喧嘩するほど仲が良い
健太郎が目を覚ますと視界には見慣れた木の天井が映し出された。
どうやら気絶した健太郎をミラルダ達が運んでくれたようだ。
しかし、あの婆さん、ミラルダの師匠らしいけど幽霊になって彼女や家族を見守っていたとは……。
心温まるエピソードでそれはいいんだけど……俺、怖いのはホント駄目だからあんま見たく無かったなぁ……。
コホーッとため息を一つ吐いて、健太郎は上体をベッドから起こして横に向きベッドに腰かけた。
"起きたのかい?"
「コッ、コホーッ!?」
背中から掛けられた声に怯え、健太郎は床の上を四つん這いになって壁際へと逃げた。
その音を聞きつけて部屋の外からバタバタと足音が響き、ドアが激しくノックされる。
「ミシマッ、大丈夫かいッ!? はっ、入るよッ!?」
ガチャリとドアノブが回され、部屋着のミラルダが慌てた様子で健太郎にあてがわれた部屋に駆け込んで来た。
健太郎は入り口近くにいるミラルダに床の上を這って近づくと彼女の足に縋りついた。
「コッ、コホーッ、コホーッ!!」
ミッ、ミラルダ、声が、婆さんの声が聞こえるんだッ!!
「何々、師匠の声が聞こえるねぇ……闘技場の時も思ったんだけど、ミシマ、あんた、どうやら祓魔師とかが使える霊視と霊聴が出来るみたいだねぇ」
「コッ、コホーッ!?」
れっ、霊視、それに霊聴!? なんでそんな能力がッ!? 俺は怖いの苦手なのにッ!!
「まぁ、そんなに怖がらなくても師匠なら悪い事はしないさ……それで師匠は何て言ってんだい?」
ミラルダは優しく微笑んで健太郎に尋ねる。健太郎も彼女の笑顔を見上げていると少し落ち着きを取り戻した。
何を言ってるかか……。まだ健太郎の中に不安と恐怖心はくすぶっていたが、ゆっくりと心の中で深呼吸をくり返し室内を見回す。
いた。ベッドの横の椅子に座りニヤッと微笑みを浮かべて、半透明の老婆が健太郎を見つめている。
「コッ、コホーッ?」
あの、何か言いたい事でも?
老婆に近づき首を傾げた健太郎に、彼女は片方の眉を持ち上げるとおもむろに口を開いた。
"フンッ、言いたい事は山程あるさッ! そこの馬鹿娘に伝えておくれッ! いくら仲間になってくれる奴がいないからって、罠の確認もせずにダンジョンをうろつくんじゃないよッ!! その所為で最下層にまで飛ばされてさッ!! まったくあたしがどんだけ気を揉んだと思ってんだいッ!! 大体、ミラルダみたいなちょっと抜けてる子が冒険者やるのはあたしゃ反対だったんだッ!! それを人が年取って動けなくなったのをいいことに好き勝手してッ!! あたしゃ心配で心配で死にきれなくてこうなっちまったんだよッ!!"
「コホー……」
はぁ……とにかく心配だったって事ね。
ミラルダの師匠、レベッカは相当溜まっていたらしく、物凄い勢いで健太郎にミラルダに対する不満をぶちまけた。
健太郎はジェスチャーを駆使し、先程のレベッカの愚痴をミラルダに伝える。
「何だって? あたしが抜けてるだって……師匠、そんな事言ったって、あたしゃ他の仕事は出来ないんだからしょうがないって何度も言ったじゃないかッ!」
"ああ、確かに何度も聞いたさ。そんで何度も反対したろ? ずっと見て来たけどねぇ、あんたが今まで生きて来れたのはただの運だよ。この前だってそのゴーレム、ミシマがいなきゃあんたは確実に大ムカデの腹の中さッ!"
「クッ、その通りだとは思うけど、あたしだってこれでも頑張って……まったく死んだ後も、口うるさい婆さんだねッ!」
"やかましいよッ! 口うるさく言わないとあんたはすぐに気を抜くじゃないかッ!"
会話は健太郎のジェスチャーを通して行われた。
「コホー……」
喧嘩は当人同士でやって欲しいんだが……そんな健太郎の願いも虚しく、彼を介した二人のやり取りはその後も暫く続いたのだった。
■◇■◇■◇■
「ドラ○もん、大変だったねぇ……トーマス兄が言ってたけど、ミラ姉、死んだおばあちゃんと喧嘩してたんでしょ?」
通訳に疲れてリビングのソファーに腰を下ろした健太郎の頭を、最年少のミミが背伸びしてよしよしと撫でる。
喧嘩の様な話し合いの後、ミラルダは疲れた、寝るといって早々に自室へと入ってしまった。
「コホー……」
そうなんだよ、ミミ……はぁ……本当に疲れたよ。レベッカ婆さん、幽霊なのに無茶苦茶元気なんだもん。
そう心の中で呟き、今度は健太郎がミミの頭を撫でてやる。
そんな二人に音もなく……幽霊なのだから動いても音が出ないのは当たり前だが……ともかくレベッカがスーと近づいて来た。
"さて、ミシマ、今後の事なんだけどねぇ"
「コホー……コホー?」
はぁ……まだ何かあるの?
ため息を吐き、首を捻った健太郎を見てミミが口を開く。
「どうしたのドラ○もん? あっ、もしかしておばあちゃんが……」
「コホー」
うん、なんか話があるみたい。ミミ、悪いけど向こうで遊んでてくれる?
「大事なお話だね? 分かったミミ、ケント兄達と遊んでくるね!」
「コホー……」
ミミ、本当にいい子だ……それで何の話?
表で遊んでいる腕白坊主のケントの所に向かったミミを見送り、健太郎は改めてレベッカに向き直り首をかしげる。
"今がどういう状況かは、ずっとあんた達を見て来たから分かってる……ただねぇ、伯爵の触れが出ても、街の奴らがミラルダを見る目が急に変わる事はないとあたしゃ思うんだ"
レベッカの言葉には健太郎も同意だった。
実際に獣人と戦っている兵士達や妹を獣人に攫われたという素材屋のデニス等、被害にあった人々達はいくら伯爵である角刈りおじさんが差別するなと命じても、気持ちはそう簡単に切り替えられるものではないだろう。
そう考え、頷きを返した健太郎にレベッカも同様に首を小さく縦に振る。
"でだ。それを払拭する為にこれからは……ホントは冒険者なんて止めて欲しいんだけど……まぁ、確かにあの子の言う通り、今、ミラルダに出来る仕事は冒険者しか無いからねぇ……それでさ、積極的にギルドの依頼、人助け系の物をこなして欲しいのさ"
「コホー……コホーッ!」
なるほど人助け……確かに助けてくれた人間に悪感情は抱きにくいよな。任せな婆さん!
健太郎はギュッと親指を立てた健太郎を見て、レベッカは満足そうな笑みを浮かべた。
"あの子が街の住人に受け入れられて他の仕事に付けたら、きっとあたしも消える事が出来ると思うんだよ……ミシマ、すまないがその手助けをしておくれな"
「コホーッ!!」
勿論だ!! 今の俺はミラルダとその家族を幸せにする為に動いているからなッ!!
両腕で大きく丸を作った健太郎を見て、レベッカは「ヒッヒッヒッ、よろしく頼むよぉ」とニタリと笑う。
「コッ、コホーッ!」
レベッカの笑みを見た健太郎はそれ止めてくれないかなッ! と思いつつビクリッと体を震わせた。
お読み頂きありがとうございます。
面白かったらでいいので、ブクマ、評価等いただけると嬉しいです。




