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旅的あやかしシェアハウス ~観光地でリモートワークしてたら、神の使いがついてきた~  作者: 飛野猶
第2章 伊勢の夜に聞こえる「火を貸してくれませんか」
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第11話 緊急入院!?

 川中さんは数分後にやってきた救急車で、近くの救急病院へと運ばれていった。

 川中さんは一人暮らしだったので、僕が付き添いとして同行することになる。そして彼はそのまま入院することになり、僕は夜更けにタクシーでシェアハウスへと帰ってきた。


 こういうとき、家族でもない、ただ大家と賃借人の関係にすぎない僕は何もすることができない。彼の身内に連絡しようにも連絡先すら知らないんだ。


 だから救急車を呼ぶ以上にできることなんて何もなかったのかもしれないけど。それでも、いまこの家にいるのは僕だけなのだから、もし彼の身内や仕事相手とかが彼に連絡つかないことを不審に思って家や事務所にやってきたら事情を話すことくらいはできる。だから、しばらくはあまり出かけずにシェアハウスで待機してようと思ったんだ。


 幸い、元から部屋で仕事するを日々だったので、自宅待機はお手の物だ。

 でも、ノートパソコンに向かっていても何だかあまり集中できなかった。


 いまも仕事をしながらも気が付くと、あれこれとりとめもない考えが浮かんでは消えていく。

 川中さんのこと、それに自分のこと。


 自宅を引き払ってシェアハウスを渡り歩くことにした今の僕には、決まった住処(すみか)がない。持ち物もカバン二つ分だけだ。


 もし自分がいま急病で倒れてしまったら、他の人が僕の身元を知れるものは財布の中に入っている免許証と保険証しかない。もし事故や急病で倒れたときに何かの拍子で財布の入ったカバンごとなくしてしまったら? 通り魔強盗とかにあったら? そして、そのまま死んでしまったら?


 僕を僕だと知る人もないままどこかの共同墓地にでも埋葬されて、家族や友人には僕が死んだことすら伝えるすべもなく、僕は行方不明になってしまうんだろうな。

 そう考えると、とても怖かった。

 やっぱり、せめて両親にはいまどこに泊まっているかは逐一ちゃんと知らせておこう。






 それともう一つ、どうしても考えてしまうのは肉吸いのことだった。


「なぁ。アカガネ」


 ノートパソコンに視線を向けたまま、僕の椅子のそばで寝ていた赤狼に声をかけると、彼はのっそりと首をもたげて眠そうな目つきで僕を見る。


「なんだ?」


「川中さんの急病さ。……もしかして、肉吸いが何かしたって可能性はあるのかな」


 肉吸いは、本来人を騙してその肉を吸うあやかしだ。吸われるとどうなってしまうのか知らないけれど、あの日の夕方、僕は敷地の外で肉吸いを見た。川中さんが倒れているのを見つけたのは、その数時間後だ。


 肉吸いが彼に何かしたから彼が倒れてしまったとも考えられなくはなかった。

 しかし、アカガネは小首をかしげる。


「さぁ、どうだろうな。人の家というのは、俺らあやかしにとってはある意味結界みたいなものだ。そこの家に住む者の許可なく入っていくのは難しい」


「そうなの? でも、アカガネは普通に入ってきたじゃない?」


「それは、この家に住むお前がここに入るのを許したから入れたのだ。まぁ、無理やり入れないこともないが、あまりやりたいものじゃないな」


 よくわからないが、そういうものらしい。


「それに、俺はずっとここにいたが、肉吸いがここの敷地に入ってきた気配は感じなかった」


 そうポツリとアカガネは付け加えると、再び頭を床につけて伏せてしまった。

 あとは静かな室内に、ぽとぽとと雨だれの音が聞こえるだけ。

 ここのところ雨が多い。まぁ、梅雨だからしかたないんだけど。


「じゃあ、川中さんが倒れたのとは無関係なのかな……」


 そう思うと、胸の中に重く沈んでいた鉛のような気持が少し軽くなった気がした。

 いや、川中さんの病状はまだ予断を許さないようだし、心配ではあるけど。でも、あれだけ彼を慕っていた肉吸いが彼の身体に何かしたわけじゃないとわかって少しほっとしたんだ。

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