感謝されるのは心地いい
健太郎達はラーグに帰還する前に犬人族の集落に寄り、長のワーフ他、犬人族に事の経緯を説明し別れの挨拶を告げると来た時と同様、山を越えてレフト村へと向かった。
来る時は健太郎がトラックに変形する事は出来なかった為、徒歩だったが帰りは開けた場所を通りトラックモードで移動した事で夜をまたぐ事無くレフト村へと辿り着く事が出来た。
村の入り口で見張りをしていたクマ髯の男、木こりのゴドリフが健太郎の姿、そして運転席と助手席にいるグルゼルダとギャガンを見て緊張した顔で武器を構える。
「とっ、止まれッ!! この村にはお宝なんて無いぞッ!!」
「あ? 何言ってんだテメェ? 俺達は……」
「だっ、黙れッ!! その鉄の車で何をする気だッ!!」
「何もするつもりは無い、我らはこの村の女を運んで来ただけだ」
「何? 村の女を?」
ギャガン達が窓から顔を出しゴドリフと話していると、後部ハッチが開き攫われた娘達が姿を見せた。
「……フラナ?」
「父さんッ!!」
「フラナッ!!」
娘の一人がゴドリフの姿を見て駆け出し両手を広げ彼に抱き着く。
ゴドリフは飛び込んで来る娘に、慌てて手にしていた槍と盾を投げ捨て彼女を力いっぱい抱きしめた。
「遅くなってすまなかったね」
娘に続いて荷台から降りたミラルダが笑みを浮かべゴドリフに言う。
その頭にはもう帽子は被られていなかった。
ゴドリフはそのピョコピョコと揺れる耳に一瞬目をやり、ミラルダにぎこちない笑みを返した。
「半獣人だってケビンから聞いた時は微妙な気持ちになったが……」
「父さん、ミラルダさんは私達の恩人で凄く良い人だよッ!!」
「ああ、分かってる。……娘を助けてくれてありがとう。あんたとあのゴーレムが獣人の都に向かった事はケビンから聞いた……その、正直、獣人の都に送られたって聞いた時はもう駄目だと思ってた」
「まぁ、色々あったけど、なんとかなったよ……あんた達も突っ立ってないで家族に顔を見せておやり」
苦笑浮かべゴドリフに答えたミラルダは、抱き合うフラナとゴドリフを見て足を止めていた娘達に声を掛ける。
「あ……そうねッ! そうだ、改めてだけど、助けてくれてありがとうッ!!」
「ありがとうッ!!」
「本当に感謝してるわッ!!」
ミラルダに言われ我に帰った娘達は、彼女と健太郎達に礼を言って頭を下げると、門衛が開けた門をくぐり会いたい人の下へ駆けて行った。
「それで、車に乗っている二人は?」
「魔人族のグリゼルダと豹の獣人ギャガン、新しい仲間だよ」
「……なんというか……この国じゃ苦労しそうな仲間だな」
「フフッ、そういう苦労には慣れっこさ」
「そうか……それで、あのゴーレム……ミシマだったか、あいつは?」
「ああ……グリゼルダ、ギャガン、一旦降りとくれ」
ミラルダは振り返り運転席を見上げるとそこに座る二人に声を掛ける。
「わかった」
「へいへい」
ドアを開いて二人が地面に下りると、健太郎はカシャカシャと音を立て人型に変形した。
「……あの鉄の車はゴーレムだったのか……」
「凄く速くて乗り心地も良かったのよ」
唖然として呟くゴドリフに娘のフラナが得意げに言う。
「コホー」
フフッ、トラックモードはこの世界には多分まだ無いだろう、サスペンションという奴を装備しているからねぇ。
少し得意げに腰に手を当て胸を張った健太郎を見て、ゴドリフは首を傾げ、ミラルダは苦笑を浮かべた。
「さて、村長に報告に行きたいんだけど、通っていいかい?」
「あ、ああ! もちろんだッ!!」
ゴドリフは娘を抱いていた右手を広げ、ミラルダを門に促した。
「ありがと、じゃあみんな行こうか?」
「おう」
「いいのか? 我々が入っても?」
「あんたらも娘達を助けるのに手を貸してくれたんだろ?」
「……まぁ結果的にはそうなるのか……」
「ならあんたらも村の恩人だ、遠慮しないで入ってくれ。ガタガタ言う奴がいたら俺がぶっ飛ばしてやる」
ゴドリフはそう言って右腕を曲げ、仕事で鍛えられた筋肉を盛り上げニカッと笑った。
「そっ、そうか」
「ありがと、ゴドリフ。さっ、行くよ」
グリゼルダは軍の工作部隊の隊員として表に出ない作戦をこれまで担って来た。
上層部から評価はされたが、民間人から満面の笑みで受け入れられた事は皆無だ。
そんな初めての経験にグリゼルダは何と反応していいのか戸惑っていた。
「コホー」
やっぱ人の役に立って感謝されるってのは気持ちがいいな。グリゼルダもそう思うだろ?
戸惑う彼女に健太郎が問いかけると、グリゼルダは頬を少し染めて口を尖らせた。
「やはりお前は何を言っているのか、私にはよく分からんッ!」
「なんだぁ? 照れんのか?」
「なっ、なんで私が照れねばならんッ!?」
「はいはい、じゃれてないでさっさと行くよ」
パンパンと手を叩いたミラルダに促され、一行は門をくぐり村長の家へと向かった。
その際、目に涙を溜めて抱きしめたフラナの頭を撫でるゴドリフの姿が健太郎の心に残った。
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