獣人達の都
犬人族の集落を砂竜を操り襲っていた魔人族の女、グリゼルダ。
彼女が気を失っている間にミラルダとケビンは、犬人族の長老ワーフとレフト村から奪った女性を返して欲しいと交渉していた。
ワーフはそんなミラルダ達の言葉に眉根を寄せた。
それというのもリリンを含む女の半数は、既に王であるランザのいる王都ペズンに送られていたからだ。
ワーフは現在村にいる女達については返してくれると約束してくれたものの、王都に送られたリリン達の事は直接、王に訴えるしかないと健太郎達に頭を下げた。
そんな訳で健太郎達は犬人族の仕立ててくれた幌馬車に乗り、捕虜にしたグリゼルダを連れて獣人の国、ロガエストの王都へと向かっているという訳だ。
ちなみにケビンは犬人族と共に、村に残されていた半数の女を連れてレフト村へと帰還した。
彼は健太郎達に同行したかった様だが、獣人達に敵対視されている人間である事、村の女達を放って置けない事等を考慮し、渋々帰還する事を了承した。
その際、しつこいぐらいリリンの事を頼むと健太郎とミラルダは念押しされた。
「コホーッ?」
ねぇ?
「……なんだ?」
「コホーッ?」
そろそろ喋る気になった?
「おい、このゴーレムもどきは何を言っている?」
「もどきじゃなくてミシマだよ……何々……もう喋る気になったか? だって」
「フンッ、誇りある魔人族の戦士が口を割る訳があるまい?」
そう言ってグリゼルダはプイッと顔をそむけた。
「コホー……」
困ったなぁ……内情が知れれば、何とか平和的に問題を解決出来るかもって思ったんだが……。
「そうだねぇ、私も人殺しはごめんだし、穏便に済ませたいんだけど……」
「ハッ、甘い奴らだッ! 人も殺せぬ臆病者はさっさと国に帰れッ!!」
「はぁ……殺せないじゃなくて、殺したくないんだよ、あたしもミシマも……分かってるのかい? 最初の攻撃でミシマがその気ならあんた、蒸発してたんだよ?」
ミラルダの言葉に褐色の肌の魔人族は悔しそうに唇を歪める。
「クッ、こんな無様な事になるなら、いっそ蒸発したほうがマシだったわッ」
「簡単に死にたいなんて言うもんじゃ無いよ……人は生きてりゃ何度だってやり直せるんだから」
「貴様らの国ではそうなんだろうな。だが我々の国では失敗すれば二度と日の目を見る事は出来ん」
「コホー……」
そうなんだ……一度の失敗で全てを失うか……何だか今の日本みたいだな……。
切なそうな呼吸音を聞いたミラルダが健太郎に視線を送る。
「何だいミシマ?」
「コホーッ」
何でも無いよ。
健太郎がミラルダに首を振ったのと同時に、御者台に座っていた柴犬な隊長ステフから声が掛かる。
「見えて来たぞ。ペズンの都だ」
その言葉にミラルダが御者台に続く布を開けると、ステフとミニチュア・シュナウザーっぽい犬人族、ミハイの背中越しに大小無数の天幕が見えた。
小さい物は犬人族の集落でも見た四、五人で使うサイズの物から、サーカスで用いられる様な百人以上入れそうな巨大な物まである。
「へぇ……王都まで天幕で出来てんのかい」
「ああ、ロガエストは遊牧民の国だからな。国王であるランザ様も国中を移動しながら政をしているのさ」
「ふーん、お隣の国なのにラーグとは随分違うんだねぇ……」
「まぁ、草食の奴らは定住して畑を作ってるのもいるけど、俺達みたいに肉が主食の種族は家畜を育てる為に牧草を求めて移動するのさ」
「なるほどねぇ……」
ミラルダが感心した様に頷く横で、健太郎も異国情緒あふれる風景に目を奪われていた。
「コホー」
こんな景色を俺の無意識が……? ……人の無意識は実は繋がっているって説、あれは本当かもな。
そんな事を思うぐらい、目の前の景色は健太郎が想像した事の無い物だった。
「着く前にもう一度言っとくが、事前に話した通り、何言われても口答えしたりはするなよ。色々面倒だからな」
「分かってるよ、ミシマもいいね?」
「コホーッ」
健太郎が腕で丸を作るとステフとミハイはやれやれと肩を竦めていた。
その後、五人を乗せた馬車は天幕で形作られた街の入口へと辿り着く。
入り口にはジャッカルに似た獣人とハイエナに似た獣人が歩哨を務めていた。
「止まれ、氏族と名前、来訪の目的を述べよ」
長柄の槍で入り口を塞ぎながらジャッカル頭の獣人がステフに問う。
「北の犬人族、ラギ族のステフ。砂竜を操っていたと思われる魔人族を連行して来ました」
「何……砂竜を操るだと……?」
「おい、犬っコロ、いい加減な事言ってると牢屋にぶち込むぞ」
歩哨の片割れ、ハイエナの獣人がニヤついた笑みを浮かべ牙を見せる。
「いい加減かどうかは馬車を見れば分かります」
ステフはハイエナに臆した様子も無く、親指で幌の中を指差した。
「チッ、中央でも原因は掴めてねぇってのに、ド田舎の弱小種族が……」
ジャッカルに目配せされたハイエナが、ボヤキながら後ろに回り幌を捲る。
「ん? 何だお前ら?」
「あたしらは旅の者だよ。この人が都に行くって言うから便乗したのさ」
ミラルダが事前に決めていた内容を口にする。
一応、依頼でロガエストに旅して来たので嘘では無いし、便乗したのも本当の事だ。
「……半獣か……その耳の形と色……へッ、おおかた炎狼族の里を追い出されたってとこか?」
「コホーッ!?」
炎狼!? 何々、ミラルダってばそんな中二チックなカッコいい種族とのハーフだったの!?
健太郎の興奮を他所にミラルダはハイエナに苦笑を浮かべる。
「残念ながら親の顔は知らないのさ。赤ん坊の頃に捨てられたんでね」
「ハッ、だろうな。そんだけ人間に近くちゃよぉ……で、そっちはゴーレムか……お前がテイムしたのか?」
「……まぁ、そんなトコだよ」
「……分かってるだろうが、街で問題を起こせば牢屋行きだからな」
「面倒は起こさないよ」
「そうしろ。それで、そいつが砂竜を操ってたって魔人族か……よっ、と」
掛け声を掛け馬車に乗り込んだハイエナは、顔を背けていたグリゼルダに歩み寄ると、腰を屈め彼女の顎に手をやった。
「クッ、触るなッ!!」
「ケッ、気の強そうな女だぜ」
そう言うとハイエナはグイッと強引にグリゼルダの顔を正面に向かせた。
「確かに魔人族だな……おい、犬っコロ、この女をどうするつもりだ?」
御者台にいるステフ達にハイエナは問い掛ける。
「国王様にお渡しする予定です」
「……ランザ様にねぇ……フンッ、取り合って貰えるとは思えねぇが、好きにしな」
「……そうしますよ」
ヴァレリの答えを聞いたハイエナは、グリゼルダの顎に当てていた手を離すと馬車から降りてジャッカルに叫ぶ。
「確かに魔人族だ! 後、旅の半獣と下僕のゴーレムが一匹! 魔人族は縛られてるし問題は無いだろう!」
「半獣とゴーレム……おい、そいつらが問題を起こしたら責任はラギに取ってもらうぞ」
「はい、分かっています」
「……さっさと通れ」
ジャッカルがステフに顎をしゃくると彼は手綱を打ち馬を進ませた。
「コホー……」
なんか偉そうな奴らだったなぁ……。
「確かにね。それよりミシマ、よく我慢したねぇ」
「コホー」
事前に約束してたからね。それに嫌な奴だったけどモフモフしてたから……。
「ミシマ……あんた、毛皮があれば何でもいいのかい?」
そう言ってミラルダが呆れ顔で健太郎を見る。
「コッ、コホーッ!!」
そっ、そう言う訳じゃ無いけどッ!! でっ、でもハイエナもギャングっぽくって、何かいいかななんて……。
「ふぅ……ホントに動物が好きなんだねぇ」
「一体、貴様らは何の話をしているのだッ!? ……うぅ、何故、私はこんな間抜け共に……」
声を荒げた後、唇を噛み悔し涙を浮かべたグリゼルダの様子に、健太郎はポリポリと頭を掻き、ミラルダは苦笑を浮かべながら肩を竦めた。
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