どんな願いも
スケイルが泊っていた部屋(ちなみに部屋の鍵はグリゼルダが魔法を使い開けた。聞けば工作部隊というのはスパイ活動も担っていたそうだ)でミラルダはタニアと目線の高さを合わせ口を開いた。
「いいかいタニア、あんたには何でも屋のファングとスケイルの所属している組合に行って欲しいんだ」
「クルルルルルッ!?(何でッ!? このままお家に帰っちゃ駄目なのッ!?)」
ミラルダの言葉にタニアは眉根を寄せ叫ぶ。
「タニア、あんたが組合の手に渡ってファング達の仕事が完了する事が、キューを治せる医者を紹介してくれる条件だったんだよ」
「クルルル……(お兄ちゃんの……)」
キューの為と言われタニアは切なそうに鳴く
「……タニア、レベッカの話に出ていた竜人に至る道の事は覚えているな?」
「クルルル……?(うん、子竜に酷い事してたんだよね……?)」
「そうだ、それと似た集団がファング達の依頼元らしい……このまま帰れば、タニアと同じ目にあう竜が出るかもしれん、ミシマやミラルダはお前も含めたラーグの子竜が危険に晒されるのを防ぎたいそうだ……私達が必ず助けると約束する、やってもらえないか?」
グリゼルダの説明を聞いたタニアは目を伏せ少し考えている様だった。
「クルル……クルルルッ!!(他の皆を……分かった、私、やるッ!!)」
ギュッと両手を握り頷いたタニアを見て、ミラルダは困った様に笑う。
「済まないねぇ、色々丸く収めるにゃあこうするのが一番みたいだからさ」
「我々は異国人だし、ベルドルグには何の伝手も無いからな」
「クルルル?(そういえばどうやってこの国に入ったの?)」
「ん? 普通に入国したぞ。キューの治療の為と言ったらあっさり通してくれた」
健太郎達はファングの提案で名目上、キューの翼の治療という事でベルドルグに入国していた。
入国の際、キューにラーグの竜である事を示す首輪を付けられた以外は特に何も無く、逆に翼の折れたキューの事を国境を守備する兵士達は気の毒がってくれた。
首輪には魔法が掛けられており、簡単に取り外せない他、専用の水晶を使えば所属が分かり居場所等も知れるそうだ。
健太郎等は希少生物の追跡に使うGPSみたいだなと感心していた。
首輪はあくまで臨時用で、尻尾の付け根にピアスの様な器具を取り付けるのがベルドルグでは一般的なようだ。
ファング達が密入国するルートを使ったのも、この追跡機能が邪魔だったかららしい。
一通り入国した経緯をタニアに説明した後、グリゼルダは苦笑を浮かべた。
「まぁ、そんな首輪が無くともミシマはお前の居場所を突き止めた様だがな」
「クルルル……クルルルル?(硬い人が……ねぇ、グリお姉ちゃん、ミミが言ってたみたいに硬い人は本当に何でも出来るの?)」
タニアはミミから健太郎が未来から来たゴーレムで、家族の願いを叶えてくれるのだと説明していた。
実際、ミラルダがずっと願っていた冒険者パーティの結成や、ミミの願いだった一人でお留守番するのは嫌だという事も解消してくれた。
他にもトーマスの目標である冒険者になる事も、ギャガンという師匠の下で進んでいる。
ミミにとって健太郎は不思議道具は出せないが、あの漫画と同じく願いを叶えてくれる存在となっていたのだ。
「何でもか……どうだろうな」
「タニアは何て言ってるんだい?」
「ミシマは何でも出来るのか? と」
「そうだねぇ……バイク、車、バリスタ、巨人、あと、この前のロケット……フフッ、あれだけ色々変われるんだ、おとぎ話に出て来る空飛ぶ船なんかにもなれるかもねぇ……」
空飛ぶ船と聞いてタニアは瞳を輝かせる。
青竜は赤竜と違い水辺を生活場所としている。その為、現在の彼女の翼は空を飛ぶ為では無く水中を泳ぐ事に特化していた。
そんな訳で飛べないタニアは、多少なりとも飛べるキューにその点でも憧れを抱いていたのだ。
「クルルルルルッ?(お願いしたら、硬い人、空飛ぶ船になってくれるかな?)」
「空飛ぶ船か……なれるかどうかは分からんが、ミシマの事だ、頼めば試してはくれるだろう……タニア、頼むのはいいが室内では頼むなよ」
「そうだよタニア、ミシマの変形は途中じゃ止められないらしいから、家が壊れちまう」
「クルルル(えへへ、分かったよ)」
話が健太郎の事で大分脱線し始めた頃、ガヤガヤと話し声が聞こえ部屋に湯上りの健太郎達が戻って来た。
「あれ、鍵が……お前らどうやって入ったんだよ?」
「私の魔法でこじ開けた。それより貴様、タニアが用を足す音を聞いていたそうじゃないか?」
「クルルルッ!?(グリお姉ちゃんッ!?)」
「それが何だよ? 別にいいだろ、見張る意味もあったし、なによりそいつはモンスターなんだしよ」
「モンスターの前に女の子だよッ! あんた、女の子のトイレの音を聞くなんて変質者かいッ!?」
「変質者って……」
「コホー」
最低だな、スケイル。
健太郎はスケイルの肩に手を置き、静かに首を振った。
「スケイル、長い付き合いだがお前にそんな趣味があったとは……」
「竜人族の男は誇り高い戦士だって聞いてたがな……」
「違うッ!! こいつはあくまで仕事の一環で……」
蔑む様な目で見つめる健太郎達にスケイルは必死で無実を訴える。
「仕事だろうが何だろうがタニアが傷ついた事は確かなんだ! その点は謝ってもらうよッ!」
「クッ……何で俺が……」
「おい、その女には逆らわねぇ方がいいぞ。頭下げるより酷い目に遭わされるかもだぜ」
理不尽な物を感じ謝罪に躊躇していたスケイルの耳にギャガンがそっと囁く。
「…………わ、悪かった、許してくれ」
しばし躊躇っていたスケイルだったが、ギャガンの言った酷い目という言葉で不安が膨らみ、結局はタニアに頭を下げた。
「クッ、クルルルッ!!(もっ、もういいよッ!! 掘り返される方が恥ずかしいからッ!!)」
ミラルダはとっちめると言っていたが、みんなの前で大々的に音を聞かれた事を公表され、タニアは余計に恥ずかしい思いをする事になったのだった。
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