国境近くの長閑な村で
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王国の南部、のどかな畑の間、国境へ続く道を青黒い一台のバイクが爆音を響かせ土煙を上げながら走っている。
そのシートの上には黒革のツナギに身を包んだ赤い髪の女性が腰を下ろしていた。
「しかし何だねぇミシマ。やっぱり乗り合い馬車とかの方が良かったんじゃないかねぇ……」
「ブイィィィン!?」
何を言ってるんだミラルダ!? せっかく長距離を高速で移動できる手段があるのに使わないのは勿体ないだろ!?
「はぁ……何を言ってるのか分かんないけど、どうせ早いから便利とか言ってんだろ?」
「パラリラパラリラ!」
事実、早いじゃないかッ!
「そりゃ、あんたが普通の馬に変身出来るなら、あたしも文句は言わないよ。でも異界の乗り物なんて……目立ってしょうがないよ……今だってすれ違った馬車の連中、目を丸くしてたよ」
フフッ、それはこのバイク形態がカッコイイからさッ。
健太郎は日本にいた頃、バイクに乗った事は車の免許を取得した際の原付講習ぐらいしか経験は無かった。
だが、変形し風を切り走る事はとても心地よかった。
出来るならこのままずっと走り続けていたいぐらいには、彼はバイク形態を気に入っていたのだ。
「ふぅ……どうせ変形するならタケボウキンにでもなってくれりゃあ……」
ミラルダが口にしたタケボウキンとは、夢世界版ドラ○もんに登場する文字通り竹ぼうきを模した魔道具で、日本人が想像する魔女の様に乗れば自由に空を飛べるという代物だった。
ミラルダは勿論、飛行魔法である飛翔を使えるが、あれは限られた時間しか飛ぶ事が出来ない。彼女は幼い頃に読んだ漫画の様に、ほうきにのって自由に空を飛び旅をしてみたいと密かに憧れていたのだ。
「ブイィィィン……」
タケボウキン、空を飛ぶ例の奴か……スラスターで飛んだ事はあるがアレはコントロールが効かないしな……キューがデカくなれば背中に乗って飛べるかもだが、あいつが人を乗せて飛べるようになるには何年かかる事やら……。
健太郎とミラルダはそれぞれがそんな事を考えながら、街道を行きかう人や農作業をする者達の注目を集めつつ王国を南下した。
■◇■◇■◇■
辿り着いたレフト村はまさにザ・農村といった雰囲気の村だった。
ただ、獣人の襲撃を警戒してか村の周囲には木の塀が作られ、所々に簡素な槍と木の盾を持った見張りが立っている。
そのレフト村の門の前で現在、健太郎とミラルダは見張り役のクマ髯のおっさんに止められていた。
「デニスから依頼を受けたぁ? チッ、あいつ、村の暮らしが嫌になって逃げだしたくせに……」
ミラルダとミシマが見せたギルドの認識票をチラリと見ておっさんは顔を歪める。
「デニスが何をしたかは知らないよ。あたしらはギルドを介して依頼を受けただけだからね」
「奴の依頼って事はリリンの事だろう?」
「そうだよ、なんか知ってんのかい?」
「……攫われたのはリリンだけじゃねぇ。俺の娘も……他の奴らのかみさんや家族も攫われたんだ」
そう話したゴドリフの顔は苦痛で歪んでいた。
「コホーッ」
んじゃその人達も助けるとしようよ。
健太郎のジェスチャーにミラルダは頷きを返す。
「そうだね、連れ去られた人数と攫った奴らが何処に向かったか……まぁ、南なんだろうけど……詳しく話を聞かせておくれ」
「……俺の娘も助けてくれるのか?」
「ついでだからね」
「そうか……あいつらの後を追った奴が村に戻って来てる、そいつと話してみてくれ。こっちだ」
そう言ったおっさんの顔には、先程までは無かった明るいものが浮かんでいた。
■◇■◇■◇■
案内されたのは藁葺き屋根の小屋だった。
小屋の周囲には一部、壁の無い作業小屋が立てられ、動物の皮だと思われる物が木枠にピンと張られている。
「コホーッ」
あれは多分、皮を鞣す為の設備だろう……この感じだと猟師さんだろうか……。
「ここだ、ケビン! リリンを探してクルベストから冒険者が来てるッ! 話を聞かせてくれッ!」
暫くして憔悴した顔の黒髪の男が小屋から顔を覗かせた。
「リリンを……クルベストの冒険者が何で?」
「デニスが依頼を出したらしい」
「デニスぅ……妹が攫われたってのに帰りもしねぇ奴が今更……」
男の荒んだ目がミラルダと健太郎に向けられる。その際、健太郎が人では無いと気付いたケビンは一瞬、驚きの表情を見せた。
「コホー?」
何かな?
「……ゴーレムを使役……そんな一流に依頼を……デニスの野郎、一応、妹の事は心配してんだな……いいだろう、何が聞きたい?」
どうやら健太郎を連れたミラルダを見て、ケビンは彼女が一流冒険者だと勘違いしたようだ。
そういえばリゼルのゴーレム、なんちゃらグレートはドラゴンにも勝てるとか言ってたっけ。
それを考えればゴーレムを引き連れてる冒険者は、それだけで一目置かれる存在だという事か……。
「……攫った奴らが向かった先の詳細を教えておくれ」
ミラルダもその方がいいと踏んだのか、あえてケビンの誤解を解く事無く質問を返した。
「条件がある……俺も一緒にロガエストに連れていけ」
ケビンは荒んだ目をギラギラと光らせミラルダに言う。
「男のあんたは見つかったら、殺されちまうかもしれないよ?」
「それでも構わねぇ……どうしてもリリンを取り戻したいんだ……」
彼の顔は真剣で本気だという事がその表情から窺えた。
「……大事な人なんだね?」
「ああ、俺の命よりも大事な女だ」
「コホー」
ミラルダ、連れて行こう。もし危なくなってもバイクになって逃げればいい。
「……そうだね……ケビン、一緒に行こう。道案内しておくれ」
「勿論だ……今から出たら夜になっちまう、今日は村長の所にでも泊まってくれ。明日の早朝、出発。それでどうだ?」
ケビンは空を見上げ太陽の傾きを確認するとミラルダに尋ねる。
「明日の早朝だね。了解だよ」
「よし、じゃあ、ゴドリフ、こいつら村長んトコ案内してやってくれ。俺は明日の準備をするからよ」
ミラルダが同行を了承した事で、荒んでいたケビンの目には光が戻った様に健太郎には感じられた。
「……分かった。二人ともついて来てくれ。村長に紹介する」
「あいよ」
「コホー」
クマ髯のおっさん、ゴドリフの案内で健太郎達は日が傾く少し前、穏やかな日差しの下をレフト村の村長宅へと向かった。
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