吸血鬼一名様ご来店
お題:十字架、吸血鬼、にんにく
にんにくの香り漂う中華街。
ああ、これだよこれ。この匂いが胃袋を高揚させる。
高揚を鎮めてくれる女神、それは白い衣を纏い、羽根を舞わせ、汗の滴るふくよかな肉体で私を惑わせるーーよし、今日は餃子だな。
私はハーメルンの笛に引き寄せられるように店へと足を運ぶ。午後からの仕事もあるが、弱い私には抗いようがないのだ。
神よ、私を許したまえ。と今だけ敬虔なクリスチャンとして十字を切り、いざ戦場へ。
だが、そこで思わぬ遭遇。催眠にかけられていた頭が一瞬で晴れ渡る衝撃。
それはピンと張った襟立てマントに、冷気を感じるほどに青白い肌、そしてトドメにその用途、厚い肉を突き破り穴を穿つ様を思わせる鋭き牙。
ーーえっ、吸血鬼?
単なる吸血鬼ならば問題はない。いや問題あるけども、それ以上にシチュエーションだ。
まるで爆炎立ち昇る戦場で愛でろと言わんばかりに見つめるポメラニアン、
クリスマスに家族と七面鳥を囲むド○ルドダック、
豆腐の角に頭ぶつけて死ねと怒鳴るスライム、
そんな相反する物が同時に存在することによるシュールさ。
吸血鬼が餃子食ってる。
もはやその一文だけで全てが伝わろう。
「お客さん、1名様で?」
これがシュルレアリズムだ。シュールストレミングも臭い物だし、まさにシュールと言わんばかりに平然と餃子を口に運ぶ。
「お客さん? お客さーん?」
威風堂々。その言葉が脳裏に浮かぶほどに堂々とした、見ている側も気持ちよくなるようなガッツキっぷりである。
ふっ、負けたよ……完敗だ。
私は敗北を認め、店を後にした。
「お客さーん!?」




