ドワーフといえば鍛冶屋
ギャガンに竜の牙で作った大剣を渡した翌日(結局、健太郎は大剣をギャガンから取り戻す事は出来なかった)、ミラルダの案内でギャガンと健太郎はドワーフが営む鍛冶屋へと向かっていた。
ちなみにグリゼルダはレベッカが残した蔵書を読みたいと家に残った。
子供達はいつも通り、教会で読み書きを習いに行ったようだ。
後、キューは声を掛けたのだが、尻尾で返事をしただけでベッドから動くつもりは無い様だった。
ギャガンがそんなキューを見て、ニヤッと笑っていたのが健太郎の心に残った。
恐らく鍛冶屋から戻ったら、またランニングに連れ出すつもりなのだろう……まぁ、あいつ太りすぎだしな。
健太郎がそんな事を考えていると、珍しく皮肉が混じらない嬉しそうなギャガンの声が響いた。
「人が主体のこの国にまさかドワーフがいるとはな」
「伯爵様がドワーフの国ロックローズに外遊した時、スカウトしたらしいよ」
「クククッ、ついてるぜ。ドワーフならコイツをきっと最高の状態にしてくれる筈だ」
「フフッ、良かったねぇ」
「コホーッ」
やっぱりドワーフって鍛冶屋として腕がいいんだ。
「ああ、ドワーフといえば鍛冶、鍛冶といえばドワーフっていうぐらいだからね。まぁ、魔法使いのあたしにゃ今迄余り縁はなかったけど」
「所で何でミシマまで付いて来るんだ?」
「コホー……」
いや、鍛冶屋なんてリアルで見た事ないし、どんな感じなのか気になって……。
「鍛冶屋が見たいか、そうだね、あたしも見るのは初めてだから、ちょっと楽しみだよ」
ミラルダはそう言ってはにかんだ。
そんな事を話している内に、職人街にある目的の店、バルバド工房へと一行は辿り着いた。
石造りの建物に掛かる看板は金属で作られており、交差した戦斧の上に盾といかにも鍛冶屋といった物だった。
工房からはトッテンカンと槌を振るう賑やかな音が響いて来て、健太郎のテンションは否が応にも高まる。
「すみませーん!!」
店内に足を踏み入れたミラルダが声を掛けると槌の音が一旦止み、様々な武具や道具が並べられた店内に茶色い髪のハンサムな青年が顔を出した。
「いらっしゃいッ! 今日は何の……」
ニコニコと挨拶していた青年の顔が、ミラルダの後ろにいたギャガンを見てビキッと固まる。
「あっ……えっと、剣を手直しして欲しいんだけど……?」
「えっ、ああ。すみません。この街じゃあんまり見ないタイプの人だったもんで……」
そう言って頭を掻いた青年にギャガンが疑問をぶつける。
「ドワーフの店だって聞いてたんだが?」
ギャガンの言葉が示す通り現れた茶髪のイケメンは、健太郎のイメージするドワーフでは無く普通の人間に見えた。
「ああ、俺は弟子です。親方は奥で作業してますよ」
「そうか……見てもらいたいのはコイツなんだが」
そう言うとギャガンは背中に担いでいた大剣を抜き、青年に翳して見せた。
「これは……竜の牙? にしてもこいつは酷いな」
「だろう? この青いゴーレム、ミシマってんだが、こいつが適当に作ったもんらしい」
「適当……はぁ、これじゃあせっかくの高級素材が泣きますよ」
「だよな。まるで原始人の作った武器だぜ、これじゃあよ」
「確かに、黒曜石の槍とかこんな感じですね」
そう言うと青年は肩を竦め、お手上げと首を振った。
「コ、コホー……」
そ、そんなに言わなくてもいいじゃないか……俺だって右も左も分からない中、精一杯頑張ったんだぞ……グスンッ。
「ミシマ、しょげるんじゃ無いよ。あんたがあのダンジョンにいてくれたおかげで、あたしは助かったんだからさ」
「コホーッ!!」
ミラルダ、やっぱり俺の味方は君だけだよッ!!
健太郎は思わずミラルダの手を両手で握り、うんうんと頷いた。
そんな二人の横で、ギャガンと青年は剣について話を進める。
「こしらえはこの剣に合わせて欲しい。柄や鍔、鞘なんかはこの剣の物を流用してくれ」
ギャガンは腰に佩いていた片刃の曲刀を青年に差し出し手渡す。
「なるほど、刀身のみをこれと入れ替える感じですね」
「ああ、出来るか?」
「……ちょっとお待ちいただけますか。親方を呼んで来るんで」
青年はギャガンに剣を返すと工房の奥へと引っ込んだ。
程なく、頭にオレンジの布を被った、健太郎の想像通り、髭面のザ、ドワーフが姿を見せた。
そのドワーフの鋭い視線が健太郎達に向けられる。
「……竜の牙の大剣ですって?」
「コッ、コホーッ!?」
えっ、えっ、今、ですってって言った!?
「おう、こいつだ」
ギャガンが先程同様、大剣を翳して見せると、オーバーオールのドワーフは眉間に皺を寄せ刃を観察した。
「えっ、なにこれ、やだぁ、超ダサいんですけどぉ。一体誰よ、こんな酷い仕事したのはぁ?」
そう言ってドワーフは乙女チックに胸の前で両手を握る。
「コホー……」
鍛冶屋さんの仕草は置いておく事にして……また俺の作った大剣が……いや俺がディスられるのか……。
「このゴーレム、ミシマだ」
ギャガンが親指で健太郎を指し示すと、ドワーフは腰に左手を当て人差し指を立てた右手を振り振り、健太郎に苦情を申し立てた。
「ちょっとミシマちゃんだっけ!? 素人仕事にしてもこれは酷すぎよ! どうしてすぐにウチに持ってこなかったのッ!?」
「コホーッ……」
いや、どうしてって言われても……この店の事なんて知らないかったし、それに、それ使うと誰かを殺しちゃいそうだったから……。
「ミシマは誰かを殺したくなかったんだよ。それでそいつは鞄にしまい込んだままだったのさ」
ミラルダが健太郎の言葉を補足して伝えると、ドワーフはオッと驚いた様に目を見開き、満面の笑みを浮かべた。
「誰かを殺したくない……ウフフッ、良いわねぇソレ。最近は効率良く簡単に敵を殺せる奴をくれってお客さんが多くて、ちょっと食傷気味だったのよ。だから私、ミシマちゃんの事がちょっぴり気に入っちゃったわ」
そう言うとドワーフはパチッと左目を閉じ、ウインクを健太郎に飛ばした。
「コッ、コホーッ!?」
きっ、気に入るって、どっ、どういう意味なんでしょうかッ!?
健太郎はその後も流し目を送ってくるドワーフから逃げる様に、ミラルダの後ろに身を隠した。
「ウフフッ、照れ屋さんねぇ……で、あなた……」
「ギャガンだ」
「ギャガンちゃんね。私はバルバドよ、よろしくね」
「おう、よろしく頼むぜ」
「で、早速なんだけど、リーブ君から聞いたけどあなたの剣に合わせてこの牙を作り直して欲しいんですって?」
「ああ、これは俺の国の一番の鍛冶屋に作らせた業物だ」
どれどれとバルバドはギャガンから受け取った剣を抜き放ち刀身を確認する。
「うんうん、良い仕事してるわぁ……柄、鍔、鞘も凄くいい。この柄なんて使ってて、あなたの手に吸い付く感じじゃない?」
「ああ、分かるか?」
「当然よ……」
その後、バルバドはギャガンの剣を角度を変え、丹念に観察し最後にうんと小さく頷いた。
「手入れも丁寧にしているみたいだし、いいわ。仕事を受けましょう」
「そうか、助かるぜッ!」
「一週間後には出来てると思うから、その頃、またお店に来てちょうだい」
「あの、料金はどのぐらい?」
「そうねぇ……素材持ち込みだから……金貨五枚って所でどうかしら?」
「五枚だね。じゃあ先に払っておくよ」
ミラルダが財布から金を取り出そうとするのを見て、ギャガンがそれを止めた。
「待て、金なら自分で払う」
「払うって、あんたこの国のお金を持ってんのかい?」
「……なぁ、バルバド、ロガエストの金じゃ駄目か?」
「ロガエスト……うーん、流石に国交の無い国のお金はねぇ……」
「ほら、バルバドさん困ってるじゃないか」
「ぬぅぅ……」
「コホー?」
唸り声を上げたギャガンを見て、健太郎は何をそんなに拘っているんだと首を捻った。
「ほんとだよ。何が気になるのさ」
「……剣は自分の命を預けるもんだ。それを人の金で仕立てるなんざぁ……」
「じゃあ、貸しておくから後で働いて返しておくれ」
「……クッ……分かった。金は色を付けて必ず返す」
「まったく、変な所で律儀だねぇ」
ミラルダは苦笑を浮かべると財布から金を取り出し、顔歪めたギャガンを見て優しい笑みを浮かべていたバルバドに手渡した。
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