何でも屋対冒険者
ファングが吐いた吹雪のブレスはギャガンの顔を直撃、彼の艶やかな黒い毛皮を瞬く間に白く染めていく。
「グッ……」
堪らず顔に手をやりギャガンが間合いを取ると、ファングは翼を広げ空に逃れた。
「ギャガンッ!?」
「ググッ、ミラルダかッ!? タニアは片割れが連れて逃げた!! もう一人は多分上だ!!」
「キュエーッ!!(タニアッ!!)」
「あっキューッ!? 一人で行っちゃ駄目だよッ!! クッ、グリゼルダ、ギャガンに治癒をッ!! あたしはキューと片割れを追うッ!!」
「分かったッ!」
ギャガンに駆け寄るグリゼルダを横目に、ミラルダは小さな翼を懸命に羽ばたかせスケイルを追ったキューの後に飛翔を使い続く。
そんなミラルダに健太郎が視線を向けると、二人の前に立ちふさがる様に青い髪の竜人が翼をはためかせミラルダ達に銀眼を向けていた。
「新手か……面倒な……」
ファングは標的をキューとミラルダに定め、剣を振りかぶる。
「コホーッ!!」
させないッ!! 噴射拳ッ!!
呼吸音が夜の森に響き、射出された拳がファングを襲う、その射出音に反応しファングは健太郎が放った右拳を寸での所で躱した。
「チッ、邪魔なゴーレムだ」
だが健太郎が大きく右腕を振ると、拳から伸びたワイヤーが鞭の様にしなりファングの足に絡み付く。
「ありがとミシマッ!!」
「キュエーッ!!(ありがとうなのッ!!)」
「コホーッ!!」
こいつは俺が押さえる、二人はタニアをッ!!
「了解だよッ、キュー行くよッ」
「キュエーッ!!(急ぐのッ!!)」
ワイヤーに絡まったファングの横を抜け、ミラルダとキューはスケイルの追跡を始めた。
「クソッ!!」
ファングはワイヤーを切ろうと手にした剣をワイヤーに叩き付ける。しかしギーンッという硬質な音が響いただけでワイヤーはビクともせず、逆に叩き付けたファングの剣が刃こぼれを起こしていた。
「馬鹿なッ、こいつは岩竜の骨から削り出した剣だぞッ!?」
ファングの驚きを他所に健太郎はワイヤーを巻き取った。
「グッ……」
ファングは足に絡み付いたワイヤーを解こうと自らの左足に目をやると、ワイヤー自体はただ巻き付いているだけだったが、その先端の手がガッチリとファングの足を掴んでいた。
翼を羽ばたかせながら、巻き取る力に抗いファングは健太郎の手を開こうと手を伸ばす。
「クッ、ビクともしない」
だがその手は剣を鞘に納め両手で渾身の力を込めても小動もしなかった。
そうこうしている間に、ワイヤーはじりじりと彼の体を大地へ引き寄せる。
やがてファングは釣り上げられた魚の様に健太郎の前に引きずり降ろされた。
「コホーッ」
仲間を呼び戻せ。
「近寄るなッ!!」
にじり寄った健太郎にファングは大きく口を開き吹雪のブレスを浴びせかけた。
青黒い装甲の表面を霜が覆い、健太郎の全身が白く変わっていく。
だが健太郎の足は止まる事無くファングに向かい歩を進める。
「近寄るなと言っているッ!!」
ファングはこれまでの経験からメタルゴーレムに対する対処も心得ていた。
急激な温度変化がもたらす金属疲労により、メタルゴーレムの金属装甲は粘りを失い脆くなる。
そこに打撃を加えればどれ程硬くても衝撃に耐えきれず砕ける。
これまでのゴーレムは全てそれで倒す事が出来た。
今回も同じだッ、そう考えファングは横凪ぎの斬撃を健太郎に振るった。
「ミシマッ!?」
「おいッ、何が起きてるッ!?」
傷を癒していたグリゼルダが思わず声を上げたのと、目を吹雪で痛めたギャガンの声が重なる。
「何ッ!?」
しかし振るわれた剣は健太郎を捉える事が出来なかった。
ファングが振った横ぶりの刃を健太郎が左手一本でいなし絡め取ったからだ。
「ゴーレムが武術だとッ!?」
「コホー?」
さぁ、仲間を呼んでタニアを返してもらおうか?
健太郎はファングから奪った剣を投げ捨てると、絶句しているファングの前にしゃがみ呼吸音を響かせた。
■◇■◇■◇■
タニアを抱え逃走した竜人族の何でも屋の一人、スケイルを追ったミラルダとキューは彼の背中を捕らえていた。
ミラルダはコントロール出来るギリギリまで飛翔に魔力を込めていた、更にキューには俊敏度の上がる加速を掛けていたのだ。
ぐんぐん迫るスケイルの背中にミラルダは声を投げかける。
「諦めなッ!! あんたの相棒はうちのミシマが押さえたッ!!」
「キュエーッ(タニア、助けに来たのッ!!)」
「ファングをッ!?」
「クルルッ!!(お姉ちゃんッ!! お兄ちゃんッ!!)」
「ちょッ、暴れるなッ」
ミラルダとキューの声を聞き藻掻き始めたタニアを押さえ付けながら、スケイルは考える。
もし子竜を魔法使いに返しても自分とファングは解放されるだろうか?
いや、この子竜は街の領主、伯爵が飼っていた物だ。
無罪放免という訳にはいかないだろう。更にもし許されたとしても、依頼をしくじった自分達は組合からペナルティを受ける事になる。
「すまねぇなファングッ!!」
スケイルはファングに対する詫びの言葉を口にして、反転すると口を大きく広げた。
同時に開かれた口から暴風が吹き出し、ミラルダとキューに襲い掛かる。
「風のブレスッ!?」
「キュエーッ!?(上手く飛べないのッ!?)」
「クルルルルッ!!(お兄ちゃんッ!! お姉ちゃんッ!? 止めて、酷い事しないでッ!!)」
暴れるタニアに顔を顰めながらスケイルはブレスの勢いを強める。
「キュッ、キュエーッ!!(おっ、落ちるのッ!!)」
「クッ、キューッ!!」
その風に巻かれコントロールを失ったキューは失速、落下を始める。そのキューを追ってミラルダも眼下の森へ姿を消した。
「ふぅ……」
「クルルルルッ!!(放してッ!! お兄ちゃんがッ!!)」
「こらッ、暴れるなよッ! ……ファング…………あばよッ!」
振り切る様に言うとスケイルは身を翻し北西の空へ翼を向けた。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




