獣人の国と砂漠の竜
レベッカ婆さん(幽霊)の言葉をミラルダに伝え、彼女と共にギルドの依頼(人助け系)をこなす事にした三嶋健太郎(24)。
まぁ、依頼は全て人助けともいえるが、どうせやるなら素材集めとかではなく人々の安全、人命に関わる依頼の方が達成した時の方が感謝の度合いが大きい筈だよな。
そう考えた健太郎はミラルダとも相談し、ギルドの受付であるクニエダにそういう依頼が無いか尋ねる事にした。
ちなみにレベッカ婆さんには家に残って貰う事にした。ミラルダがどうせ小言を言うつもりだと彼女の同行を拒んだ事と、健太郎も二人の間で橋渡しをする事に疲れたからだ。それにやっぱ幽霊だし、笑うと怖いし……。
婆さんは不満そうだったが、拝み倒して何とか家にいる事を了承してもらった。
「安全及び人命に関わる依頼ですか……あるにはありますが……かなり難しい依頼ですよ?」
そう言ってギルド職員のクニエダはクイッと押し上げた眼鏡を光らせた。
「コホーッ!」
望む所だッ! 難しい方がきっと依頼主も強く感謝してくれるだろうし、そうすりゃミラルダの評判も良くなるってもんだしな!
「難しいって具体的にはどんな依頼なんだい?」
「誘拐された女性の捜索と奪還です……ただ、誘拐したのは獣人で連れ戻すとなると獣人の国、ロガエストに潜入する必要があります」
「ロガエストに……依頼者は?」
「ベック商会のデニスさんです……どうします、お受けになりますか?」
クニエダは眼鏡を押し上げ、健太郎とミラルダに視線を送る。
デニス、素材屋の小太りの男で妹が獣人に攫われたと言ってたな。
「どうするミシマ、あたしはベック爺さんの話を聞いてから、ちょっと気になってたから受けたいんだけど……」
ミラルダは眉根を寄せて少し上目遣いで健太郎を見る。
「コホーッ!」
ミラルダが気になっているなら受けようッ! 獣人ってのがどんな奴らなのか見てみたいしねッ!
健太郎が親指を立てると、ミラルダは「いいんだね?」と微笑みを浮かべた。
「クニエダさん、その依頼、受けるよ。詳細を教えとくれ」
「分かりました……依頼は一月程前、フィッシュバーン領から南、国境近くの農村レフトで攫われた、依頼者の妹リリンさんの奪還です……もし亡くなっていたなら、せめて遺品を持ち帰って欲しいとの事でした」
「わざわざ攫って行ったんだ。殺されてるって事は無いと思うけど……」
「そうですね。依頼者であるデニスさんも、妹は生きてる筈だと仰っていました……私もそう思います」
「コホーッ?」
健太郎は筆談可能なクニエダに日本語で問いかける。
クニエダ君は何でそう思うの?
「何で、ですか……ミラルダさんを前にしては少し言いにくいのですが……」
「あたしゃ気にしないよ」
「そうですか、では…………獣人は攫った女性に子供を産ませるんですよ……どうもロガエストでは現在、砂竜が暴れている様でして、その影響で子供、老人、女性と肉体的に弱い者を中心にかなりの被害が出ているみたいなんです。それを補う為に子供を生める若い女性が必要だとか」
クニエダは眼鏡に光を反射させ、感情を込めず淡々と情報だけを述べた。
攫った女性に子供を……もしかしたらミラルダもそんな風にして生まれた者の一人なのかもしれない。
そう思い、健太郎はチラリとミラルダに視線を送ったが、彼女は特に気にした様子も無く口を開く。
「砂竜か……そりゃ厄介だね」
どうやら彼女はモンスターの被害の方が気になったらしい。
そう感じた健太郎は話題を変えようと、砂竜について尋ねるべく紙にペンを走らせる。
「コホーッ?」
砂竜ってどんな奴なの?
「砂竜はその名の通り砂漠を縄張りにしている竜です。大きさは牛を一回り大きくしたぐらいですが数が多く、空を飛び群れでオアシスや砂漠周辺の村や街を襲います……獣人がこの国にちょっかいを出しているのは、砂竜のいない安全な土地を欲しているというのが理由ではないかと、我が国では考えられています」
「あたしが聞いた話じゃ砂竜に襲われた村は人だけじゃ無くて、家畜も作物も根こそぎやられるらしいよ。そうしてやられた街や村は砂漠に飲まれていく……獣人はやっぱり好きになれないけど、少し同情しちまうねぇ」
根こそぎ……そんな事されたら生きてけないじゃん。
空を飛び群れで街を襲い全てを食い散らかす、健太郎は何となく蝗の群れを想像してしまいブルッと体を震わせた。
「ロガエストは中央で砂漠化が進んでいて、その周辺に人々は街を築き暮らしているそうです……そんな状態で獣人達も遠征をする余裕は余りないでしょうから、半獣人のミラルダさんであれば、レフト村から近い国境付近の獣人の集落を回れば情報が得られるのではないかと」
「ふぅ……情報ねぇ……半獣人で得した事なんて無かったけど、確かにあたしとミシマなら普通の人間よりは楽に話が聞けるかもしれないねぇ」
「コホーッ?」
半獣人は獣人達に嫌われてるんじゃなかったの?
健太郎がジェスチャーでミラルダに尋ねると、彼女は頷きを返す。
「嫌われてはいる筈だよ。国境じゃ人間と獣人が殺し合いをしてるらしいからねぇ……でもまぁ、クニエダさんの人間の女性に子供を生ませてる話が本当なら、彼の言う様に半獣人のあたしなら話ぐらいは聞いてくれるんじゃないかねぇ。それにほら、ミシマはカテゴリー的にはテイム出来るタイプのモンスターだからさ。人間みたいに憎しみとかはあんまり抱かれない筈だよ」
「コホー」
モンスターより人間が嫌われてるのか……やっぱ戦争って禄でもないな。
「まぁ、さっき話に出た砂竜みたいな厄介なのもいるけど、基本、モンスターは縄張りに入らなきゃ大丈夫だからねぇ」
「コホー……」
そうなんだ……。じゃあ俺があの竜に食われたのは奴の縄張りに入ったからって事か……俺の無意識よ、夢の始まりをそんな場所にするんじゃないよ……。
健太郎が静かに己の無意識に苦情を入れていると、クニエダが書類をカウンターに置いた。
「ではこの依頼を受注するという事でよろしいでしょうか?」
「ああ、ミシマも大丈夫かい?」
「コホーッ」
健太郎がビッと親指を立てるとクニエダは小さく頷き、スッと書類を二人の前に差し出す。
「ではこちらにサインを……」
ミラルダは自分の名前と、この国の文字の読み書きが出来ない健太郎の名前を書類に記載した。
「確かに……まずは攫われたリリンさんが暮らしていた村、王国南部の国境近く、レフトの村で話を聞く事をお勧めします」
書類を確認したクニエダはそうアドバイスを口にした。
「南部のレフトだね……デニスの名前は出していいのかい?」
「ええ、問題ないと思います。その方が村の人たちも恐らく協力してくれるでしょうし……ただ、ミラルダさんが半獣人だという事は隠しておいた方がいいでしょうね」
「分かってるよ……さて、それじゃあミシマ、準備をして冒険と行こうじゃないか」
「コホーッ!!」
冒険か……何だか興奮して来たぜッ!!
「ブシューッ!!」
その興奮は激しく蒸気を発生させてギルドのロビーを白く染めた、そんな健太郎を見てミラルダとクニエダは顔を見合わせ苦笑を浮かべた。
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