提案
ブレスも効かず剣も絡め取られたファングはこれ以上は無意味だと悟ったのか、抵抗を止め押し黙った。
そんな彼をロープで拘束し健太郎、ギャガン、グリゼルダの三人はファングと交渉する事にした。
「ところでミシマ、凍結のブレスの様だったが何ともないのか?」
「コホーッ」
少し涼しかっただけだよ。
グリゼルダの問いに親指を立て頷くと、同様にブレスを浴びたギャガンが顔を歪めた。
「斬撃も竜人族のブレスも効かねぇのかよ、お前、どうやったら壊れるんだ?」
「コホー……」
はぁ……そんな事知らないし、知っててもギャガンには教えないよ……。
肩を竦め首を振った健太郎を見てギャガンは「そうかよ」と鼻を鳴らし、ファングに向き直った。
「さてと、相棒に連絡を取ってタニアを返して貰おうか?」
「……」
「だんまりかよ」
「喋らないのであれば血流魔法でも使うか?」
「コホーッ?」
グリゼルダもあれ、使える様になったの?
首を傾げた健太郎を見て、グリゼルダはニヤッと口の端を持ち上げる。
「フフッ、レベッカの蔵書からヒントを得た。血液に含まれる鉄分に作用する磁力を用いた、要は電撃魔法の応用だな」
「……テメェもアレを……」
ミラルダに血流魔法を掛けられ散々足を突かれたギャガンは、グリゼルダが血流魔法を覚えたと知り顔を引くつかせた。
「ああ、お前の物言いが気に入らん時は使うとしようか?」
「クッ……」
怯えた様に後退りしたギャガンを見て、ファングは何をするつもりかと眉根を寄せ視線を小刻みに彷徨わせた。
健太郎達がそんなやり取りをしていると、キューを抱えたミラルダが焦った様子で文字通り飛び込んで来た。
「コホーッ!?」
ミラルダッ!? 何があったのッ!?
「ミラルダ、キューッ!?」
「片割れは!?」
「逃げられたッ! それよりグリゼルダ、キューを診てやっておくれッ!! 風のブレスを食らって森に落ちたんだッ!!」
ミラルダはそう言って抱えていた気を失ったキューを地面に横たえる。
森に落ちたというキューは翼を支える骨がグシャと折れ曲り、ピンッと張っていた皮膜がたわんでいた。
「こいつは……グリゼルダ、治せるのか?」
うつ伏せに寝かされたキューの羽根を見ていたグリゼルダは、ギャガンの問いに小さく唸り声を上げた。
「傷は治せるが、骨を整形しないと……このまま治癒魔法を掛ければおかしな具合に引っ付く事になる」
「おかしな具合って、具体的にはどうなるのさッ!?」
「……恐らく二度と飛べなくなる」
「そんな……」
「コホー……」
駄目だよそんなの……。
「飛べないって、こいつは赤竜だぜ。飛べない赤竜なんざぁ、モンスターの王たぁ呼べねぇぜ」
「分かっている。私も何とかしてやりたいが、複雑骨折を治す知識や技術は持ち合わせていないんだ……」
「おい」
暗い雰囲気に包まれた健太郎達に縛られたファングが声を掛ける。
「なんだよッ!? 見ての通りいま取り込み中だッ!!」
「……その赤竜を治せる医者を紹介してやろうか?」
「本当かいッ!?」
「ああ、ベルドルグは竜を保護しているからな、竜専門の医者も当然いる……その代わり俺を見逃せ」
「それは……」
ファングの提案にミラルダは即座に返答出来なかった。
キューは治したいが、タニアだって取り返したい。ファングを見逃す、それはタニアを諦めろという事だろう。
「あの青竜の幼体の事を考えているのか?」
「そうだよッ! あの子は伯爵様から預かった子で、大事な家族なんだッ!」
「家族か……一つ、提案がある」
「提案だと? 黙って聞いてりゃ……テメェを寸刻みにして医者の居場所を吐かせてもいいんだぞッ!」
凄んだギャガンをミラルダが右手を上げ制した。
「拷問なんて見たくないし、あんたにもして欲しくないよ」
そう静かに言ったミラルダの目は真っすぐにギャガンを見据えていた。
「…………チッ」
暫く無言で視線を交わしていた二人だったが、やがてギャガンの方が舌打ちして目を逸らした。
そんなギャガンに小さく笑みを向けた後、ミラルダはファングに向き直る。
「提案とやらを聞こうじゃないか?」
「……俺と相棒のスケイルは竜人族の国、ベルドルグの何でも屋だ。ラーグで言う所の冒険者みたいな物だな」
「どの国にも厄介事を片付ける仕事はあるという訳だな」
合いの手を入れたグリゼルダにチラリと目をやり「ああ」と頷きを返す。
「今回、青竜の子を攫ったのもその何でも屋の仕事でだ」
「そんな事より提案ってのは何だよッ!?」
「気の短い奴だ……」
「ああ!?」
「コホーッ」
ギャガン、取り敢えず話を聞こう。続けてくれ。
健太郎が苛立ったギャガンを宥め、ファングに話を促す。
「……まるで人間みたいなゴーレムだな……ふぅ……続けるぞ……仕事の失敗にはペナルティが課せられる。そこで提案だが、俺達の仕事を完遂させて欲しい」
「完遂って、それじゃあタニアはどうなるんだいッ!?」
「組合に渡して、その後は竜を信仰する教団に納品されるだろうな」
「話にならんな。さっきミラルダも言ったがタニアは伯爵の竜だ。失えば我々もあの街では暮らせなくなる」
「失えば、だろう? 俺達はペナルティさえ回避出来ればそれでいい。組合に渡した後は子竜がどうなろうが知った事ではない」
つまりファングの提案とは自分達の仕事を完了させて、その後、健太郎達が教団からタニアを取り返すのは好きにしろという事のようだ。
「随分、テメェらに都合のいい話じゃねぇか?」
「無論ただでは無い。竜を診れる医者の紹介、それに教団の情報、子竜の受け渡しについても探って教える」
「コホー……」
キューを治療してタニアを助けるには、この竜人の提案を受け入れた方がいいと思うけど……。
健太郎はそう言いながらミラルダに視線を送る。
「そうだね……提案を受けようか……皆もそれでいいかい?」
「……キューがこのままだとトレーニングもやりづらいしな、俺はいいぜ」
「治せるなら治した方がいいだろうな。砂竜を見ていたが飛べない個体は迫害を受けていた……」
「決まりだね……あたしはミラルダ、このゴーレムはミシマ、それに獣人のギャガンと魔人のグリゼルダだ。であんたは?」
「俺はファング、蒼氷のファングと呼ばれている」
「コホー……」
二つ名だと……なにそれ、超カッコイイんですけど…………俺も何かいい感じの奴を付けるか……。
「ミシマ、二つ名ってのは自分から名乗るもんじゃないと思うよ」
「コッ、コホーッ!?」
えっ、そうなのッ!? じゃッ、じゃあ、ミラルダが付けてよッ!!
「えー、急に言われてもねぇ……」
「さっきから気になっていたが、ミラルダという女は何故、あのゴーレムと会話出来る?」
「アレはああいうもんだって諦めろ。俺達にもよく分かんねんだからよ」
「……監視していた時から感じていたが、おかしな連中だ」
呆れた様子のファングの言葉にギャガンとグリゼルダは肩を竦め苦笑を浮かべた。
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