少しづつ感謝を集めれば……
健太郎達が村を抜けて村を囲む柵を超えた先にある村長の家へ向かう途中、獣人のギャガンや魔人族のグリゼルダ、それにミラルダの頭の耳は村人たちの注目を集めていた。
ただ、顔を顰める者もいたが笑みを浮かべ頭を下げる者もいた。
恐らく助けた娘達の家族なのだろう。こうやって少しずつ人々の感謝を集めれば、ミラルダもこの国で半獣人である事を隠す事無く生きれる様になる筈だ。
そういえばラーグに戻ったのにミラルダは帽子を被っていないな?
健太郎がその事をミラルダに尋ねると彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。
「もう隠すのは止めたんだ。父さんも母さんもファンゴの話を聞く限り、優しくていい人だったみたいだし……隠すって事は二人の血を引いてる事を恥ずかしいと思ってるみたいだからね……あたしの両親は恥ずかしい人じゃない」
「コホーッ……」
そうか……良かったなミラルダ。
「フフッ、あんたが背中を押してくれたからだよ」
「コホー」
へへッ、力になれたんなら嬉しいぜ。
健太郎がそう言って人差し指で鼻の下をこする仕草をしていると、一行の姿を見つけた猟師のケビンが駆け寄って来た。
彼の後ろには黒髪でそばかすの可愛らしい女性が付き従っている。
「ミラルダッ、ミシマッ!!」
「ケビン、それにリリンも……そんなに慌ててどうしたんだい?」
「どうしたもこうしたも、礼を言いに来たに決まってんだろ」
「そんな改まって礼なんか言わなくても……」
「いや、言わせてくれ……リリンを助けてくれてありがとう……それと色々失礼な事を言って済まなかった……あんた等は確かにこの国の住人で、信頼のおける立派な冒険者だ」
そう言ってケビンはミラルダと健太郎に深々と頭を下げた。
リリンもケビンに倣い両手をお腹の辺りで重ね頭を下げる。
「ああ、頭を上げとくれ。あたしらは仕事でリリンを助けただけさ」
「コホー」
いいじゃないか、ミラルダ。確かに依頼をこなしただけだが、リリンを含めた村の女の子を助けた事は事実だ。
それにそれでケビンの気が済むなら素直に感謝を受ければいい。
「ふぅ……そうだね。ケビン、どういたしまして、だよ」
「……ありがとう。本当に恩に着る」
笑みを浮かべたミラルダを見て、顔を上げたケビンはホッとした様子で微笑んだ。
「ミラルダさん、本当にありがとうございます」
彼の横でリリンもミラルダに深く頭を下げる。
「どういたしまして、リリン。ケビンとお幸せに」
「はい、ミシマさんも助けてくれてありがとう」
「コホーッ!!」
フフッ、主人公は困っている人、特に女の子は救わねばならないって決まっているのさッ!!
ビッと親指を立てた健太郎を見てクスクスと笑うと、リリンはギャガン達にも頭を下げた。
「お二人もミラルダさん達と一緒に戦って頂いたそうで……ありがとうございます」
「お、おう」
「あ、ああ」
リリンに頭を下げられた二人は困惑しながら答えを返した。
「じゃあ、あたし等は村長に報告してくるから」
「ああ、もしまたレフトに来る事があったら事前に知らせてくれ。大物を仕留めてご馳走するからよ」
「フフッ、そりゃ楽しみだ。じゃあねリリン、ケビンと仲良くね」
「はいッ!」
「コホーッ!!」
じゃあねッ!! 健太郎はブンブンと手を振って幸せそうなケビン達と別れ、再び村長の家へと足を向けた。
「なぁ、失礼な事ってなんだ?」
「あたしは半獣人だからね、それでちょっと」
「ラーグは人間が主体の国だからな……ついては来てみたが、我々が受け入れられるかどうか」
「大丈夫さ、行儀良くしてればその内みんな慣れるよ」
「コホー……」
行儀良く……果たしてこの二人が出来るのだろうか……正直、その点に関しては不安しかないんだが……。
「フフフッ、悪さをしたら、またお仕置きすればいいだけだよ……」
笑みを浮かべ軽く言ったミラルダの言葉でギャガンは毛を総毛立たせ、グリゼルダは思い切り顔を顰めていた。
■◇■◇■◇■
レフト村の村長の家ではお仕置きという言葉が聞いたのか、ギャガンもグリゼルダも口をつぐみ大人しくしていた。
村長は二人を見て目を丸くしていたが、特に何も言う事無く、報告を受けて感謝の言葉を告げ、ミラルダが取り出したギルドへ提出する依頼達成書に喜んでサインをしてくれた。
その後、村を出た健太郎達はトラックモードに変形した健太郎に乗り、ミラルダの家のあるクルベストへ向けて移動を開始した。
「そうだ、ミラルダ、聞きたい事がある」
運転席でハンドルを握るミラルダに助手席のギャガンが声を掛ける。
「ん? 何だい?」
「ラーグには無数のダンジョンがあって、そのダンジョンで獲れる素材で武具が作られていると聞いた」
「ああ、あたしら冒険者は基本、そのダンジョンに潜って素材を集めるのが生業だよ」
「でだ、その武具には強力なドラゴンから取れる素材で作られたモノもあるんだろう?」
「勿論あるよ。値は張るけどね」
「俺もそいつを手に入れたいんだが……」
ミラルダはギャガンにチラリと目をやった。
彼はラーグに向かうに当たって、自前の武具、剣と鎧等を荷台に持ち込んでいた。
ミラルダが見た所では、素材は極一般的な牛の皮や鉄を使った物だが作りはかなり上等に思えた。
「ドラゴンの素材ねぇ……一応、何かに使えるかと思って少し残してあるけど」
「本当かッ!? 頼む、譲ってくれッ!!」
「そりゃ、仲間になったんだし、いいけど……あんたが持って来た武具もいい物に見えたけど?」
「ああ、確かにアレは国で一番の職人作らせた業物だ。だがアレじゃミシマは斬れなかった」
「はぁ……ギャガン、ミシマを斬る為に素材が欲しいってんなら、悪いけど渡せないよ」
「グッ……やっぱり自前で調達するしかねぇか……」
「あんたねぇ……」
「ブルルルルル……」
うう……そこまでして俺を斬りたいのか…………いっそ、俺の持っている竜の牙の大剣を渡して一度斬られてみるか、多分あれでも傷は付かないだろうし、そうすれば諦めてくれるかも……。
健太郎は今後の事も考え、家に戻ったらギャガンに提案してみようと思った。
そうでもしないと、ギャガンは様々な素材で剣を作り試し斬りをするのではと思えたからだ。
「ブルルルッ!!」
まったく、なんで仲間から斬られる事を心配しながら冒険しなければならないのか!!
どうせ仲間になるなら、そこは斬る気満々のゴツイ黒豹じゃなくて、和装で黒髪の美少女剣士とかだろうッ!!
夢設定に憤りつつ、道行く人々の注目を浴びながらクルベストを目指し健太郎はタイヤを軋ませた。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




