いていくと右手にお守りを売る神楽殿が見えてきた。そこからすぐ近くのところに、四方をしめ縄で囲われた一抱えほどの大きさの石が見える。
「これが、三ツ石かぁ」
なんでも、この三ツ石とやらが伊勢神宮でも有数のパワースポットなんだそうだ。ガイドブックに『手をかざしてみるとパワーを感じられる』とあったので、僕もやってみた。
うわっ、ほんとだ。
手のひらに、じんわりと熱を感じた。ほのかに暖かい。
石自体には熱を発するような要素はなにも見当たらないのに、さすが最強のパワースポット。
その不思議さが面白くて、ついいつまでもしめ縄の前にかがんで手をかざしていた。そこを離れたあとも、しばらくじんわりと手のひらが熱を持っているような気がした。
そのまま少し歩くと、もう豊受大御神が祀られている正宮だ。
他の参拝の人たちと同じように、お賽銭を入れたあと、二礼二拍手で手を合わせた。何を祈ろう。特段なにも決め手はいなかったから少し迷ったけれど、とりあえずこの旅の無事と何か面白いことに出会えますようにと、そんな願いをして顔をあげた。
賽銭箱のある場所から奥へは参拝者は入れないけれど、その向こうに大きな茅葺の御正殿の一部が顔をのぞかせている。
あそこに、神様が住んでんのかぁ。
そう思うと、自然と背筋が伸びるような心地だった。
僕はそんなに信心深い方じゃないし、お盆のお墓参りにお寺に行って初詣に神社に行くくらいだけど、ここではちゃんとしてなきゃなと思えてくる。
そんな静謐な空気があたりに満ちていた。
そのあと、同じ境内に祀られている多賀宮、土宮、風宮をお参りしたら外宮でのお参りはお仕舞い。
思いがけず三ツ石で時間を費やしてしまったから、予定より遅くなっちゃった。もう昼過ぎだ。内宮行きのバス停にあるベンチに座ると、スマホでガイドブックを繰る。そろそろお腹もすいてきたな。
内宮を参拝したら、そこの近くにあるというおはらい町で昼ご飯でも食べよう。どの店に行こうかな、そんなことを考えながらバスを待っていた。
でも、そのときはまだ想像すらしてなかったんだ。
僕の平凡な旅生活は、初めて一日半で終わりを告げることになるだなんてさ。