決して間違えてはいけない
ランザに導かれた王の執務室、以前作戦会議をした時とは違いステフ達、犬人族はおらず代わりにいるのは炎狼族の若者ファンゴと魔人族の工作部隊隊長ブラドバーンだ。
ちなみにステフ達は作戦への参加を申し出ていたが、彼らの安全を考え今回は遠慮してもらった。
獣人と一括りにしても種族によって豹人族や炎狼族とは余りに体格差が大きく、体力面で劣る二人には残って貰う事にしたのだ。
ステフ達は悔しそうにしていたが、人には得手不得手がある。
皆が皆、戦士にならなくてもいい、これまで経験した事から健太郎は彼らをそう説き伏せた。
「では、何があったのか詳しく聞かせて頂けますか?」
執務室のソファーに座ったランザが、同じくソファーに座った健太郎達に視線を送りながら話を促す。
「目的が捕縛という事でしたので、ミシマ殿の提案を受けて彼に先行して貰ったのです」
「ミシマの技……確かサ○デー・ナイト・フィーバーだったかね? とにかく電撃を周囲にばら撒く技で気絶させようとしたのさ」
「コホーッ!!」
ミラルダ、サンダー・ナイト・フィーバーだッ!! 間違えてはいけない、それは本家の方だッ!!
「ああ、サンダーね……別にどっちでもいいとあたしゃ思うけど……」
「コホーッ!!」
良くないッ!!
「とにかくだ。その電撃を放つ為に、目くらましにミシマが島の湖に赤い光をぶっ放したら湖の水が溢れてよ」
「この国の地下深くにはブルーメタルと呼ばれる鉱物が大量に埋蔵されている。その鉱脈を光は撃ち抜いたのだと思う」
ファンゴ、ミラルダ、ギャガン、グリゼルダが代わる代わる状況を説明していく。
「ブルーメタル……ですか?」
「ああ、ブルーメタルは空気に触れると大量の水を吐き出す鉱物だ。帰還の際にもグリア砂漠の至る所で泉が湧き川を形成しているのを見た」
「砂漠に泉が……グリゼルダさん、大量と言いましたがそれはどの程度の量なのですか?」
「それは……すまない、詳しい埋蔵量は私にも……」
口ごもったグリゼルダに変わりブラドバーンが口を開く。
「発言していいか?」
「……どうぞ」
「コイツはエルダガンドの試算なんだが……この国の地下に埋蔵されたブルーメタルは、少なく見積もっても一万トン以上はあるらしい、そいつが全部反応するにゃあ、多分だが百年以上かかるんじゃねぇかと思う」
「百年以上、その間ずっと水が……所でブラドバーンさん、貴方、妙に協力的ですね?」
ランザは目を細めブラドバーンの顔に訝し気な視線を送った。
そんなランザに彼はニヤッと笑う。
「反抗するより友好的な方が、仲間もいくらかマシに扱ってもらえると思ってね」
「……なるほど……あなた方の今後についてですが、エルダガンドに使者を送り今回の件について謝罪と賠償を要求しようと思っています。要求が受け入れられれば、あなた方は無事祖国へ帰る事が出来るでしょう」
ランザの言葉を聞いたブラドバーンは口の端を持ち上げ眉を寄せて笑った。
「俺の横に座ってる狼の大将にも言ったが、国が認めるとは思えない。多分、俺らの独断、暴走って事で関与は否定するだろうぜ」
「ふぅ……やはりそうなりますか……その場合は致し方ありません。今回の件を公表して同盟各国と連携を取る事になるでしょう。その際、あなた方には証人として真実を語って欲しい」
「真実ねぇ……そいつを語ったら国に帰してもらえるのかい?」
「……言いにくい事ですが、帰ったら処刑されるのではないですか?」
ランザがそう言うとブラドバーンは失笑を漏らした。
「隊長……」
「いや、すまんすまん。女王様は人格者だとは聞いていたがここまでとは……あんたの言う事はもっともだがね……俺は家族に会いたいのさ。もう何年も家を留守にしてるんだ」
「…………分かりました。ではこうしましょう。証言してもらえるなら、あなた方の家族をロガエストに招き入れましょう」
「はぁ? そんな事出来る訳が……」
「我々獣人を舐めないで頂きたい、魔法こそ使えませんが身体能力は他のどの種族よりも高い、人を攫うなど容易い事です」
ランザが牙を剥き笑うとミラルダは苦笑を浮かべた。
「ふぅ、確かにそれであたしたちはこの国に来る事になったしねぇ」
「ミラルダさん……その事ではご迷惑をお掛けしました」
「ロガエストに家族を……本当に出来るのか?」
「ええ……サツキ」
探る様な目を見せたブラドバーンにランザは静かに誰かの名前を告げた。
「御用ですか?」
突然、音も無く執務室に白いネコ科の獣人がフワリと舞い降りた。
「なっ!? 一体どこから!?」
「まさか、魔法を!?」
「コッ、コホーッ!?」
にゃ、にゃんこじゃぁ!?
ブラドバーンにグリゼルダ、それに健太郎は全く気配を感じさせず唐突に現れた獣人に驚きの声を上げる。
「……コホーコホー、コホー……」
……はぁはぁ……にゃんこ……しかも、忍者みたいな格好してる……かっ、可愛いなぁ……。
ギャガンやランザもネコ科ではあるが、野性味が強すぎてカッコいいとは思うが可愛い感じでは無かった。
だが現れた獣人は小柄でまさに猫といった容姿しており、ただ存在しているだけで彼女はモフモフ好きの健太郎の心を鷲掴みにしていた。
そんな風に健太郎が興奮でワキワキさせた手をミラルダがそっと抑える。
「……駄目だよミシマ、撫でたいんだろうけど」
「コホーッ!! コホーッ!!」
頼むミラルダッ!! ちょっとだけだからッ!! ほんの少し喉の下をこうクリクリっと……。
健太郎の懇願にミラルダは静かに首を振った。
「コホー……」
うう……駄目か……。
悲し気に呼吸を呼吸音を響かせた健太郎を見て、ランザがコホンッと咳ばらいをする。
「この者はサツキ。ジャルガの事があったので、現在は私の警護を担当しています」
「サツキと申します。以後、よしなに」
「猫人族か……」
「サツキの一族は隠密として代々の王に仕えています。彼らの力を借りれば貴方達の家族をロガエストに招く事は容易いでしょう」
「ご命令とあればすぐにでも」
片膝を突きランザに頭を下げたサツキは、そのグリーンの瞳をブラドバーンに向けた。
「……仲間と話合いたい」
「貴方達の計画が失敗した事は遠からずエルダガルドにも知られる筈です。保護するなら早い方がいいでしょう」
「……分かっているさ」
ランザの言葉にブラドバーンはそれまで浮かべていた笑みを消し、そっと目を伏せた。
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