今は半分信じてやる
キャンプでミラルダと話した事でケビンは大分、健太郎達と打ち解けた。
ミラルダはサバサバした性格であるし、話せば殆どの者と仲良くなる事が出来る筈だ。
ただ、彼女が半獣人である事はケビンには隠したままだ。
それを知った時、ケビンがどう態度を変えるのか、健太郎は少し気になっていた。
まぁ、どんな事になろうとも俺はミラルダの味方だがな。
翌朝、そんな事を考えながら健太郎が木々の間から差し込む朝日を眺めていると、ケビンが自前のテント(彼のテントは一人用の毛皮を使った物だった)から起き出して来た。
健太郎に気付くと歩み寄り口を開く。
「ふぁあああ……早いな」
「コホー」
この体は疲れるって事が無いからね……まぁ、俺は公園の家の中でずっと眠っている訳だし疲れようが無いよな。
「ふぅ……しかしミラルダから色々聞いたが、そんなに強いんなら獣人共を皆殺しにして欲しいぜ」
「コホー」
寝起きのボケた頭だったのだろう。思わず本音が出たケビンに健太郎は静かに首を振った。
「……何でだよ。あいつ等、リリンを……」
「コホーッ」
確かにあんたの婚約者を攫ったのは許せない事だし、彼らは罰を受けるべきだとは思う。
でもさ、人にはどうしょうも無い時ッてのはあると思うんだ。
獣人は砂竜とかいう害獣の被害に遭っているみたいだし、取り敢えず話を聞いてみるのが良いとおもうんだよね。
ミラルダとは違い、健太郎のジェスチャーに慣れていないケビンに、彼は一生懸命自分の考えを伝えた。
クニエダの話では獣人の国ロガエストでは老人や女子供が被害に遭っているらしい。
老人はひとまず置いておいて、女子供という事は次の世代を生み担う者達が死んでいるという事だろう。
それはつまりロガエストという国の滅亡を意味する。日本でも問題になっていた少子化が獣人の国では砂竜という実行力を伴う形で進行していると考えていい。
国というのは健太郎が知る限り、一番大きな共同体、互助組織だ。
まぁ、日本という国は健太郎には手を差し伸べてはくれなかったが……。
ともかく、国は一人ではできない事する為、そこで暮らす人を守る為、作り出された物に他ならない。
それが消えちゃうかもだもの、なりふり構わずにもなるよね。
「クッ……だとしても、リリンや村の奴らが連れ去られていいって事にはならないだろッ!?」
「コホーッ」
いやまぁ、そうなんだけどさぁ……。
「ふぁあああああ……にゃむ……ケビン、朝から何を怒鳴ってんのさ」
ケビンの怒声で目を覚ましたミラルダが、テントから顔を覗かせる。
「……あんた……」
ケビンの見開かれた目はミラルダの頭の上でピョコピョコと動く三角の耳を凝視していた。
その視線に気付いたミラルダはいつかの様に、慌てて頭に手をやり耳を隠した。
「…………あのさ、あたしは半獣」
「黙れっ!! 人間のフリして俺を、村の奴らを騙してたのかッ!?」
「そんなつもりは……」
「じゃあ、何で隠してたッ!!」
「コホーッ」
こうなる事が分かってたからだよ。
そう言って健太郎が肩に置いた手をケビンは振り払った。
そのまま、自分のテントの片付けを始める。
「ケビン、あたしゃ確かに半獣人だけど、人間に育てられてこの国で生きて来た王国の民だよ」
「そうかもしれないが、半分獣人だろうがッ!?」
「コホーッ」
ケビン、落ち着け。ミラルダの出自が何であろうが、彼女が良い子である事に変わりはないぞ。
「うるさいッ!! モンスターは黙ってろッ!!」
クッ、怒りで話を聞いてくれそうに無いな……致し方無い。
健太郎は自分の胸を左の拳でドンッと叩いた。
「あっ、ミシマ……」
何をするつもりか悟ったミラルダが咄嗟に頭の上の耳を伏せその上から手を当てる。
『話を聞けッ!!!! このバカちんがッ!!!!』
ケビンの肩に手を置き強引に振り返らせた健太郎は、大音量の合成音声と共に彼の頬を張った。
「ブベッッ!?」
張られた勢いでケビンの体はクルリと一回転し頬を押さえ地面に座り込む。
『ミラルダが半獣人である事を隠していたのは、あんたみたいな反応をされる事を知っていたからだ!!!!』
「ッ!?」
声が響くたび、ケビンは頭を抱え体を小刻みに揺らした。
『彼女が半獣人な事よりも大事な事があるだろうがッ!!!! お前はリリンを助けたく無いのかッ!!!!』
「クッ!!! ……はぁ……はぁ……デカい声張り上げやがって……そんなの助けたいに決まってるだろうが……」
『じゃあ、俺達に協力しろッ!!!! 俺が必ずお前の大事な人を取り戻してやるぜぇッ!!!!!!』
ぜぇッ!!!!! ぜぇッ!!!! ぜぇッ!!! ぜぇッ!! ぜぇッ! ぜぇッ……。
いつかの様に山に健太郎の発生させた大音響が木霊した。
やがてその残響も消え、彼はそっと胸を閉じる。
「クッ……はぁ……なんて大声出しやがる……まだ頭がクラクラするぜ……」
「コホーッ?」
どうだ。怒りも吹き飛んだろう?
自分のこめかみをツンツンと突っつき、パッと手を広げた健太郎にケビンは顔を顰め答える。
「……チッ、確かに頭に上った血はどっか行っちまったよぉ……はぁ……あんた、ホントにリリンを取り戻してくれるのか?」
「コホーッ!!」
当然だぜッ!! ギュッと親指を立てた右手を突き出した健太郎を見て、ケビンは滅茶苦茶な奴だと呆れが多分に混じった苦笑を浮かべた。
「黙ってて悪かったよケビン、でもリリンや他の娘を助けるって言葉に嘘はないよ」
「……あんたの事、今は半分信じてやるよ……もう半分は実際リリン達を取り戻してからだ」
「それでいい」
ミラルダはケビンに歩み寄り座り込んだ彼に右手を差し出した。
ケビンはゆっくりと差し出された握り返す。
そんな彼にミラルダは微笑み、それを見たケビンはきまり悪そうに口を尖らせ視線を逸らせた。
そんな二人の様子を見た健太郎が心の中で苦笑を浮かべていると、周囲の茂みがガサガサと鳴り小柄な複数の人影が健太郎達を取り囲むように姿を見せた。
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