魔人からの依頼
ギャガンがバルバドに剣の手直しを依頼して一週間後、彼は腰に佩いた剣を見てニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
余程新しい剣が嬉しいのだろう。
ギャガンはバルバドから剣を受け取った直後、ナチュラルに健太郎を斬りつけた。
その事自体は健太郎としては頂けなかったが、ギャガンは健太郎に傷を付けれなかった事には不満な様子を見せるも、刃こぼれしなかった事で一応の満足は得た様だった。
ともかくこれで目論見通り、暫くは、竜の牙よりも強力な素材が手に入り剣を新調するまではだが、ギャガンが健太郎を斬ろうとする事は無い筈だ。
「まったく、竜の牙でも傷が付かねぇたぁなぁ。お前、一体何で出来てんだ? ……いっその事、お前を材料にすりゃあ最強の剣が……」
「コホーッ!!」
人を素材として見るんじゃ無いよッ!!
「ふぅ、ギャガン、ミシマは大切な仲間なんだからそういうのは止めておくれ」
「ちょっと思っただけだ」
「しかしギャガンのいう事にも一理あるな。ミシマ、お前、バリスタになれたんだから剣にもなれるんじゃないのか?」
「コホー!!」
なれるかもだけど、それやっちゃうと俺の存在感が無くなっちゃうでしょ!!
「フフッ、多分、剣になってもうるさいだろうから存在感は無くならないよ」
「コホーッ!!」
ミラルダまでなんてこと言うんだッ!!
「アハハ、ごめんごめん」
そんな事を話しながら健太郎、ミラルダ、ギャガン、グリゼルダの四人はギルドへの道を歩いていた。
健太郎とミラルダがロガエストへ行っている間に、金髪角刈りおじさんこと伯爵のアドルフ・フィッシュバーンは約束通り、半獣人や獣人を含めた異種族への不当な差別を禁止する触れを出していた。
その事で多少、表立った嫌がらせは減ったものの、帰還の際、ギャガンに石を投げた子供の例でも分かる様に獣人への忌避感は人々の中に根強く残っている様だった。
それを払拭する為には当初の予定通り、人助けを中心とした依頼を継続して受ける必要があると健太郎とミラルダは結論付けた。
そういう訳でギルドに着いた健太郎達は新たな依頼を受ける為、担当職員のクニエダに以前と同様、人助け系の依頼について尋ねる。
「今回もデニスさんの時の様な依頼という訳ですね?」
「ああ、何かあるかい?」
「そうですねぇ……救助という訳では無いのですが……遺体もしくは遺骨を回収したいという物がございます」
「遺体? 詳しく聞かせて貰えるかい?」
「はい。依頼者は魔人族のリビ・カーネル様。依頼はダンジョン、金竜王の迷宮で倒れたパーティーメンバーの回収です」
「リビ・カーネル?」
依頼者の名前を聞いてグリゼルダが「ん?」と首を傾げた。
「知ってるのかい、グリゼルダ?」
「似たような名前の奴が知り合いにいてな……」
「偽名か?」
「かもしれん……クニエダ、そいつはどんな奴だった?」
「どんな……グリゼルダさんと同じ褐色の肌で、青い髪の女性でしたよ」
「ふむ、特徴は一致するが……」
顎に手を当て考え込んだグリゼルダにミラルダは微笑みを向ける。
「とにかく、詳細を聞こうじゃないか」
「……そうだな」
グリゼルダが頷いたのを見てクニエダは説明を再開させた。
それによると金竜王の迷宮に挑んだ魔人族のパーティ、依頼者を含めた計六名は迷宮の主である金竜に戦いを挑み敗北。
その際、パーティのリーダーが身を呈して生き残った二人の命乞いをしたらしい。
竜はリーダーの提案を受け入れ、二人を見逃した。
その竜から見逃されたリビともう一人は、迷宮を脱出、そこから一番近い大都市であるフィッシュバーン伯爵領の領都クルベストへやって来たそうだ。
依頼というのはその竜に倒された三名と、身を捧げ自分達を助けたリーダーの躯を取り戻したいという物だった。
「また竜がらみかい。ミシマと出会ってから妙に竜と縁があるねぇ」
「コホー……」
俺はあんまり縁を持ちたくないんだけど……。
「クククッ、相手は金竜か、試し斬りに丁度いいぜ」
ギャガンは腰の剣に左手を置き、ニヤリと牙を見せる。
「ギャガン、依頼は竜の討伐じゃなくて遺体の回収だよ」
「分かってるよぉ、だが相手が襲い掛かってくるなら迎え撃つしかねぇだろ?」
「お前は新しい玩具を使いたいだけだろうが」
「あ? 新しい玩具ってのは俺の剣の事を言ってんのか?」
ギャガンの目がグリゼルダの一言でスッと細められる。
「それ以外にないだろう?」
「テメェ……試し斬りはお前でやってもいいんだぞ?」
「フンッ、貴様の斬撃は空を舞う相手にも届くのか?」
「お前ぇが空を飛ぶ前に真っ二つにしてやるよぉ」
いつものように言い合いを始めた二人を無視して、ミラルダはクニエダに問い掛ける。
「その生き残りの二人は同行してくれるのかい?」
「ええ、どちらかと言えば、この依頼の主体は依頼者と助かったもう一人の方で、冒険者の皆さんにはそのサポートをお願いしたいとの事でした」
「コホー」
なるほど、仲間の遺体を取り戻すのはあくまで自分達でやりたいと。
「はい、依頼者のリビさんは金竜を倒したいようでしたが、もう一方の男性の魔人さんは遺体の回収を優先したいみたいでしたね」
ミラルダが通訳した健太郎の言葉にクニエダはギルドでの依頼者の様子を語った。
「……どうするミシマ、この依頼受けるかい?」
「コホー……」
そうだなぁ……依頼者達が気持ちの区切りをつける為にも、死んだ人はちゃんと埋葬してあげた方がいいと思う。
「だね。あたしもそう思う。ちゃんと埋葬しないで師匠みたく幽霊になっても可哀想だしね」
「コホー……」
幽霊か……うう……依頼を受けるのはいいけど、幽霊を見るのは嫌だなぁ……。
「大丈夫だよ。幽霊ってのは、大体がそこにいるだけの無害なものだからね」
「コホー……」
そこにいるって事が怖いんだよ……。
「ふぅ、ミシマは怖がりだねぇ……さて、ギャガン、グリゼルダ、依頼は受けるって事でいいかい?」
「ふぉう、ふぃふぃぞ(おう、いいぞ)」
「ふぁたすふぉふぉんだいなふぃ(私も問題無い)」
互いの頬っぺたを引っ張りあっていたギャガンとグリゼルダは、その状態のままミラルダに了承の言葉を返した。
「……あんたらホントに仲がいいねぇ」
「「ふぁかふぁよくふぁいッ!!(仲は良くないっ!!)」」
同時に叫んだ二人を見て、健太郎とミラルダは顔を見合わせ肩を竦めると苦笑を浮かべた。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




