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夜の砂漠を超えて

 積み込み作業も終わり砂上船も集まった翌日、健太郎(けんたろう)達は大海原ならぬ大砂原(おおすなばら)に船をこぎ出した。

 砂の海、グリア砂漠には所々にオアシスが点在しており、そのオアシスに逗留潜伏しながら中央部には二泊三日掛けて向かう予定だ。

 魔人族の操る砂竜の襲撃は昼間行われる為、移動は夜間に行われる事になっている。

 砂漠にはサンドワームと呼ばれる砂の中を移動する巨大な魔物も存在するらしいが、今回は砂漠を行き来し交易している駱駝人(らくだじん)の商人を水先案内人に雇い星空の下、一行は砂の海を進む事となった。


 五隻の砂上船が滑る様に砂を上を進む後ろを、青黒い金属の馬車が砂煙を上げて走っている。


挿絵(By みてみん)


「うぅ……昼間は暑かったってのに夜は冷えるねぇ」

「確かにな……ふむ、炎の魔法で暖を取るか?」

「止めとくれ、蒸し焼きになっちまうよ……」


 グリア砂漠は昼は40度を超え、夜は放射冷却により零度を下回る事もある。

 その事を失念していたミラルダは黒革のツナギのまま健太郎に乗り込んでしまったのだ。


「ブルルルッ」


 気候の事は俺もすっかり頭から抜けてたな。なんせこの体はある程度以上の暑い寒いは感じないもんねぇ……。

 そうだ、車なら暖房ぐらい付いてんじゃないのか?。


 健太郎が温風の噴き出す社用車のエアコンを思い出すと、運転席の足元から暖かい風が吹き出した。


「ん? あっ。暖かい……ミシマ、気が利くじゃないか」

「ほう、こんな機能も…………一度、バラバラにして仕組みが知りたいな」

「ブルルンッ!!」


 マッドな事、言うんじゃ無いよッ!!


 そんなやり取りを健太郎達がしている頃、水先案内人の駱駝人商人、クラバは健太郎が変形したトラックに強い興味を示していた。


「あの大きさで足の速い小型艇に難無く付いてこれるとは……アレは軍の新兵器ですか?」

「……」


 クラバの船に乗っていた炎狼族の青年ファンゴは答えに窮し黙り込んだ。

 彼にも健太郎を何と表せばいいのか分からなかったからだ。

 ゴーレムかと思えば、魔法技術に詳しい魔人族のグリゼルダは絶対に違うという。

 異界から来た何からしいが……。


 最終的に眉根を寄せ唸ったファンゴを見て、クラバは引きつった笑みを浮かべながら話題を変えた。


「今夜といいますか、明日滞在するオアシスには我々が以前築いた拠点があります。そこも砂竜の被害が出始めた頃、襲撃を受けましたが建物は残っておりますので一日過ごすぐらいは出来る筈です」

「そうか……この作戦が成功すれば砂竜も大人しくなるだろう。君達にもプラスになる面が多い筈だ」

「今回のお話を頂いた時に私もそう聞いております……砂竜の所為でグリア砂漠を横断するルートが取れなくなって久しい、是非とも成功して頂きたいものです」

「全力を尽くすつもりだ」


 そう言ってニヤッとファンゴが笑うと、白い牙がむき出しになる。

 月明かりの下で光るその牙を見てクラバはビクリと身を竦ませた。



■◇■◇■◇■



 砂漠の旅は順調に進み、翌朝、日の明けきる二時間ほど前に辿り着いたオアシスには、クラバの言葉通り船着き場と滞在出来そうな石造りの建物があった。

 オアシスの大きさは一キロ四方で、中央には泉が湧きその周囲を木々が囲んでいる。

 その木々の側に建てられた白い石で組まれた建物の内部は、少し砂に塗れていたが一日過ごすだけなら問題ないだろうとファンゴには思えた。


「よし、帆柱を畳んで船を砂で隠せ! ミシマ殿は……」

「そうだねぇ……面倒だけど一度、荷を下ろして人型になってもらおうかね」


 運転席から降りたミラルダの言葉に頷くとファンゴは荷を下ろす様、部下に伝える。


「ふぅ……しかし外は冷えるねぇ……昼間はあんなに暑かったってのに」

「砂は熱を蓄える事が出来ん。昼は灼熱、夜は極寒の世界だ。そんな薄着では耐えられんぞ」


挿絵(By みてみん)


 ファンゴの言葉通り、運転席から降りたミラルダは黒革のツナギの腕を摩っていた。


「うぅ、ミシマの中は快適だったんだけどねぇ」

「ほう、あの中は温度まで調整出来るのか?」

「ああ、寒いって言ったら暖かい風が吹き出してさ。ここまでの道中も快適だったよ」


 そんな二人の会話に防寒具を着込んだギャガンが割り込む。


「ミラルダ、テメェ!! 俺達が船の上で凍えている間、ヌクヌクと旅を楽しんでやがったのかッ!?」

「致し方あるまい。ミシマの荷台は荷物で一杯で貴様の様なデカ物が乗る隙間は無いのだから」


 ミラルダに続き助手席から降りたグリゼルダが、文句を言うギャガンに冷ややかな視線を送る。


「チッ、テメェが船に乗りゃあ俺がミシマに乗れんだろうがッ、明日は変われよッ」

「断る。船にはお前の部下の荒くれ共が乗っているではないか、あんな粗暴な連中とは付き合いたくない」

「ふぅ……グリゼルダ、あんたはもう少し優しい言葉遣いを学んだ方が良いようだね」

「そんな言葉遣いは戦士には必要ないッ!」

「グリゼルダ、あんたはもうエルダガンドの戦士じゃない。あたしらの仲間、冒険者の一人だろ?」

「冒険者……私が……」


 グリゼルダはミラルダの言葉で瞳を揺らし口を閉ざした。


「ギャガン、それとあんたはミシマに乗って暴走した前科があるから、乗せる訳にはいかないよ」

「ググッ……俺は寒いのは苦手なんだよッ!」

「フフッ、じゃあ、サッサと作業を終わらせて建物で暖を取ろうじゃないか」

「ミラルダの言う通りだ。ギャガン、貴公の船も早く砂で隠してくれ」

「チッ、分かったよぉ……野郎共、船を砂竜から見えねぇ様に砂で埋めろッ!!」

「ハッ!!」


 砂上船には十名ずつに分かれ兵は乗船していた。

 船は大型のヨットぐらいの大きさでヨット同様、可動式の帆が搭載されている。

 船底には前方に砂の上を走る為の橇が二つ取り付けられていた。

 その帆を外し、マストを船の上に横たえると帆布で船体を覆いその上から砂を被せる。

 これで上空から見ただけでは発見する事は難しいだろう。


 作業自体は身体能力の高い獣人という事もあり、一時間掛からず五隻全てを砂で隠す事が出来た。

 荷物を全部下ろした健太郎もその作業を手伝い、一行は日の出前に建物の中で食事を取る事となった。


 奥まった部屋の竈で火を熾し、持ち込んだ食料で食事を作る。

 ファンゴの指示で火を使うのは夜明けの一時間前までとし、それ以降は建物に隠れ砂竜をやり過ごす事になっている。


 健太郎は食事を終え人心地つき、食堂の椅子に腰かけ葡萄酒を飲んでいたファンゴに移動中考えていた作戦を提案する事にした。


「コホー」


 ちょっと聞いて欲しいんだけど。


「ミシマ殿、貴公のその身振り手振りは俺にはまるで分らんのだが……?」

「コホー……」


 やっぱりミラルダに通訳して貰わないと通じないか……。


「何だ、ミシマ。炎狼に何か言いたいのか?」


 ファンゴの前でバタバタと両手を動かしている健太郎を見つけたグリゼルダが、足を止め声を掛ける。


「コホーッ?」


 そうなんだ。ミラルダは今どこにいるの?


「ふむ、相変わらず何を言いたいかよく分からんが……ちょっと試したい事がある」

「コホー? コホーッ!?」


 試したい事? まさか、移動中に言ってたバラバラにするとかじゃ無いだろうねッ!?


「何を怯えているんだ……いいからこっちへ来い」


 グリゼルダは怯えてズズッと身を引いた健太郎の手を掴むと、ファンゴの座っていたテーブルの椅子に彼を強引に座らせた。


「コッ、コホー……?」


 いっ、一体何を……?


「砂竜を操るには角を使うと言っただろう? それを利用してお前の思考を覗けないかと思ってな」

「コホー?」


 思考を覗く? ……なんかソレ、凄く恥ずかしい気がするんだけど……。


「ミラルダを介して話すにしても、複雑な事は伝えきれんだろう? なら私が思考を読んだ方がお前の考えを正確に読み取れる筈だ」

「ほう、魔人族はそんな事も出来るのか?」

「他人の意識を覗く事は国では禁じられている、だがミシマはゴーレムっぽい何かだし、私はもうエルダガンドの人間ではないしな」

「そうか……ともかく、何か意見があるなら聞きたい。ミシマ殿、試してみてくれんか?」

「コホー……」


 分かったよ……。


 健太郎が隣に座ったグリゼルダに向き直ると、彼女は立ち上がり健太郎の頭に手を添え額の角を彼の頭にそっと当てた。


挿絵(By みてみん)


「むぅ……ミシマ、伝えたい事を思い浮かべろ」

「コホー……」


 健太郎が思いついた作戦を脳裏に浮かべると、グリゼルダの眉根がギュッと寄る。


「……ふむ…………なるほどな………ふぅ」


 やがてグリゼルダは手を放し、ドサッと椅子に腰を下ろした。


「……ミシマ殿の伝えたい事とは?」

「こいつらしい、実に馬鹿馬鹿しい策だ。だが面白い」

「ほう……聞かせてくれ」


 ファンゴはそう言うとニヤリと牙を見せ笑った。

お読み頂きありがとうございます。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。

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紺碧のミシマ 設定資料集

各章の登場人物や地図、設定等を纏めました。

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