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竜人族の何でも屋

 フィッシュバーン伯爵領の領都クルベスト。そのクルベストから三百キロ程北西に向かった丘陵地帯の森の中、二人の男が焚火を囲み談笑していた。


「おかしなゴーレムに追いかけられた時は焦ったが、上手く行って良かったぜ」


挿絵(By みてみん)


 片方の金眼で緑色の髪の男がロープで縛られた小さな青い鱗の竜を見下ろしニヤリと笑う。

 男の頭には緑色の二本の緩く曲がった角が、額から頭に沿う様に伸びていた。


「上手くか……本来なら痕跡を残さず攫うつもりだったが、ああも固められてはな」


挿絵(By みてみん)


 焚火を挟んだ向こう側でもう一人の銀眼で青い髪の男が顔を顰める。

 こちらの男の頭部にも角が二本、青色の角が額から伸びていた。


「お前は完璧主義過ぎるぜ。大体、伯爵があいつ等に預けなきゃ城に潜入するつもりだったんだし、この結果は上々じゃねぇか?」

「ふぅ……お前はいつも楽観主義だな……子竜は餌は食ったか?」

「干し肉はお気に召さないらしい、水も飲まねえし……こりゃあサッサと引き渡した方が良さそうだせ」

「…………」


 青髪の男は腰上げると緑髪の男の傍らで縛られていた青い鱗の子竜に歩み寄り膝を突いた。


「お前には悪い事をしたと思っている。だがこっちも商売なんでな、死んでもらっちゃ困るんだ。せめて水は飲め」


 男はそう言って革袋に入った葡萄酒入りの水を子竜の口元に寄せる。


「クルルル……(お家に帰して……うぅ……お姉ちゃん……ミミ……)」


 しかし青い鱗の子竜、タニアは首を振って自分を攫った男達に懇願する様に鳴いた。


「……半獣人に人族の子供、獣人に魔人、後は赤竜の第二幼体、それにゴーレム……妙な家だったが……余程居心地が良かったと見える」

「まぁ、あいつ等、こいつを家族みたいに扱っていたからなぁ」


 そう言うと緑髪の男はタニアの頭を緑の鱗の生えた手で乱暴に撫でた。

 そんな男の手をタニアは首を振って振り払う。


「おっと、俺達は大分嫌われちまったなぁ」

「嫌われていようが関係無い、スケイル、口を開けさせろ。水と干し肉を無理矢理飲ませる」

「へいへい」

「クルルッ!!(やだぁ!!)」

「こら、暴れるな」


 スケイルと呼ばれた緑色の髪の男がタニアの口を強引に開くと、青髪の男は口の中に細く裂いた干し肉を放り込み革袋の水を注ぎこんだ。

 その後、スケイルが嫌がるタニアの口を押さえ鼻を覆うと、やがて彼女の喉がゴクリと動き口の中の物を嚥下した事が窺えた。


「クルルルッ!?(なんでこんな事するのッ!?)」


 憤り思わず声を上げたタニアに青髪の男は冷たく言う。


「文句を言っている様だが、何を言っているのか分からんし、分かったとしても聞くつもりはない」

「俺らはお前さんを依頼主の下に生きて連れて行くのが仕事なのさ。本当はこの国のダンジョンで扱いやすい第一幼体を探す筈だったんだが……」

「スケイル、説明は不要だ」

「そう言うなよファング、こいつも自分が攫われた理由ぐらい聞きたい筈だぜ」

「…………好きにしろ。お前が話している間、俺は寝る」


 ファングと呼ばれた青髪の男は立ち上がると、焚火の向こう側に移動し体を横たえた。


「ふぅ、相変わらずお堅い奴だ」

「クルルルルル……?(貴方達は何者なの……?)」


 スケイルを見上げタニアが鳴くと、彼は再度、タニアの頭を乱暴に撫でた。

 それをタニアは再び頭を振って振り払う。


「へへッ、気の強い奴だ…………俺らはベルドルグの何でも屋でよぉ……まぁ、この国で言う所の冒険者って奴だ」


 スケイルは先程話していた通り、タニアに彼女を攫った理由を語り始めた。


 何でも屋のファングとスケイル、二人はコンビを組んで所属する組合からの仕事を請け負う末端構成員だった。

 ただ、何でも屋と言ってもラーグの冒険者とは違い、ベルドルグのそれは非合法な事も請け負う地下組織だったようだ。

 今回、組合はベルドルグでは邪教認定されている竜を信仰する教団から依頼を受けた。

 教団の依頼は比較的穏やかな青竜、その第一幼体を生きたまま納品して欲しいという物だった。


「上の連中、金に目が眩んだみてぇでよ。結局依頼を受けて俺達におはちが回って来たって訳だ」

「クルルルル?(でも何でわざわざラーグに?)」


 タニアが首を傾げ鳴くと、スケイルは右の口角を上げて皮肉げに笑った。


「お前、チビのくせに大分頭が良さそうだな、人と暮らしていたからか?」

「クルルル……?(そうなのかな……?)」


 俯き鳴いたタニアを見てスケイルは苦笑を浮かべ話を続けた。


「青竜のガキってだけならベルドルグにもそこそこいる。だが穏やかで人と共存出来る青竜は保護の対象だ。守備隊が目を光らせてて手に入れるのは至難の業だ。だから態々ダンジョンに竜が住み着いてるラーグまで来たのさ……」


 しかし、ラーグに来たは良いが目星を付けたダンジョンに竜の姿は無かった。

 住民に聞き込みをした所、竜は王都の南へ向かったとの事、その情報を基に国中の竜が金竜王の迷宮と呼ばれるダンジョンに集まった所までは突き止めたのだが……意味不明な竜の動きにファングとスケイルが戸惑っている間に、竜は南東へ向かいやがてラーグ国内に散っていた。


「別種の竜があんな風に集団行動を取るなんてあり得ねぇ、妙な事が起きてる。様子見で街に滞在してる間にその街の領主が青竜の子供を飼ってるって耳にしてな、おかしな事が起きてるダンジョンの竜じゃなくて、お前さんを狙う事にしたって訳だ」

「クルルルルル……(硬い人やお姉ちゃんが話してた魔人の悪い人の……)」

「ん? お前、なんか知ってんのか?」


 タニアが考え込んだ様子を見せた事でスケイルは金の瞳を彼女に向ける。


「知っていたとしても、俺達に竜の言葉はわからん」

「寝るんじゃ無かったのか?」

「お前の話が要領を得ないから、気になって眠れなかったんだ……それより、さっきから静か過ぎると思わないか?」

「あん? そう言われれば……音がしねぇな……」


 ファングが眠れなかったのはスケイルの話し声がやけに耳に付いたからだ。

 それ以外の音が一切しなくなっていた事がその最たる原因だった。


「何か、厄介な獣かモンスターが近くにいる。スケイル、焚火を消せ、移動するぞ」

「面倒な話だぜ、だから宿に泊まろうって言ったのに……」


 ぼやきながらスケイルは焚火に土を掛け消すと、傍らに置いていた雑納を背負った。

 ファングも雑納を背負い、腰に剣を佩くとマントの下に隠されていた羽根を広げた。


「宿に泊まれば痕跡が残る」

「残った所でベルドルグまで追っては来ねぇよ……」


 苦笑を浮かべたスケイルがタニアを抱え翼を広げた時、森の中から黒い影が飛び出して来た。

 その影の放ったスケイルを狙った斬撃を、反射的に突き出したファングの籠手が止める。


「へぇ、俺の剣を止めるたぁ、お前ぇ中々やるじゃねぇか?」

「クルルルッ!?(黒猫さんッ!?)」

「クッ……あの家にいた獣人か……どうしてここが分かった?」

「てめぇらの居場所は筒抜けだぁ、なんせ星が見張ってるらしいからよぉ」


 左手の籠手がギリギリと音を立てて削れていく。

 ベルドルグの武器防具は基本、竜の素材を使って作られる。それを削るという事は獣人の手にした刃もまた竜の素材を使った物なのだろう。


「スケイル!! お前は幼体を連れて逃げろッ!! 休息せずにベルドルグまで飛べッ!!」

「お前はどうすんだよッ!?」

「いいから行けっ!!」


 叫びと同時にファングは腰から剣を引き抜き横凪ぎに黒豹の獣人の腹を切りつけた。

 獣人はそれを後ろに跳んで躱し、剣を振り切り体勢の崩れたファングに肉薄する。


「安心しな、殺しゃしねぇ」


 そう言いながら振り下ろされた刃をファングは手にした剣でギリギリで受け止めた。

 背後では微かな羽音が聞こえて来る。スケイルは空に逃れたようだ。


 殺しはしない、そう言った獣人の言葉に嘘は無いのだろう。でなければ音に聞く獣人の剣を自分が受け止められる訳が無い。

 剣術でこの獣人をどうにかする事は出来まい、しかし、このままやられるつもりもファングには無かった。


「竜人を舐めるなよッ!!」

「グォっ!?」


 ニヤリと牙を見せ笑う黒豹にファングは口を開き吹雪のブレスを浴びせかけた。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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紺碧のミシマ 設定資料集

各章の登場人物や地図、設定等を纏めました。

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